第29話 年末年始の帰省①
12月28日を以て仕事納めとなった悠は1月の第二週までが休みとなる。
今年は土日と上手くタイミングが重なり、長期間の連休となったのだ。
悠は毎年、29日から1月3日までは実家へ帰るのがルーティンとなっており、今年は澪桜も連れて帰省することを両親に連絡していた。
「もしもし母さん、久しぶり。元気か?」
「悠?久しぶりね〜。もお、たまには連絡くらいよこしなさいよ?」
「ごめんごめん。仕事が忙しくてなかなかな。それで、帰省の件だが、今年の年末年始もいつもの期間で帰るよ。それで言って無かったんだけど、俺彼女が出来て同棲してるんだ」
悠はさらっと今の状況をカミングアウトする。
「え…?あなた彼女出来たのっ!?し、しかも同棲!?お相手のご両親は何て言ってるの?」
「もちろん結婚を前提に付き合っているとしっかり挨拶をして許可は貰ってる」
澪桜は悠の隣でニヤニヤしながら独り言を呟いている。
「も、もぉ悠くんたらっ。結婚だなんて♡」
「け、結婚!?あなたそこまで考えていたの?母さん初耳過ぎて混乱してきたわ…」
電話越しでも母親の驚き様が伝わってきて悠は苦笑する。
「驚かせて悪かったよ。凄く良い子なんだ。それでだ、今年の帰省は彼女と一緒でも良いかな?今後いつかは挨拶とかもあるだろうし、どうせならちゃんと紹介したいんだが」
「うちはもちろん大丈夫よ。彰さんもきっと喜ぶわ。でも彼女さんは嫌じゃないのかしら?あなた、無理矢理連れて来るのは可哀想よ?」
悠の母の言葉が電話越しに聞こえたのだろう。
澪桜は電話で先に挨拶をしようかと合図してくる。
「澪桜もうちの実家が大丈夫なら是非と言ってるよ。今隣にいるから電話変わろうか?」
「あら?今いるの?なんだか緊張してきたわ」
悠は澪桜に電話を変わる。
「もしもし?初めまして。初めての挨拶が電話で大変申し訳ありません。お邪魔する前に挨拶だけでもと思いまして。改めて悠さんとお付き合いさせて頂いております綾瀬澪桜と申します。どうぞよろしくお願いします。」
「こちらこそ、そんなご丁寧にありがとうございます。うちの息子がお世話になっています。同棲までさせて貰っていると今日初めて知ったのよ。こちらこそ挨拶が遅くなってごめんなさいね?」
「とんでもございません。年末年始という時期にお邪魔させて頂くのは大変恐縮ですが、もし宜しければきちんと挨拶させて頂ければと思いまして…」
「うちはもちろん大歓迎よ?綾瀬さんが嫌で無ければ年末年始はうちでゆっくりして行って下さいな」
「ありがとうございます!とても嬉しいです。それではまたお会いしたときによろしくお願いします。悠さんにお電話戻しますね」
悠は澪桜から電話を受け取る。
「とても良い子だろ?ということで大丈夫かな?」
「びっくりするくらい丁寧な子ね?まあそういう人を選ぶのはあなたらしいけど。さっきも言ったけど、綾瀬さんが大丈夫なら大歓迎よ?彰さんと凛にも言っておくわ。二人ともきっとびっくりするでしょうね?あんなに女の子の影がなかった悠に同棲までしてる彼女が出来たなんて聞いたら」
「凛は面倒そうだなぁ…」
「ふふ。あの子はお兄ちゃんっ子だからね〜」
「19歳であれは大丈夫なのか…?」
「そのうち彼氏でも出来たら兄離れするわよ。それじゃあ29日待ってるわ。気をつけて来てね?」
「おう。それじゃあまた。」
電話を切った悠は、隣の澪桜を見るととても緊張した顔で座っていた。
「全然大丈夫だっただろ?」
「は、はい。でも人生で一番緊張しました…私上手く話せてましたか?」
「いやいや完璧だったぞ?母さんもびっくりしてたくらいだし何の問題もないよ」
悠の言葉を聞き、澪桜はホッと胸を撫で下ろす。
澪桜の手は胸に沈んでいた。
うん。その手が羨ましい…
「そ、それならいいのですが…当日はもっと緊張しそうです。お父様もいますし」
まあ、男、女関係なく、交際相手の親に挨拶するのは緊張するものだろう。
「そ、そういえば、悠くんの妹さんって19歳と聞こえましたが、10歳も年が離れてるのですか?」
「そうなんだよ。歳が離れた妹でね。澪桜と仲良くやってくれたら嬉しいな」
「もちろんです!悠くんの妹さんならいつか私の義妹に…きゃっ♡」
澪桜は自分の言葉に照れていた。
そんな澪桜を見て悠は笑う。
そして帰省の日はあっという間にやってくる。
悠の実家は今住む街から車で4時間程離れた田舎だ。
綺麗な川や豊かな自然に囲まれ、悠達の住む場所とは正反対の環境であった。
「悠くん運転疲れてないですか?結構な時間が経ちますが」
「全然大丈夫だよ?毎年車で帰ってるし、こんな田舎で澪桜はつまらないかもしれないけど」
「全然そんなことないです!私、自然が好きなのでなんだか癒されます。こんなに綺麗な川なかなか見れませんから」
澪桜は車の窓から見える川を眺めながら嬉しそうに笑う。
「気に入って貰えると嬉しいな。実家も車で少し動かないと何もない場所なんだけどな」
「ここが悠くんが育った場所なんですね。小さい頃は普段何をしていましたか?」
「そうだな。本当に何もないから、川で泳いだり虫取りしたり、釣りとかくらいしかやることなかったな」
思い出すと、子どもの頃は自然と戯れて遊ぶくらいしかやることがなかった。
まさにゲームである僕のなつやすみがしっくり来る。
「私はそういう環境で育つ方が感性豊かな子に育つと思いますよ?それに悠くんが育ったこの場所にとても興味があります!」
澪桜は外の景色を見ながら興味津々になっていた。
「実家に着いたら、ちゃんと案内するよ」
「ありがとうございます。嬉しいです♪」
しばらくすると、悠達は実家に到着した。
悠の実家は田舎ならではの広い敷地の中に母屋と離れがあり建物は和風な感じ。
母屋は最近リフォームしたこともあり、和風ながらほぼ新築になっていた。
「長時間ただ乗ってるだけで疲れたよな?到着したよ。お疲れ様」
「いえいえ。悠くんこそ長い時間運転お疲れ様でした。それにしても、これから悠くんのご両親に会うと思うと緊張してしまいますね…」
澪桜の表情はやや強張っているように見える。
「大丈夫だよ。うちの親は二人とも緩いからさ」
悠は澪桜の手を握りながら安心させる。
二人は車から降りると、荷物や澪桜の用意した手土産を持って母屋に向かう。
すると、玄関から女性が一人出てきた。
「久しぶり悠。あら!こちらが彼女さん?とても可愛い子ね!初めまして。私は悠の母の志保です。よろしくね」
志保はどことなく目が悠と似ているが少し垂れ目、整った目鼻。
スレンダーで背は高め、見た目は色白で結構若く見える美人さんだ。
この人から悠くんが産まれたと言われれば納得出来る。
「こちらこそ!初めまして。綾瀬澪桜と申します。今日はお招き頂きありがとうございます。悠さんにはいつもお世話になっております。今後もどうぞよろしくお願いします」
澪桜は丁寧にお辞儀をしてから志保に手土産を渡す。
「あらっ。わざわざありがとね!気を使わせちゃってごめんね。それじゃ、そろそろ中に入りなさいな」
志保は二人を中に通す。
母屋は広い。
澪桜の家よりも広いだろう。
ただ、澪桜の家は洋風で悠の家は和風なのでまた違った趣きがあった。
「お邪魔します。悠くんのお家広いですね?」
「田舎の家だからな。澪桜の家も同じくらいじゃないか」
「そういえば悠?澪桜ちゃんはどこに寝てもらう?部屋は沢山余ってるけど、同棲してるなら悠の部屋でも良いのかしら?」
「俺の部屋で良いよな?いつも一緒に寝てるし問題ないだろう」
「は、はい。悠くんのお部屋で…お願いします…」
澪桜は恥ずかしそうにしながらも悠の部屋を選んだ。
「ふふっ。二人とも熱々ね?まあお互い大人なんだし結婚考えてるくらいなら何も言うことは無いわ」
「は、はい…ありがとうございます…」
「はぁ〜早く孫の顔が見たいわ♪でもあなた達あまり張り切り過ぎないでね?隣に凛もいるからっ」
志保はいたずらっぽく笑う。
「さ、さすがにその辺は弁えてるから大丈夫だ!」
親にその他の話をされるのは悠といえど流石に慣れていないせいか、たじたじとなっている。
澪桜はもう恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら手で顔を隠していた。
二人はリビングに行くとこたつに入り、志保がお茶の用意を始める。
「父さんと凛はどうした?」
「彰さんは凛と一緒に買い物よ。年末は買うものが多くて凛も手伝いで一緒に行かせたの。もうすぐ帰ってくるわ」
悠は久しぶりの実家にホッとしているが、澪桜は初めての彼氏の実家ということもありそわそわしている。
そこで、テレビ台に置かれた悠達の写真を見つけて興味を持ったらしい。
「あ、あの。悠くんのお母様?こちらの写真は悠くん達の子どもの頃の写真ですか?」
「そうよ〜。これはまだ幼稚園くらいの頃かしらね。可愛いでしょ?後で悠のアルバム見せてあげるわ」
「はいっ!とても可愛いです〜♡悠くん小さい頃はこんなに可愛かったのですね?」
澪桜は子どもの頃の悠を見て大興奮していた。
アルバムとか言ってたな。
かなり恥ずかしいが、澪桜が喜ぶなら別にいいか。
「こっちは妹さんですか?悠くんは美形ですが、やっぱり兄妹だけあって美人ですね」
「そうかな?まあ凛は世間一般ではモテる方なんじゃないか?」
そんな話で盛り上がっていると、敷地に車が入ってくる。
どうやら父と妹が帰ってきたようだ。
「ただいま〜。兄さん帰ってきてるの?」
玄関から買い物袋を持ってパタパタとリビングに小走りで入ってきたのは妹の凛であった。
「わぁ!兄さん久しぶりっ。元気だった?」
「おう。久しぶりだな。凛も元気にやってたか?後、こちらが彼女の澪桜だよ。話は聞いてただろ?」
「あっ…初めまして。一条凛です。いつも兄さんがお世話になってます。」
凛は少しだけ複雑そうな顔をしながらもぺこりとお辞儀をして挨拶をする。
凛はダークブラウンでセミロングの髪をハーフアップにしている。
色白で悠に似た目に整った目鼻立ちの美人で身長は澪桜よりも高い163センチくらいのスレンダー体型。
スタイルは母親の志保譲りなのだろう。
「こちらこそ初めまして。悠くんとお付き合いさせて頂いております綾瀬澪桜です。これからよろしくお願いしますね」
澪桜はニコッと笑い、凛を見る。
「に、兄さん…こんなに可愛い彼女出来たんだ…そ、それになんて大きい…私じゃ到底…」
凛はがっくしと肩を落として落ち込んでいた。
「そりゃ、母さんの娘だからな…でも大丈夫だ。お前の魅力に気づく男はすぐに出てくるさ」
悠も諦めろと顔を左右に振りながら凛を慰める。
「とかいって、兄さん思いっきり巨乳でめっちゃ可愛い彼女作ってるじゃん…」
凛は拗ねたようにジト目で悠を睨みつける。
「お、おいそこで選んだみたいな事いうなよな。澪桜、違うからな!?」
「わ、私は別に悠くんが好きなら気にしませんけど…?」
凛はそんなやりとりを見て目に涙を浮かべながら自分の胸を手で持ち上げていた。
「わ、私だってない訳じゃ…」
そんな時、お茶を持ってリビングまで来た志保は凛を見て状況を理解した。
「凛…私も思ったわ。ごめんね?私達の遺伝子では無理よ…」
一条家の女性陣は澪桜を見て大ダメージを受けるのであった。
「兄さん…後で話があるから…逃げないでよね?」
そして悠は凛からのお呼び出しを受けるのであった。
その場が落ち着いたところで、父が帰宅する。
「ただいま。おお悠。帰ってたか。久しぶりだな元気だったか?それと隣のお嬢さんが彼女さんかな?初めまして悠の父の彰です。よく来たね。よろしく頼むよ」
彰は悠と似ていた。
話し方や雰囲気、顔も全体的に悠が歳を取ったらこうなるだろうなと思う。
声も渋くダンディで美形な男性だ。
そこには威厳すら感じる。
「は、初めまして!悠さんとお付き合いさせて頂いています綾瀬澪桜です。年末年始の大切な時期に呼んで頂きありがとうございます。どうぞ今後もよろしくお願い致します」
澪桜は緊張しながらも丁寧に挨拶をする。
「とても丁寧でよく出来たお嬢さんだね。それに美人さんで物腰も柔らかい。悠、良い子を見つけたな?これは凛が騒ぎそうだ」
彰は苦笑しながら涙目な凛を見る。
「まあ何もない場所だがせっかく来たのだ。悠に色々案内でもして貰いながら遠慮せずにゆっくり過ごすといいよ」
「はいっ!ありがとうございます」
澪桜は彰に認めてもらえたことが嬉しいのかとても安堵していた。
こうして、一条家での年末年始が始まるのであった。
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