第6話 婚約者とヨリを戻しますの その1

 怪我をしたセバスティアンを連れて馬車に戻ろうとした時だった。


「マルガレーテ、何故ここに。部屋で休んでいるのでは無かったのか」


 フェリクス王子が護衛を一人連れて現れたのは。


(あちゃー。私がパーティサボってここにいることがバレちゃったわ。でも、展開としてはゲームのシナリオ通りね)


 原作通りの展開なら、ここでヨハナと王子が婚約をしてしまう。何としてもそれを阻止しなければ私と家族は追放だ。彼がヨハナに話しかける前に仕掛けないと。口を開きかけた時、更なる質問が飛んで来た。


「しかも、その格好は一体……」


(しまったー。猫耳つけたままだった!)


 すぐさま外して背中に隠す。オホホ、と笑ってごまかすしかない。


「ああ、可愛かったのに」


 ヨハナが肩を落とす。


(姐さんってしょんぼりするんだ。ゲームでもこんなの見たことない)


 衝撃的過ぎて、一瞬何を話すべきだったのか忘れかけてしまった。首を振り、気を取り直して王子に尋ねる。


「あら、フェリクス様。貴方こそどうしてこちらにいらっしゃるの?」

「それは……ヨハナの姿が見当たらなかったのでね」


(やっぱり探しに来てたんじゃないの)


 予想できたこととはいえ、彼女を妃に迎える心づもりでいるのだと思い知らされると、胸が締め付けられる。


「そりゃどうも」


 ドドドドド、と連続で弾丸が飛んでいった。咄嗟に耳を塞ぐ。


(姐さんいきなり撃つのは辞めてください。そういう躊躇しないところは素敵だけど、鼓膜が破れてしまうわ)


「君は相変わらず素っ気ないな」


 王子は綺麗なままその場に立っていた。背後にあった木の枝が折れて、落ちていく。


「姐さんの弾が当たらないって、一体、どうなってるんですか」


 ルッツが顔を顰めた。ヨハナも悔しそうにしている。


「避けるのは得意だからね」


 王子は目を伏せ、そう吐き捨てた。


「当たりたがりのようなことを言いながら避けるのか。所詮は臆病者という訳だ」


 ヨハナの呟きには殺気のような気迫が滲み出ている。やはり、彼に恨みがあるみたいだ。一方で、王子は私の方に向き直った。


「ところで、マルガレーテ。君がここにいるということは、呼び出したのかい? 彼女を」


 侮蔑すら込められた表情で見つめられる。負けちゃダメよ私。ヨハナは許してくれそうな雰囲気とは言え、油断は禁物。二人が良い感じの雰囲気にならないうちに引き離して、説得にかからないと。


「ええ、まあ、そんなところかしら。あー、そうそう。ちょうど貴方と二人でお話をしたいと思っていたところでしたの」

「君に言うことはないと、伝えたはずだが」

「こっちはあると言っているの。良いから来る」


 敬語を使うのも忘れて、金糸の織り込まれた袖を引っ張った。振り返ってヨハナとルッツに手を振る。


「今日は本当にごめんなさい。二人とも、また明日」

「別にまだ許した訳ではありませんから、調子に乗らないでください」


 ルッツが銃を構えたのをヨハナが抑える。


「辞めておきな。今の君では当たらないよ」

「でも……」

「様子見だ、今のところはね」


 不穏なこと言ってる、と思いながら王子を馬車まで連れて行った。

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