第12話:壊れたアクセサリー


不苦告影炎鬼楽忌蘭フクツエイエン キラキラ


 やつの周りからドス黒く、影と同化している様な、凄い見えにくい炎が現れる。

 やつから感じる魔力、そしてこのネーミングセンス。間違いない、アイツだ。

 でも、髪色と雰囲気が明らかに違う。髪色が変わったとはいえ、魔力の感じもなんだか違う様に感じる。

 もしかして.....いや、まさかな。とはいえ今は逃げる事が第1だ。


速土逃装そくど とうそう


 俺は腰まで土を纏わせ、逃げる準備を整える。幸い、魔力を広げられたから、一時的に凌ぐ事もできるし、万が一喰らっても、強行突破出来るだろ。


(まずは退かす事からだな。土片隻壁どかたせきへき


ゴゴッ ゴゴッ ゴゴ


 やつに直撃する様に、横の壁から、分厚い土壁を迫らせる。

 魔力の関係で気付かれて、迫って来たらヤバいからな。九極土良流きゅうきょくどりるの準備しておいて、牽制しておくか。

 

「チッ......」 スッ


(いける。壁厚土牢へきこう どろう


 やつが前を蹴る様にして後ろに避けると、やつを全方位から分厚過ぎる程の土壁で囲う。


 前回破られた原因は、壁が薄くてすぐ消滅されたのがある。だったら表面の魔力を増やして、土の壁を分厚くすれば良い。


 やつが囲まれたのを魔力のなんちゃらで確認すると、すぐさま入り口へダッシュする。


(よし、このままいけば行けば.......ん?)


 足が急に重く感じ。思わず立ち止まった。


(なんだこれ......)


 足を見ると、見えにくい黒い炎がメラメラと燃えている。

 そして、その炎は徐々に腰まで上がっていく。

 

(このままだと、土に囲まれていないところにもいくな.....さて、どうすっか。この炎の詳細がわからん以上、あんま変な事はしたくない。様子見で土装を動かすだけでいいか。)


 腰までの土装を空中に移動させてから、少し離れた所に散らばらせる。

 足の方を確認しても、とくに違和感は無いし、黒い炎も無い。


(はぁ......何とかなったな。ただ、いつのまにか炎が付いてたんだ。しかも見えにくい状況。警戒するに越した事は......)


 ドゴーン ドンガラガッジャーン


「は?」


 大きな音が聞こえた方に向くと、崩れたであろう壁の残骸の土片がバッラバラに散らばっている。

 その散らばっている土片だらけの場に、1人立っている魔族。

 

(あ〜コイツあれだ。前回と全然違う。ヤバい。閉じ込めてから10何秒しか経ってないのにボロボロにされるとか想定外......やっぱコイツあれだ。壊したのか?魔封人化装飾まふう じんかそうしょくを......)


 魔封人化装飾......10何年前に起こった戦争で負けたドラゴンや、魔族なんかの人外の生物を、人の姿に強制的に変えさせる魔導具。これは、人型にするのでは無く、魔族の紫色の肌や、ツノがなくなり、完全に見た目は人になる代物だ。この効果を発揮するには、相応の魔力と知性が必要だ。


 代償として、その生物の特徴(ドラゴンだったら、ブレスと怪力と鱗)と、何か1つを犠牲にしなければならない。この何か1つというのは、者によって違い、感情の一部や、最悪視力までも奪われてしまう。


 はっきり言って、人外達にとっては足かせにしかならない。しかし、戦争で負けた奴に拒否権なんて無い様で、今では着けるのが義務となっている。そうしなければ、“魔物”として扱われ、なんちゃって冒険者などに駆除される。

 因みに魔物というのは、その魔導具を付けるのを拒んだ者か、付けられる程の、魔力や知性が無いモノのどちらかだ。


 そんな重要な魔導具を破壊すると、奪われた何か1つと、本来の力を取り戻して、元の姿に戻る。しかし、そんな重要な魔導具を破壊するのは、やむを得ない状況が無いと、破壊した奴は魔物扱いされる。


 今回、仲間のゴブリンを殺した奴に報復する為ってところか......多分壊してOKだな.....


(はぁ....逃げられるか?黒い炎は詳細不明。それに加えて、前回とは強さが全然違う、相手.....はぁ......罪悪感がどうとか言ってる場合じゃないな.....)

「はぁ.....来いよ破壊者。さっさと逃亡者にならせてくれ。」


 そう言った俺に、相手は少し怒りと興奮が混じった顔で


「少しは焦ったらどうだよ。」


 そう言い、相手が一歩踏み出す。


(感情をあんまり表に出すと、攻めるタイミングがわかっちまうだろうが。)


 


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