飛び入りがいたんだったわ

 楽しい時間もそうだが緊張してると特に時間が経つのは早い。


 まだかまだか、いやくるな。そんなやりとりをしているうちにこちらの舞台脇にいる人間はどんどん減っていく。


 割と会長の予想は当たったり外れたりしていたが、見たて通りイケメンは見事に彼女を作ってその他諸々イケてなさそうメンツは振られる。


 あーもうだめだこりゃ。


 ただそこらへんのやつの告白なんか見たくないと思えるのに盛り上がる。

 これなら振られてもネタになるのかな、なんて俺は俺を勇気付けてる。


「いやー順番ってくじで決めてるのになかなか盛り上がってるよね。カップルできたりとかいい仕事してない? あたし」


 いえーい! と熱狂する高校生たち。俺も出ればよかったって声も聞こえる。


 周りの仲間はいなくなった。次は俺だ。安心して砕けようと俺も戦場に向かう兵士のように舞台脇の階段に座り腹をくくる。


「じゃあ次は……あれ?」


 そんな俺をよそに会長はごそごそと箱を弄る。


「あーもうなくなっちゃった! もう終わりかな?」


 箱をひっくり返すと「えー!?」という声やざわつきの中会長はこちらを舞台から袖を覗く。

 そしてそれに対応するように今度は荒戸が袖から飛び出した。


「ちょっと会長! なにやってんですか! 後一人飛び入りでいたでしょ!」


 ……は? さっきから何が起きている。整理する時間がない。

 ポツンと舞台袖に残されて何をしたらいいっていうんだ俺は。


「あぁそうだった! 飛び入りがいたんだったわ! 早く連れてきて!」


 会長がパチンと手を合わせそう言うと荒戸はこちらに小走りする


「さぁモブだなんだって言ってるお前も舞台じゃ主役だ。好きにしてこい」


 袖に来ると同時に、荒戸は優しい笑顔でそんなことを言いながら俺の腕を引っ張って背中を叩いた。


 今なら雑用の腕章すらかっこよく見える。お前はやっぱり主人公だよ。

 それに……演出ってこの小芝居のことかよ。


「あ、あぁ」


 ただ俺は脇役だ。主人公のように満を持してみたいな感じでは無理だった。

 ヘコヘコしながら出て行く。こんな地味なやつがトリってのはなんか申し訳ない。そんな風に思ってたら?


「ふーーー!」

「成功させろよー!」

「がんばってー!」


  ただその気持ちと裏腹に会場の熱は全く覚めておらず、こちらに声をかけ指笛を鳴らしたり盛大な迎えようだった。

 会長のトークの効果もあってか、会場のボルテージが冷めない。上げたら何があろうと盛り上がる。修学旅行のくだらない誰かが鼻血を出すまで終わらない永遠のまくら投げに近いんだろう。強制的に冷まさない限り、盛り上がりは収まらない。


 多分今ならチンパンジーが出ても頑張れと声を上げる人がいるんじゃないかとまで思える。というかだから、何を頑張るんだよ。


 今からここに冷や水をぶっかけるかもしれないと思うと震えてくる。


「あなたは二年三組比山光くんね! もう参加してたなら言ってよ!」


 笑顔で会長はそんな嘘をつらつらと並べ立てている。

 呆れと緊張でどんな顔をしていいかわからない。とりあえず笑うか。


「さぁこの子は名前は女の子みたいだけど男の子よ! 今日はすっごい可愛い女の子と歩いてたからさ、あたしカプコン前に何彼女作っとんジャー! って怒ったんだけど、従姉妹だったんだって。だから見かけた子もいると思うけど、そこらへんの事情分かってあげてねー!」


 つらつらと喋りすぎて飛び入りであることが嘘なのがバレそうだぞ。


 ただ、聴衆はそんなのどうでもいいらしく「付き合わせろ」だの「見たぞ!」だの言いたい放題言いながらも次の展開を食い入るように待っている


「はい、じゃあお相手の番号をよろしくお願いします!」


 そう言うと会長は持っていたマイクをこちらに差し出す


「えっと……」


(舞台じゃ主役だ。好きにしてこい)


 頭の中で荒戸の声が再生される。


 好きにしてこいって言ったら俺も熱くなっちまうかもしんない。


 もうヤケだ。熱狂に焼かれてるって意味でも躍起になるって意味でも、慣れないけど、やるしかない。

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