満喫しきって成仏しちゃうかも

 そうやって青葉と別れた後、怜に連れまわされながらも青葉の言葉がなぜか頭から離れない。


 告白を頑張るってどうしたらいいんだろう。迷っている。告白をする相手にそんなことを言われてしまったら彼女がどんな雰囲気で告白されてるかを望んでるのか、少し考えてしまう。


「ちょっと! 光!」


 すると集中してしまい周りが見えていなかったことを怜から気づかされる。


「あ、あぁ。なに?」

「考えた事してたでしょ! 楽しまなきゃせっかくなのに」


「あ、あぁそうだな。他に周りたいところとか見たいところはあるか?」


 そう言うと少し怜は間をおいて


「うーんそうだなぁ、あたしも疲れちゃったしなーてかもう三時だよ」

「えっ!? もうそんな時間?」


 経ってしまっていたのか。時間を忘れて楽しんだと後から自分で噛みしめる。ただ怜も顔を見る限り満足そうでよかった。


「いやーでも楽しかったー。光! ありがとね」


 三時半に一般開場が終わり新歓も終わる。

 スケジュールだと片付けを軽くすませ四時から後夜祭が始まる。まぁ夕方にやるから後『夜』 祭ってわけではないんだけど。


「まぁもう終わりだし、教室戻って休むか」

「あ! そうだ! それいいね! あたしも行きたい」


「行きたいて……何の用があるんだよ」


 そんなことを言いながら教室に向かう。俺のクラスの教室はちょうど荷物置きになってる。

 誰もこないから別に怜がふっと存在感を消しても問題ないだろう。


「あ、あー疲れた」


 俺は教室に戻り自分の席に座り込む?


「楽しかったね! いやー文化祭っていいもんだなぁ」

「だろ? 俺も去年はびびったよ」


 当時俺は青葉目当てだったからこの新歓のことをよく知らなかったな。


「ふーん、えっとー光の席はここだから青葉ちゃんの席は……」


 ごそごそと青葉の席で何かをいじくっている怜、今回は不審な動きがすこし多い。何かを漁るのはいつも通りだが


「おい、勝手に人の席を」

「え? あ、なんでもないよ! いやー高校生の机の中見た事なかったからさ」


「それでそんな盗人みたいなことするのか」


 自分の席に腰を下ろしてその様子をぼけっと見つめる。


「ぬ、盗人とは失礼な!」

「まぁ、高校生になれずに死んじゃってそこで時間止まっちゃってるんだもんな……いや、今のなし。怜が楽しめたら俺はそれでいいわ」


 そうだ、さっきまでまるでこいつが生きてるみたいに錯覚をしてたけどこいつは死んでる。


 こいつの時間はもう十五歳で止まってる。俺が三十歳、つまりこいつの倍生きても怜はこのまま十五歳のままなんだ。


 だから、俺はその先の時間を少しでも見せてやりたくなったのかもしれない。止めた時間を動かしたかった。

  そんな主人公みたいなことを心のどこかで思っていたのかもしれない。


  いくら脇役と割り切っていても主人公になりたいという心の動きは錆びつかないのかもしれない。


「みなさま、後夜祭の準備が整いました。一年生ならびに片付けが一段落ついた班の方は体育館にお集まりください」


 生徒会役員からのアナウンスだ。

 片付け……はカプコン出場するから別にいいってこの前言われたっけ


「もうこんな時間か、はぁ、楽しい時間ってのはすぐ過ぎてくもんだな」

「光もさ、楽しかった?」


「ん? あ、あぁまぁ楽しかったかな……」


 これから気分最悪で落ち込むことになるかもしれないが


「よかった。あたしがいたから楽しくないかと思ったよ」


 彼女はぱぁっとした明るい笑顔を見せる。


「そんなわけないだろ。ま、まぁ俺も女の子と? どっかいったり文化祭回ったりしたことなかったからさ、楽しかったんじゃねえかな」


「なんでそんな他人事なのさ」


「俺も実感わかないからだよ。チンピラとの追いかけっこもお前のいたずらも、なんやかんやあってしんどかったけどさ、今思い返せば結構楽しかったよ。思い出とかってそうやって作ってくもんだろ?」


 ここでお別れみたいな言い方だ。でもなぜか口がそう動いてしまう。


「……そうだね、あのさ、光にお願いがあるんだけど、いい?」

「ん? なんだよ。文化祭をもう一日伸ばせとか無理な願いじゃなけりゃ今日の俺は機嫌がいいから聞くぞ」

「カプコン終わったらさ、またあたしたちが最初にあったあの場所に来てよ。あの踏切でまた話がしたいな」


 なんか変だ。怜の声のトーンがいつもより低い。

 わかる。顔は笑っているのに、どこか笑ってない。


「あ、あぁ、でもなんで今なんだ」


「カプコン終わってさ、満喫しきって成仏しちゃうかもしれないから。もし成仏しちゃっててもあそこにいけば光はあたしを思い出すでしょ? カプコンはあたし遠くで見てるからさ。集中して青葉ちゃんに想いを伝えるんだよ」


「は? お前なに言って……」


 俺が言い終わる前に、俺の言葉に答えることなく存在を消した怜、それに対し俺は寂寥のようななにかもの悲しいものを残された気分だった。


「あ! お前ここにいたのか! ほらもうカプコンの準備あるから早く来いよ」


 そう荒戸に呼び出されてついに体育館に向かう。結婚を申し込むわけでもないけど学生の俺にとってはこれがまさに一世一代の大勝負。


 そんな覚悟だった。

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