幕間

 光は眠った。

 あたしが話してる途中でよく寝ちゃうんだよね。全くデリカシーのない。


 なのに繊細なんだよね。あたしの家で話を聞いてから距離じる。

 どうせまたよくわかんない線引きをしてるんだろうけどさ。


 そんな風に思いながら窓から外を眺めて黄昏てると急にドアが開いた。


「あれ? みんなは……もう設営に行っちゃったのかな」


 青葉ちゃんだ。光の好きな人が教室のドアを開けて入ってきた。


「あ、比山くん」


 隅で机に突っ伏して寝てる光を見つけると少し小走りで駆けつけてきた。


 あたしはしっかり自分が見えてないかドキドキしながらそばをに来た青葉ちゃんを見つめる。 光のそばまで駆け寄った青葉ちゃんは隣に椅子を置いて座ると独り言のように、いや光に話しかけるように小声でつぶやいた。


「いつもありがとう、比山くん」


 それは感謝の言葉だった。


 あたしは正直陸奥ちゃんも青葉ちゃんも話はするけど光の事はあんま好きじゃないと思ったから結構びっくりした。


 思いの外青葉ちゃんにはあたしと光がいたことにはあんまり気を尖らせてないんだ。興味がないのかな。


 それか結構鈍感だったりして、しっかりしてそうだけどふわっとしてるし。


「陸奥ちゃんはさ、なんか女の子といたことを怒ってるみたいなんだけど私は別になんとも思ってないよ。でもあの子誰なんだろ?」


 あたしのこと、だよね。


 青葉ちゃんの椅子に座ってうーんと考えてる様子はすごい画になる。

 なんかあたしまで背筋がピンとなる。


「まぁでも、比山くんは地味だけど優しいからね。みんな助かってるんだよ。 ちょっと記憶にないだけで、目立たないけど、比山くんが頑張ってるのは私がしっかり見てるから。比山くんはよく自分を物語の脇役とか言ってるけれどそれを割り切って役に徹することができるのは立派だよ」


 天然って言うのかな。あたしよりナチュラルに光を下げるからびっくり。


 遠回しでもなく直球で地味とか記憶にないとか。この子は大物だ。


「たまには主人公みたいにふるまってもいいのに」


 青葉ちゃんはそうやって寝てる光に聞こえないような声で話しかけてる。


 というか光は青葉ちゃんにも脇役どーとか言ってるんだ……少し引く。

 なんでそんな自分から勝率を下げるようなことをしてるんだろ。

 でもなんか不思議と嬉しい感じもするんだよね。振られればいいのにも一瞬思っちゃう。


「比山くん、ありがとう。陸奥ちゃんは知らない女の子について何も話してないから怒ってるみたいなんだ。だからいつか教えてね」


 ただ、聞いているとあたしはいてもたってもいられなくなった。


 緊張でかくはずのない冷や汗みたいなのが顔に出てくる。

 体温が上がる、死んでるから冷たいはずなのに?


「あ、あのさ、あたしのこと、見えてる?」


 無我夢中だった。ドキドキする、あたし見えてるのかな。

 そう緊張してたけど青葉ちゃんにはしっかり見えてるみたい。結構青葉ちゃんは物分かりのいい良い子だ。


「……あなた、だれ?」


 その問いかけにすぅーっと息を吸って、あたしは言葉を吐き出した


「あたしは岩清水怜、幽霊です」


 幽霊として、同じ女性として、あたしは熊野青葉に対面する。

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