かっこいい人がタイプ

「えっ?」


 陸奥はそう言ってつい顔を引きつらせる。


「だめじゃん.……」


 俺もつられて本音が漏れる。マジかよ……一発目でアウトじゃねえか?


「ん? どうしたの? 私変なこと言ったかな?」


 別に何も、ただやっぱり俺には無理ゲーかなと思っただけですが?

 陸奥、責任を取ってくれ


「ぷっくっ! んぐっ」


 そして俺の落胆した姿を見て笑いをこらえながら幽霊様は青葉から顔を離し、定位置の俺の後ろに戻る。多分爆笑を一生懸命こらえている。


 カプコンに参加しろと駄々をこねまくったくせに他人事のように笑いをこらえている。見なくてもわかるぞ。俺にしか聞こえないレベルで漏れている。


 俺には死活問題なのにな。文字通り生き死にに関わる。


「あ、そうだ。りんご切ってくるね」

「そうだね。そういえばなんだっけ。受付の人にお願いしなきゃいけないんだっけ? じゃああたしも」


「陸奥ちゃんはいいよ。ここで比山くんと話してて」


 そう言って青葉は袋を持って行ってしまった。

 やっぱり好きな人がかっこいい人って俺やっぱり詰んでねえか?


「はー、あの子もなかなかどうして……面食いだったとは」


 先に口を開いたのは陸奥だった。


「なんであんなこと聞いたんだよ」

「だってちょっとでもサポートしようと思ったんだもん。それ聞ければ対策を練れたかもしれないでしょ?」


 陸奥は頭で腕を組み丸椅子にあぐらを書いて責任から逃れようとしている。


「まぁまぁいいじゃん? 青葉は好きな人とかできたことないみたいだし告白されたこともないらしいんだよね。それにカッコよくなるならチャンスはあるかも! ここ病院だし」


「整形しろってか、ここに整形外科はないぞ」


 整形を勧められるあたり、俺の顔面レベルが青葉の基準を満たしてないことが暗に陸奥から伝えられた気がする。


「てかお前が近くにいるから好きになる人も告白する人もいないんだろ」

「いやいや、悪い虫はつかないようにしてるだけだから」


 こんなイケイケのような体育会系女子が近くにいたら手を出そうもんならぶっ飛ばされそう。


 用心棒だろこんなん


「まぁさ、結構鈍感だから思いっきりぶつかればいけるんじゃない?」

「あのな、かっこいい人が好きなタイプなのにそうじゃない人に告白されたらどう思うよ」


「キモいね。はっきり言っちゃうと」


 はっきり言い過ぎ。なぜか俺が傷ついた。


「ま、まぁキモいは言い過ぎだけど! そうだろ?」

「まぁでも光はかっこよくはないけどブサイクじゃないじゃん? いつも光が自分で言ってるけど脇役っぽくて普通なだけ、キモいの域にはまだ達してないからきっとセーフだって!」


「まだってなんだよ」


 この幼馴染は協力したいのかしたくないのかはっきりしてほしい。

 このやりとりを聞いて後ろのやつも笑いこらえるのに必死みたいだ。


 ぷぷって声が俺には聞こえてるぞ。世の中残酷だ。

 というかこの世の主人公はどうやってこういうジレンマから乗り切っているんだろうか、鈍感系って世間の想像を絶するくらいこっちに振り向かせるのは難しいぞ。


 いや振り向くは振り向くんだけどその先に進むのが難しすぎる。

 だから人生はクソゲーとか言われるんだ。


「お待たせー」


 ドアを開けて青葉が入ってくる。

 綺麗に皮を剥いてカットされたりんごが乗った小綺麗な皿を持って入ってきた。こういうこともできるなんて青葉は本当に可愛いな


 よく考えたらこのりんごを食べれるなんてな。事故ってよかった。


「遅いよー。もう帰る時間じゃん」

「え!? うそー……」


「あ、あぁもうそんな時間なのか、なんか貴重な時間奪っちゃって悪いな」


 夕方六時を回っていた。 結構話し込んでしまった。


「いいよ。比山くんが元気でよかった!」

「ははは、ありがとう」


 そんな言葉を笑顔で脇役に投げかけてくれるなんて……やっぱり好きだ。

 それに世界で何人が青葉の切ってくれたりんごを食べれるのだろうか

 当たり屋でも始めようかと思ってしまうくらいには俺は幸せだった。


「ほら青葉、行くよ。光、お大事に」

「うん。じゃあここに置いておくから食べて、元気になって学校で会おうね」


 そうやって笑顔を見せる青葉は楊枝をりんごに刺して、陸奥に手を引かれて帰るのを手を振りながら見送った。


「あ、陸奥ちゃんも好きなタイプ教えてよー」

「えーあたしは別にそんなのないからな〜……」


  ガタン。そうやって二人は帰って行った。

 お見舞いに来てくれるなんてありがたい。


 だけど二人しか来てなくないか? 当日とはいえさすがに……荒戸とかも来てくれていいのに、なかなか友達不孝なやつだ。主人公に取って脇役はやっぱりそんなもんなんだろうか。


 ギャルゲーでも友情ルートなんてのは相当やりこまない限り見ないし、選択肢が出ても脇役の友人の見舞いなんて攻略サイトでフラグの存在を知らない限りは選ばない


「いやーいい人たちだねーいい友達が君にはいっぱいだ」

「別にいっぱいはいねえよ」


 出て行った瞬間に俺の後ろで笑いをこらえてた幽霊さんは俺に話しかける


「それにこれおいしそー! いただきまーす!」

「お前それ青葉の切ったりんご、俺も食べたいのに……」


 マイペースに人の見舞い品に手をだすこいつは爪楊枝をつかみ、りんごを食べようとしたその時


「失礼します。比山さん検査の結果なんで……」

「あっ……」


 目が合わなかった。なぜなら看護師さんはきっと爪楊枝を見てる。


「きゃああああああああああああああああああああああ!」


 俺からみたら美味しそうにリンゴを食べようとしてる女の子の姿が見えているけど、俺以外にはこの女の子は見えていないわけで。


 そりゃそうなりますよね。りんごが浮いてるように見えるわけだ。


 そんなこんなでまたこいつに驚かされる一日が終わりましたとさ、なんだろうなこれ。


 ちなみに俺のいた病室は幽霊が出るって噂で心霊スポットになったとさ。


 実際は俺自身が心霊スポットなのに


 あ、リンゴはとても美味しかった。りんごはもともと好きだけど、青葉が切ってくれたって補正でもっと美味しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る