取り憑いちゃったみたい
「あ、ぎゃあああああああああああああああああああああっっっ!!!!」
目があうと舌をペロリとぶりっ子かましていたその自称幽霊の女の子を見て俺は絶叫した。お化け屋敷でも出したことのない大声だった。
「な、ななななななななんでお前が!? ここ俺の家だぞ!?」
「いや〜不思議な巡り合わせだね〜」
「いやだからそんな腕組んでじじいみたいなこといってる場合じゃなくて、お前地縛霊じゃないのかよ!?」
「いやぁふつーの霊だったみたい。岩清水怜ちゃんはふつーの幽霊なんだよ」
「いやいやいや! でもふつーの幽霊でも! なんで俺のところにいるんだよ。そっちが問題だ! 徘徊でもしてろよ!」
「いやそんなことは……えーっとそれは……あのーですね」
幽霊はもじもじとして「うーんと」とか「あーんと」とか要領の得ない言葉でごまかそうとしている
「なんだよ。早く言えよ」
「なははそうだよね。簡単に言うとさ」
その幽霊はゴクリと唾を飲み込む仕草をすると、俺もつられて飲み込む
「取り憑いちゃったみたい♡てへっ♡」
「はぁ……なんだそれ……じゃあ早くどっかに……ってえーーーーーーーーーっ!?」
乾いた笑いと共にほっぺに指をやって軽くウィンクするそいつだが、俺は正直こんなとんでも展開は想像だにしていなかった。
そうして俺はまた人生トップ3に入るクラスの大声を一日で二回も出してしまった。
「うるさいっ! バカ光!!」
隣の部屋の姉がそう壁をどんどんと壁ドンする。
「お姉ちゃん……かな? いやー自分でも地縛霊だと思ってたんだよね〜。でもさー初めて人前で姿見せてさ、びっくり、君に引き寄せられるの、 何か引力みたいに、笑っちゃうよね〜」
「呆れて……なんて言ったら……」
正直意味がわからない。
今日の俺はどうかしている。失恋して幽霊が見えて、なんでこんなへんちくりんなイベントが俺にこんな失恋した日に限ってやってくるんだ
「あはははは! そうだよね! あたしも幽霊になって五年経つけどさ。こうなるとは思わなかった」
だいたいなんでこいつはこんな風に笑ってられるんだ!?
「……てか! そうだ! お前うちの家族にはまさか見られてないよな!?」
「ないと思うよー、今の君みたいに目が合わなかったし、あはは」
なんでヘラヘラしてるんだ! こっちはこんなに焦ってるのに!
「見てないだけじゃないだろうな……? てかなんで俺には見えて家族には見えないんだよ」
「うーんなんでだろうね。あたしも幽霊になったのは初めてだからなー。でも取り憑いた人には見えるっぽいね」
「誰だって幽霊になるなんて一度きりだし初めてだろうけど、まさかそんな」
彼女は机から俺のベットに腰掛け直してなんか思いつめたようなアンニュイな表情をした。俺は幽霊とはいえ女の子のその表情にドキッとする。
だってそうだ。俺は家に女の子をあげるどころか部屋にも連れてきたことはない。座っているとはいえ部屋にいた少女が座ってるはずのベットが沈んでいなく圧力を全く感じないところがさらに彼女が幽霊であるという俺のその気持ちに拍車をかける。
というか何より、この幽霊、よく見れば結構な美形だ。
「まぁ見えるようにとか人から見えないようにみたいな、存在感みたいなのは本能的にいじれるようにはなってたんだよね。君に見えるくらいは普通。多分家族にも見えるように濃いめにもも、君ですらあたしを見えなくなるような薄めにすることもできるはず……」
「そんなラーメンみたいな感じで存在感を、てか幽霊って……」
つらつらと不思議な設定じみたようなことを述べるそいつに俺は現実からもこの世からも連れて行かれる気分を味わう。
「あれ……? ねぇ!? どうしたの? ちょ、おーい!」
ただ意識がこの現実から遠のいただけだった。
眠い……いろいろ考えすぎた結果のただの眠気だった。
今日は人生を終わらせるつもりだったが、気づけば一日が終わっていた。
俺は物事をいつも以上に考え、受け入れたからだろう。よく寝ていた。何も考えず今の俺のように夢を見ることもなかった。無になれたみたい で最高。
ずっと深く深く眠っていた。
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