第8話
この男をたぶらかして逃げればよかった。でもそれに気が付いたのは馬車の扉が開いた時だった。家庭もあるような事も言っていたし私にたぶらかされるような馬鹿ではないか…
馬車が行ってしまうと孤独感に際悩まされた。魔の森は恐ろしいほど真っ暗で静かだ。
なんとなく覚えていた生活魔法であるライト魔法で明かりを出す。このままでは歩くことも出来なかったからだ。掌に3㎝ほどの小さな玉が出現した。足元くらいは見えるようになった。24時間以内に魔の森から出なければ確実に死んでしまう。
しかしちょっと暗闇に目をやるとそこには何個もの赤く光っている二つの目が浮いている。魔獣の目だった。背筋が凍るとはこのことで、怖くて踏み出せない。しかし結界魔法を施されているからなのか魔獣が見ているのは光のようだった。結界魔法のおかげで魔獣から人の気配がしていないのだ。
24時間しかないのだ。馬車が帰っていった方向に進もうと考えた。その方がいいかもと思っていたが戻ってもモグリベル王国にはもう居場所がないかもしれない。国王が取り直してくれる保証もない。あの兵士の虚言かもしれないし、どうしてそんな事をするのか理由はわからないが。
魔の森の奥にいけばそのうちいずれ隣国につくはずだ。たった一日で着く距離ではないはないが、隣国から帰国する陛下一団と会うかもしれない。
昔は隣国まで魔の森を避けるために遠回りしていた。今は強力な結界魔法が生み出させて魔の森を通過出来るような道が開通している。その道に沿って歩いていけば、隣国には着けるはずである。
それに忘れていたが私にはお助けグッツがある。そうあのイケメン兵士のおばあちゃんがくれたという秘密道具だ。
私は魔獣の目に晒されながら麻袋を探る。埃まみれの麻袋は年月が経っている事を感じさせた。
中には小さな布袋があった。その中にはモグリベルのコインが数枚入っていた。金貨1枚に銀貨が7枚、銅貨15枚だ。
近くにあったコインを適当にぶち込んだ感がある。価値的には小銅貨1枚で小さなパンを3つ買える事はわかっている。上級貴族ではなかったがそれなりの生活をしていたので銅貨は触った事がなかった。銅貨は2種類あると聞いている。小さい銅貨が1枚でパン3つ買えて、少し大きな銅貨は小さい銅貨が10枚分だったはずだ。(授業でならった)円で言えばたぶん大きい銅貨は1000円くらいの価値だろう。よく比べてみると2枚だけ小さい銅貨が混ざっている。
銀貨は1万円くらいで金貨は10万円くらいのはずだ。父の会社の取引では金貨しか見たことがなかった。父は以外と儲けていたのかもしれない。
有り難いが今は必要ない。隣国にいけば変えてくれるかもしれない。次に出てきたのは黒いショールのようなものだ。これも今は役に立ちそうもない。次は白い布地にくるまれた魔石が入っていた。
魔石とは魔獣の心の臓の事で魔石には魔力が込められているという。色んな便利な魔術具が魔石を有効的に使って開発されている。
暗くてよく見えないが大きな魔石が4つもある。しかし使いこなせるようになるには資格や許可がいる。しかもすごく勉強しないと使いこなすのは難しいだろう。私は魔力が多くある事から学園でそちらの方に専攻するように言われていたが男に夢中で勉強などしてこなかった。だって貴族なのだし勉強したって意味ないじゃー-んって思っていた。
今はすごく後悔している。
噓でしょ!もうないの?と思って麻袋をまさぐっていると、一枚の紙切れがパラリと落ちた。もうこれしかない。これに掛けるしかない。祈る気持ちで紙を拾って中身を確認する。それにはやはり魔法陣が書かれていた。
この国でお助けグッズの代表格は魔法陣や魔法円だ。魔法円は魔法陣を簡潔にしたもので多くの一般人が使用している。クリーン魔法やライト魔法など魔力が少ない人や魔法が苦手な人には有難いものだ。大銅貨が1枚で済むような金額だったはずだ。
魔法陣は複雑な絵柄と正確さが必要とされるので金額が跳ね上がる。ピンからキリ状態だ。最近ではコピペ魔法で魔法陣も簡単に作成できるようになったもののまだまだお高い品だ。
兵士のおばあちゃんがくれた魔法陣は物凄く複雑で色々な機能が組み込まれている。しかも手書きだ。これを作れる人なんてこの国に多くはないはずだ。
魔法陣は古いものようではあったがそれでも書かれたインクは虹色に光っていた。物凄く優秀な魔術師に違いなかった。
「これはそのおばあちゃんが作成したのかな…だとしたらすごい…」
私は魔法陣をこんなにキレイに描くことは出来ない。出来ないが読む事は出来るし扱う事は出来るのだ。学園での授業があってこそのことなのだが、日本でも漢字を書けないが読めはするみたいな事だと思っている。そして読めない漢字だっていっぱいあるだろう。一緒だ。
この魔法陣は要するに地図になっているのだ。
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