第3話
出会いは噴水広場です。学園内にある噴水広場は上級貴族のみ使用可で平民に近い男爵家の娘など使用してはならないのです。それはお姉さま達にも先輩方にも注意されていました。
しかし、指輪を窓から落としてしまったのです。探すだけならと先生に許可を貰い噴水から遠く離れた窓の下を探していました。無事に指輪を見つけ出したので、さぁ帰ろうとした矢先に上級貴族のお姉さま方が入ってきてしまった。私は慌てて下を向きました。
「あら、あなたはどちらのご令嬢かしら?私の記憶にはないのですけど…」
ああ、嫌味を言われてしましました。クラスも上級クラスとは別々の棟です。下級貴族は顔を合わす事もありません。下級貴族である私を知っているはずない。
「Eクラスのアリアナ・カビラと申します。窓から落とし物をしてしまい、許可を得て探させて頂いておりました。ただいま、探し物は見つける事が出来ましたのでただちに失礼致します」
私は謝り倒しながら先生からの許可書も見せ、探し物は見つかったのですぐに噴水広場から立ち退く事を言った。上級貴族と出くわした場合に用意していた言葉だ。いつでもどこでも上級貴族には逆らわない。
このような場面に出くわすは想定内なので慌てず焦らずただただ低姿勢であればことは片付くはずであった。その場を去ろうとしていた私に一人の男性が話しかけました。
「まあ、そんなに急いで立ち去る事はないだろう。一緒にティーを楽しもうよ」
たくさんの女性に囲まれた中から現れたのはユリウスです。私はキラキラと光るその人にときめいてしまいました。しかし明らかに上級貴族です。私が話をしていいお相手なのかは、さすがにわかっています。
「ありがとうございます。私のようなものにまで気にかけて頂いて感謝いたします。お言葉に甘えて一杯だけ」
にこりと平静を保ちつつ返事をした。
「ああ、楽しみなさい」
上級貴族のお姉さま方をチラリと見ると誘われたなら仕方なし、早く飲み終えて帰りなさい、と目が言っているようでした。上級貴族の言葉に逆らってはいけない。
「ユリウス様はお優しいです事…」
私は頭を下げたまま上級貴族の最後尾に付きました。しばらく端の方にいて離脱するタイミングを計っていました。うまく上級貴族のお姉さまが誘導してくださり自然にそのグループから離脱することに成功しました。
「あなた、お気をつけなさいね。上級貴族の予定は大体把握しておくものですよ」
「申し訳ございません。以後気を付けます」
帰る際に注意されました。上級貴族の中でも末端の人は礼儀知らずの下級貴族にこのように注意を促して下さいます。
実を言うと指輪を落としたのは故意だったのです。淡い期待をし、上級貴族のお目に留まり、玉の輿を狙えるのではないかと甘い夢を見たのです。今思うと、こういう事をしでかす下級貴族が何人もいたのでしょう。しかしいざ、願いが叶い上級貴族と対面してしまうと緊張して何も話す事が出来なかったのです。
さすがに無理ね。とあきらめたのだ。
やはり、付け焼刃の貴族と本物の貴族では何かオーラが違うと思いました。
しかし私は美しい人を近くで見られただけで満足するものだった。今後は立場を理解し自分に合った人を見つけようとした。ところがお優しいユリウスは遠いところからでも私を見つけると声を掛けてくるようになった。なんの戯れか…
「やあ、君はこの間、噴水広場にいた子だよね?あの後本当に1杯だけですぐに帰ってしまったよね」
私は移動のため、共同廊下を歩いている所だった。
「ユリウス様、あまりお邪魔をしてはと思い、お姉さま方にはよくして頂いて」
声の方向から振り向くと、ユリウスは二階から目ざとく見つけたようで、私とは声を大きくしないと聞こえない距離であった。近くにいるお姉さま方の顔がを見ると睨んでいる。こわい…
「ちょっと待ってて」
彼は上級貴族のお姉さまをその場に残し2人のお付の人と2階から降りてきた。一緒にいた下級貴族の友人たちは、相手が上級貴族という事もあり、ささっと廊下の端に移り頭を下げ、その場を後にした。いやだ、置いてかないで…
その後もユリウスは下級貴族が通る共同廊下に出向くようになり、その度に話しかけて来るようになりました。
私も最初は恐れ多い事もあり、あまり長くは話そうとはしなかったのです。しかし、それが他の令嬢と違ってグイグイと来ない私をユリウスは気に入ってしまったようでした。
私は私で中二病を発してしまい、見目麗しいユリウスから優しくされると自分は選ばれたお姫様になったような気分になってしまって浮かれてしまいました。
まるでシンデレラ。しかもなぜか、上級貴族のお姉さま方もとても優しく接してくれて、とても居心地がよくなってしまったのです。
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