『惑生』

やましん(テンパー)

『惑生』

 『これは、フィクションです。』


        🤧


 65歳になったら、例外を除いて、『惑生』システムに、入らなければならないのです。


 『惑生』の場所は、公表されていません。


 『樹海ではないか』という、噂も有りましたが、本当ではないようです。


 あまりに、広大で、普通の町にあるようなものは、ほとんど、ありません。


 北海道のどこか、とも言われますが、雪も降らず、気温は一定水準なので、それも、違うようです。


 空も、地面も、空間も、常に真っ白で、いわば、ホワイトアウトしているように、周囲はほとんど、見渡せないとか。


 そういうのは、生還した人の証言から、出ている情報です。


 生還した人には、年金が支給されるようになります。


 しかし、居なくなったひとは、それで、おわりです。


 生還率は、公表されておりません。


 しかし、いくつかの民間団体が試算したところでは、20%から、30%というあたりとされます。


 詳しいことは、なにも分かっておりません。


 年金受給者の選別方法の、最も一般的なもの、とされますが、『総合管理社会』と呼ばれるシステムの一貫であり、偉大なる指導者、オールアバウトXさまの、施策であります。


 しかし、第一優等国民は、こうした選別は、ありません。


 第一優等国民とは、政治家や、軍人、経済人、官僚などのなかで、優秀と、オールアバウトXさまに認められた人です。反体制派の人以外は、たいてい認められるらしい。


 民間人にも、選ばれる人はあります。


 もっとも、反体制派の人は、とっくに、逮捕されてるので、まずは、いません。




 ぼくは、しこしこ、村役場で勤めました。


 なんにもない村で、人口は500人ていど。


 出世の道は、ほとんど、ありませんが、なにも言わずに暮らしていたら、それなりに65歳に、なりました。


 戦争がなかったのは、幸いでした。


 村で、第一優等国民になれるのは、村長さんと議員さん、役場ナンバーツーの、総務部長さんだけです。


 しかし、村長さんになれるのは、玉口家だけ。


 総務部長さんになれるのは、裏玉口家だけですから、まあ、考えても、無意味です。


 さて、でも、玉口家と、裏玉口家の系統の人は、なぜか、『惑生』に行きませんでした。


 それ以外の村民は、従うしかありません。


 従わなかったら、『惑生』どころか、強制収容所行きになりますし、村から出たら、もっと厳しい結果になります。


 まだ、『惑生』に運を掛けたほうが、部がよいのです。



 退職の日、村長さまが言いました。


 『主任さん、ご苦労さんでした。あすは、惑生に入るが、なに、心配しなくてよい。君は独立独歩だからな。』


 花束をもらい、ぼくは、役場を出ました。


 見送ってくれたのは、一人だけでした。




 翌日、独り暮らしのぼくは、となり町の厚生会館にゆきました。


 行くに当たっては、ちゃんと、送迎自動車が来ます。


 逃亡しないように、見張りもいたはずです。


 『惑生』システムは、大都市なら、たくさん、ビルの中に並んでいますが、ここは、一つだけです。


 まず、検査と、医師の診察があります。万が一、末期ガンとかが見つかれば、入院ですが、まず、そういうのは、めったにありません。


 とても、厄介だから、めったに、ひっかからないような、自動健診機レベル設定になってると、ナイショ話として、町役場の人から聞いていました。


 しかし、ぼくは、どうやら、トラブルになってしまったようです。


 なにがあったのか、担当者が走り回り、なかなか、先に進みません。


 ニ時間は、待たされたあと、ようやく、ぼくは、医師に呼ばれたのでした。


 『ああ。あなた。お待たせいたしました。え、じつは、惑生システムは、さきほど、廃止になりました。あなたは、ぎりぎりだったので、適用されるのか、ちょっと、え、役場と県庁がもめたのです。で、役場側の主張で、あなたが、最後の一人となることになったのです。』


 『はあ。』


 ぼくには、いまいち、はっきりしません。


 『しかし、国側から、待ったがかかりましたような。なんでも、オールアバウトXさんは、失脚したようですな。逮捕されたらしい。さらに、関係者の逮捕がつづいているようです。村長も、町長も、知事も、遁走したようです。あなた、解放です。いやあ、よかった。ぼくも、もう、関わりたくない。惑生システムは、茶番です。一種の、バーチャルでして、七割くらいの人は、死亡するように仕組まれていました。本人が感じる時間は、場合によっては、1月とか、非常に長いが、実際は、1時間くらいです。ぼくは、新しい当局に自首します。』 


        ⛰️


 ながらく、社会に振り回されましたが、ぼくは、それから、村を出ました。


 惑生システムの、複雑な、バーチャル映像は、新政府により、やがて公開され、だれでも、安全に、見ることができるように、なりました。


 しかし、ぼくは、見ません。


 バーチャルなんて、そんなの、嫌ですから。


 年金は、まだ、始まりませんが、出るようには成るらしいです。


 オールアバウトXさんは、惑生システムに掛けられ、自意識では、100年間の放浪をしたが、命は取られず、今は、また裁判になっているようです。


 

         end.


  


 


 



 


 


 


 


 


 

 


 

 

 

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『惑生』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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