アイナロミ

 雪が降り積もる、寒い冬の日の昼。僕たちは、白いフリフリのブラウスにカラスアゲハみたいなスカート、アクセントカラーの青色が際立つヘッドドレスを付けて盛装している。

いまこの瞬間いちばん美しいのは、僕達だ。

ここはボロボロのワンルームマンションだし、ダンボールだって積んであるけれど。きっと、鏡も認めてくれる。そう信じている。


小さい頃親に言われた、「男の子はお姫様にはなれないんだよ」 とか、「そういうの、似合わないからやめなよ」とか。

そういう歪みは全部、「だいじょうぶだよ」と2人で欺瞞し合って飲み込む。

これは魔法の言葉だって、どこかの魔法少女も言っていたから。


 そして目の前の親友​──薫は、亜麻色の髪をふわりと揺らして、今にも花が綻びそうな柔和な笑みで僕を見つめた。

僕と薫は、オーロラに光る薔薇柄のティーカップで、薬が入ったヌワラエリヤをくい、と喫して、手を握りあった。薫の手はとても冷たく、ふるふると小刻みに震えていた。


「…薫たち、来世はぜったいお姫様になれるよね」

「うん…きっとなれるよ。だいじょうぶ」


薫と僕は、目を合わせて、額をくっつけて、ふにゃり、と笑った。


「薫、執事は黒髪眼鏡のおとこのひとがいいなあ」

「僕は優しいおじいさまがいいな」


薬が回るまで、そんな閑談をして。


そろそろだろうか。ああ、はやく、夢みたいに、儚く白色にフェードして欲しい。はやく、上手くいってほしい。無に変わりたい。はやく。はやく。


僕は、柔い葉の香りの奥にある苦味を感じながら、硬く冷たい畳へ堕ちていった。

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アイナロミ @R0Mi

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