第18話

月曜日とは、誰にとっても憂鬱な物だろう。

貴重な休日が終わり、また一週間が始まってしまうからだ。


かく言う僕も月曜日は憂鬱だ。

先週の家計簿をつけ終え、新しい家計簿を書き始めた時の絶望感。

―――ああ、今週もまた生活が苦しくなった…。


急いで稼ぎたいのに学校がある為、ダンジョンに行けない。

その時感じる無力感もまた、絶望感に拍車をかけてくる。


そんな事を考えている僕は、現在、歴史の授業を受けていて、江戸時代にあったダンジョンにまつわる大災害についてやっている。

先生は大学でダンジョンの歴史を専攻していたらしく、名家である綾についての話も熱が入っている。


江戸時代に突然、大きな穴が開き、そこから魔物が溢れ始め、日本中が大パニックになった。


魔物達の強さに最初は完全に押されていた。


しかし、そこで人類はステータスを手に入れたと言われている。


歴史の資料では神様から加護を得たと書かれているが…どうなのだろう?


そして、ステータスを得たことですさまじい力を持つ者達が現れ始めた。


策略に長けた”一条家”、戦闘に長けた”二条家”、謀略や統治に長けた”三条家”である。


この3家は名家と呼ばれ、幕府に重宝された。


実はこれら3家は分家であり、彼らより強大な力を持った本家がある。


その名前が”神条家”、しかし、江戸のダンジョン災害によってたった一人を残して全員亡くなってしまった。


そのまま、神条家は無くなってしまうかに思われたが、たった一人の生き残り、彼女は強大な力を持って大穴を塞ぎ、江戸の町に平和を取り戻して見せた。


彼女は英雄と呼ばれ、人々の記憶に残り続けている。


そして、そんな彼女の逸話は現在進行形で紡がれ続けている。


そう…彼女は今もまだ


冒険者協会会長、冒険者ランキング永遠の№1、神条しんじょう はじめ


今を生きる最古の冒険者だ。


「この劣勢の中!神条様は…もう時間か、それじゃあ号令。」


チャイムが鳴り、スイッチが切り替わったかのように興奮していた先生が一気に冷静になる。


若干その様子に驚きながら生徒が号令をかける。


号令が終わり、これにて午前の授業が全て終わった。

お昼の時間になり、クラスが賑やかになって来た。


さて…僕は廊下で綾を待たなくちゃな…。


今朝、綾から「お昼ご飯は持っていかなくて良い。昼休みに廊下で待ってて」と連絡が来たので取り合えず廊下に出てみたのだが…まだ綾は来ていないようだ。


ぼーっと廊下で待っていると騒がしい声が聞こえてくる。


声がする方向を見ると、同じクラスの”加瀬かせ 亮真りょうま”が大きな声で話していた。


まあ、騒がしいだけで気にしなければいいかと思い、目線をまた元に戻した。


「いやーマジで冒険者とかチョロすぎ!マジで!グレーウルフ?だっけか、あんなの雑魚よ雑魚!」


―――今、何て?

聞き間違えかと思い、彼らの話に耳を傾ける。


「何か、本当なら7月から冒険者だったのによ、最初に俺に着いた教官の目が節穴でさ、一回不合格になったんだよ、思い出しただけで腹立つわ…。」


「今の教官は楽だけどな!」などと言って笑っている加瀬が僕には分からなかった。


あんな怖い事…学生の内からやろう何て…。


分からない、分からないけど…きっとそこには理由があったのだろう。


そのまま加瀬達の話に耳を傾けていると、加瀬達の声がより一層大きくなった。


「二条さん、俺さー冒険者になったんだよね!今度さ、一緒に行かね!」


視線を向けなくても分かる。


綾が絡まれてる…。

此処で僕が割って入っても、変だしな…。


そんな事を考えて少しだけ目を向けると…。


「……うわぁ…。」


ばっちり目が合った。

あの目は絶対に怒ってる…。


綾は僕に目線を向けながら言外に「付いてこい」と言っていた。


綾が加瀬達を振り切った後、僕は少し経ってから綾の後を追いかけるのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「さっきはすまない…。」


綾に付いて行くと屋上へと続く階段へと連れていかれた。

そこで開口一番、僕は綾に頭を下げている。


「別に…怒ってないけど?」


いや、絶対に起こっている。

今までの経験上、怒っている…とまでいかなくても、確実に不満は抱えている。


「今度、何かで補うから許してくれないか?」


そう言うと体をピクリと動かし、何処か嬉しそうな表情を浮かべた。


「ま、まあ怒ってないけど、何かしてくれるって言うなら、今度買い物に付き合ってもらおうかしら?」


「ああ、そんなので良いなら。」


先程のピリピリとした感じから一転してとても穏やかそうに笑う綾を見て、僕はほっと胸をホッとなでおろした。


「それじゃあ、はい、これ。」


そう言って綾は綺麗に包まれた弁当箱を僕に渡してきた。


「これ、お母さんから…ほら、食べて。」


渡してきた綾の手には幾つかの絆創膏が…。


弁当箱を開けるとまた見たことのあるおかずが綺麗に詰められていた。


ちらっと綾を見ると前と同じようにそわそわしていた。


……取り合えず「いただきます」そう小さく呟いておかずを口に入れていく。


以前よりも圧倒的に完成度の高いおかず…どれもとても美味しい。


「ごちそうさまでした……ありがとう、綾、本当に美味しかった。」


そう言うと綾は、少し頬を赤く染めながら僕から視線を逸らした。


「だから…お母さんからだからお母さんに言ってよ。」


「ああ、そうだな…。」


その後は、綾と2人でとりとめのない話をしながら昼休みを過ごすのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



夏も終わり、秋になったことで僕たちの中学校は体育祭が迫ってきていた。

その為、お昼後の授業は体育祭の種目決めの為に割り振られた。


「それじゃあ、種目を決めていこうと思うのですが…50m走が良い人、挙手をしてください。」


体育祭実行委員である颯斗が中心となって話し合いは進んでいく。


目に見えて加瀬の態度が悪いがそこは気にしないでおこう。


「良し、後は…あれ?昇太、種目決めた?」


…流石に気付かれたか…。

僕が何とか誤魔化そうとすると、先生が間に入って来る。


「星巳は今、怪我してるから取り合えず50mの補欠にでも入れておいてくれ。」


颯斗が心配そうにこっちを見てきて、納得いかなさそうに黒板に僕の名前を書いていく。


取り合えずは乗り切ることが出来た…。


…それにしても、もう秋か…時間の流れは速いな…。


頬を撫でる少し涼しくなった風を身に受け、僕は新たな季節の訪れを感じた。


そろそろ僕も変わらなくちゃな。

先日印刷してもらったステータスを見ながら、次のステージに進むことを決意するのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

補足コーナー


・江戸時代の災害…ほとんどの事が分かっていない、歴史上最大の事件。

この時にできた大穴は神条創によって埋められたそう。

しかし、神条創はこの件について何一つ言及していない。


・日本の歴史…実はこの世界では第二次世界大戦は行われていない。

ダンジョンの所有を巡る問題で起こった第一次世界大戦で神条創を含む名家の人間が大暴れしたせいで、世界情勢が滅茶苦茶になり、以降、戦争は起こっていない。


名家…かつてのダンジョン災害にて力を振った者達、驚異的な身体能力もさることながらと言われている。


・神条 創について…最強、それ以外で言い表すことが出来ない。

世界ランキング1位で冒険者協会の会長を務めている女性。

年齢不詳、ステータス不明、ある大太刀を使用し、風魔法を得意とする武人が言うには「勝ち筋が見えない。」とのこと。


・加瀬 亮真…実力不足の冒険者候補、覚悟も、実力も、経験も足りない。

だがしかし、彼は、クラスメイトにチヤホヤされたいと言う一心で冒険者となった。

以前はサッカー部に所属しており、周りに人がいる颯斗に対し、嫌がらせを何度かしてきたが、本人は何とも思っていない。


・冒険者の運動について…基本的にスポーツにはもう参加できない。

これは公的な大会にはもう出れないということであって、別に個人的にやる分には構わない。

そんな冒険者達には年末年始に大きな大会が開かれることとなり、自分の実力を試すことが出来る。

全国で放送されていて、中学の部、高校の部、等々、階級別になっている。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・現在の主人公のステータス


※魔物寄せによって凄まじい量のポイントを稼いだ為、ptが爆増してます。


星巳  昇太  lv1 NEXT2680pt  14歳


力 20 敏捷 21 耐久 16 器用 17 魔力 13 知力 19


〈スキル〉

【大器晩成】

・レベルアップに必要なpt量を増加。 


〈ユニークスキル〉

【無窮】

・レベルアップに必要なpt量を超増加。


【アイテムボックス・中】

・1000㎥程の空間にアイテムを保管することが可能。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る