フォロワー1000記念投稿 星巳日葵の穏やかな日常

星巳日葵の朝は早い。


平時であれば今日は自分が朝食を作る日だが、大切な弟が「姉さんはテスト期間なんだから僕がやるよ。」と言って自分の代わりに朝食を作っている。


その為、かなり珍しい弟の眠そうに料理している写真が撮れるかもしれない。


そう思った日葵は何時もより早く起きるため、気持ち早めに床についた。


そして現在、眠そうに目を擦りながらキッチンに立つ昇太の姿が、不自然にならないように布団をかぶりながら昇太の方に視線を向ける不審者日葵、その呼吸は荒く、誰がどう見ても犯罪者である。


音の出ないように改造したスマホのカメラを用い、昇太の姿を何度も何度もその小さな端末に収めていく。


そんな不審者ムーブをする日葵の横でもぞもぞと布団が動き出す。


「おねえちゃん?」


その瞬間、日葵の思考と行動が止まった。


布団から顔を出した天使に目を奪われてしまう。


刹那、止まった思考が動き出し、このまま写真を撮り続けるか、目の前の天使を抱きしめるか、脳内で凄まじい勢いで会議が行われる。


「……?」


目の前で首をかしげる天使に日葵は勝てなかった。


一方、昇太はそんな姉の奇行に気付き、あえて何も言わなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



…はぁ、最高の朝だった…。


私はショウが作った朝食を食べながら、今朝の事を思い出す。


珍しく寝ぼけるショウ、凄まじいアングルで顔をのぞかせてくる夕夏…もう、最高だった。


そんな余韻に浸りながらも表情は何とか取り繕っている為表面上は真面目な姉に見えるはずだ。


……ああ、美味い。体から活力がどんどん湧いてくる。


「ごちそうさま。」


至福の時間は直ぐに終わり、学校へ行く準備をする。


鏡の前で身だしなみを整え、髪を結い、ポニーテールにしたら準備完了。


玄関前で靴ひもを結びなおし、外に出る前に…


「ショウ、夕夏、こっちにおいで。」


2人はトコトコとこっちに寄って来る。

そんな様もとても愛らしい。


キョトンとした顔の二人をギューッと抱きしめ、一日の活力をチャージする。


「よし、ありがとう二人とも。それじゃあ、行ってきます。」


2人は笑顔で「行ってらっしゃい」言っており、思わず写真を撮りそうになってしまった。


…さて、気合を入れるとしようか。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ええと…次、27番、深沢!」


今日の試験は実技、空中にある不規則に動く的を魔法壊すという簡単な試験だ。


「それでは…始め!」


試験で使われる的の数は200、それらを5分間で最低でも60は壊す必要がある。


私の前の男子は…何やら苦戦しているようだ。


あー…そんな魔法では…やっぱり、78個しか壊せていないじゃないか。


「次、28番、星巳!」


お、私の番だな。


さて…どうしたものか…。


的は180まではそこまで苦労はしないだろう。

だが、残り20の的…あれらの動きは他の的とは一線を画すほどだ。

不規則で、速く、まるで


恐らく、魔法を感知して勝手に避けるように作られてるんだろう…面倒な…。


「それでは…」


やっぱり速度を出すだけじゃあの20の的は壊せない。

それなら―――


「始め!」


それを


体中に込められる魔力、それらを一気に発散させる。

イメージは明確に、最短で全部破壊する。


描くは満天の星空に浮かぶ火の花。


星花火ほしはなび



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



主席合格者ということもあり、星巳日葵の実技試験は多くの生徒が注目していた。


大勢の視線が日葵に向けられる中、試験が始まった。


始まった瞬間の事だった。


的の浮いている上空に大きな火の花が咲いた。


たった一瞬で大半の的が焼かれ、残った的は数えられるほどだった。


大空に咲いた火の花、それらの花弁は分裂し、火の玉となりそれぞれ別の的へと飛んで行った。


空中で的に避けられるが逃すことなく火の玉は破壊していく。


「28秒」


圧巻のタイムだった。


燃え尽きた的たちがまるで流星の様だった。


明星高校始まって以来の大記録が此処に打ち立てられた。


この試験は3年生でも200個全て壊すのは難しい、否、壊せないのが当たり前である。


それを平然と、たったの28秒でやってのけた星巳日葵は誰が言ったか、星の如く溢れる才能とその特殊な魔法から”流星”《りゅうせい》と呼ばれるようになった。


まあ、当の本人は試験が終わった後、直ぐに弟妹の事を考えていたとか…。



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「ただいま…。」


今日は疲れた…何なんだあの人たちは…急に声をかけて来て、流石に恐ろしかったぞ…。


「おかえり、姉さん。」


そう言ってこっちを向くエプロンを着たショウ、これだけで私の心は浄化されてしまう。


「おかえりーお姉ちゃん!」


そう言ってこっちに寄って来る夕夏、そんなことをされたらお姉ちゃん昇天しちゃいそうだ…。


意識を手放そうとする体を舌を噛むことで耐え、夕夏を抱きとめる。


そのまま抱っこしてリビングへと向かう。


6畳の狭いリビングで3人くっついてご飯を食べる。


…ああ…幸せだ。


お母さんが倒れてしまった時はとても不安だったが、2人が居るんだ。

私が頑張らなければいけない。


しかし、蓋を開けてみれば私は2人に支えられてばかりだ。

ああ…この幸せな日々が一生続きますように。

願わくば今一度、家族みんなで共に食卓が囲めますように…。



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星巳日葵の日記 一部抜粋


4月5日


今日から私の高校生活が始まる。

これから先、ショウと夕夏の為に頑張って行かなければ!

ショウには、大学に進学して夢である医者になって欲しい。

夕夏には、これからの未来が塞がらないようになって欲しい。

どうか2人が幸せになりますように…。



5月9日


ここ最近、他の生徒に絡まれることが多くなった。

特に”三条”と言うクラスメートが良く絡んできて少し鬱陶しい…。

だが、そんなに悪い奴ではなさそうなので如何ともしがたい。

彼女からは一緒にパーティーを組もうと何度も誘われている。

さて…どうしたものか。



6月18日


梅雨の時期になりここ最近は雨が続いている。

1月程前になし崩し的に組んだパーティーは何だかんだでとても居心地のいいパーティーとなった。

共に助け合い、様々なダンジョンを攻略してきた。

1週間後にはテストが迫ってきているな…。

あいつは大丈夫なんだろうか…?



7月27日


明日は皆が楽しみにしている夏祭りだ!

街は活気で溢れており、通りを歩く人々は皆、笑顔を浮かべている。

今年もショウと夕夏と一緒に祭りを回ろうと思っている。

ああ、明日が楽しみだな…。

そう言えば、夕夏の様子がおかしかったな…。

察しのいい子だ、何かがあったのだろうか?

明日、それとなく聞いておこう。




以降、何かが書き込まれた様子は無い。



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補足コーナー


・星巳 日葵について…鬼才、神童、天才、異才、様々な称賛を受けて来た才能の塊。

見たものは大体模倣し、自己流にアレンジすることが出来る。

しかし、彼女にも弱点があり、水泳が出来ない。

「泳ぐよりも水底に足を着けて走った方が3倍速い、もしくは魔法で加速したほうが10倍は速い。」とよく言っている。


・7月28日…星巳日葵はその日、一人でとある場所に向かっていた。

そこは30年前に起こったとあるダンジョン災害の中心地、元銀級上位、東京ダンジョン7番跡である。

そこには災害の影響で辺りは魔物で溢れており、それらを監視する監視カメラに星巳日葵の姿が写っていた。

彼女は、東京ダンジョン7番があった場所に存在する大きな穴にその身を投じ、およそ3時間後、魔力症になった状態で転移してきた。

恐らく、彼女は東京ダンジョン7番を攻略し、ダンジョンの主を倒した際に展開される転移魔方陣に入ったとされる。

しかし、何故、彼女が魔力症になったのか、どうやって魔法陣に入ったのか、そもそも穴の中で何があったのか…真相は未だに明かされていない。


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