第13話

夏休み終了まで残り3日、泣き喚く颯斗を無視しながらやったお陰か、遂に宿題を全て終えることが出来た。

最後の方、颯斗はうわ言のように「ありがとう…ありがとう」と繰り返しつつペンを動かしており、必死にやっていたのは分かるがかなり怖かった。

そんな多大なる犠牲を払って早く終わらせたのだが、元々想定していた時間よりもダンジョンに潜る時間がかなり削れてしまった。

そこで僕は前々から考えていたとある事を実行することにした。



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それは、魔物寄せと呼ばれる魔道具を使って効率よく魔物を倒す…という事だ。

魔道具は便利でダンジョンに潜る上で重要な役割を果たしてくれる。

実際に、高位の冒険者はマジックバックと呼ばれる持ち運びができるアイテムボックスの様な物を使用しているし、簡易魔法石だってそうだ。

しかし、そんな便利な魔道具だが中には危険なものも存在する。

その代表例が魔物寄せなのだ。

魔物寄せは使用するとそれを止めない限りその効果は永遠に続き、魔物を呼び続けるというとんでもない魔道具なのだ。

それ故に、この魔道具の作成方法は冒険者協会に管理されていて、一般企業では作ることが出来ず、使用したい場合は冒険者協会に許可をとって借りる必要がある。

その為、今、受付で香取さんに魔物寄せを借りれるか交渉をしているのだが…

「駄目です。」

ハッキリとした口調で香取さんはそう言った。

「そ、そこを何とか、お願いできませんか?」

僕としてもそう簡単に引くわけにはいかず何とか食い下がるが、香取さんは表情を崩すことなく

「それでも駄目です。」

と言った。

考えていた打開策を真正面から打ち砕かれ、項垂れている僕に香取さんが声をかけてくる。

「…私は、別に星巳君に意地悪がしたい訳じゃないの、星巳君の選択は出来るだけ尊重したいし、私も力になってあげたいけど…魔物寄せは本当に危険なの、だから、無茶はして欲しくないの…。」

香取さんの表情が悲痛そうに歪む。

香取さんが僕の事を思って止めてくれているのは理解している…それでも

「それでも、僕は早く強くなりない。…香取さんお願いします。」

それを聞いた香取さんは、更に悲しそうな表情を浮かべる。

香取さんが何かを言おうとした時、受付の奥から他の人が出て来た。

「香取さん、これ以上は受付が込んでしまうので相談室へ…星巳君じゃないですか、何かあったんですか?」

奥から現れたのは教官だった。

香取さんが目を輝かせ、僕を取り残して教官を奥へ連れていく。

「え、どうしました香取さん…ぇ、………ぁぁ…わ……」

何やら二人でコソコソと話している様だが、会話内容までは聞こえない。

数分後、話が終わったようで二人とも帰ってきた。

すると香取さんが口を開いた。

「星巳君、魔物寄せだけど条件付きなら貸し出しても良いよ。」

…!使ってもいいってこと?けど…

「条件って何ですか?」

「私が星巳君に付いて行くことです。」

教官が香取さんと交代して話を続ける。

「星巳君の実力ではまだ魔物避けで起こる疑似魔物群衆スタンピードを倒しきることは出来ないと思います。その為、今回どのように対処するのかを私が監視させてもらいます。」

…冒険者試験と同じような感じか…

「分かりました。その…教官は良いんですか、わざわざこんな…。」

すると教官は何故だか圧が強くなりながらも

「大丈夫ですよ、星巳君は生徒ですから」

と何処か含みがあるような言い方をしながら薄く笑った。

教官に悪いな…とは思いつつも恐らくこれ以外に手は無さそうなので、教官にお願いするとしよう。

「…それじゃあ、お願いしても良いですか?」

教官は満足そうに頷いて言った

「もちろんです。」

教官は何時もの凛とした表情とは違い、柔らかな笑みを浮かべていた。



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「それじゃあ、魔物寄せを起動します。」

教官に見られながら東京ダンジョン12番の2層で魔物寄せを起動する。

その瞬間、いろんな場所から強い視線を感じた。

即座に全部の武器をアイテムボックスから取り出し、周りに置いていく。

すると前方からグレーウルフの群れが襲い掛かってきた。

しかし、何時もより単調で分かり易い突撃、それらに合わせるように大剣を振う。

一撃で群れを半壊させ、そのまま残りの群れを壊滅させようと大剣を振おうとするが群れの中に居た別の魔物を見て、剣を途中で止める。

そこには酸性状態のスライムが居た。

そのまま振りぬけば大剣は溶かされてしまう為、これ以上大雑把な攻撃は出来ない。

既に間合いの中に踏み込んできている灰狼達に対応するために大剣を仕舞い、代わりに夜半嵐と盾を装備する。

数の多さに目が回るが最早考える時間さえもったいない。

此処からは殆ど無心だった。

襲い掛かる灰狼とスライムの攻撃を防いでは切り捨て、遠くから新しい群れが来たら、弓を用いて数を削ってから槍でスライムだけを狙って倒す、ある程度の距離があれば大剣、少し近づかれたら夜半嵐と盾、あまりにも近かったらガントレットを使って、魔物の群れを捌いていく。

疲れるか怪我をしたら惜しむことなくポーションを使って何とか食らいつく。

30分?…1時間?…2時間?…6時間?…一体どれくらいたったのだろう?

現れ続ける魔物達を斬って、貫いて、殴って、射って………

悲鳴を上げる両腕を、途切れそうになる意識を、諦めそうになる心を、決意と思い出で奮い立たせる。

そうだ…僕は…

止まれないから…今もここに立ってる。

限界を超えろ、今こそ思い出せ、僕は誰の弟だ?

僕は誰の息子だ?

二人は強かった…なら僕が此処で負ける道理なんて無い。

刃こぼれをし出した大剣を握りしめ、序盤より勢いの衰えた群れへと突貫した。



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周りには魔石とグレーウルフのドロップアイテムのみが残っている。

―――終わったのか?

集中が切れ、体から力が抜けるが何とか魔物寄せを停止させる。

代わりに魔物避けをその場に置いてそのまま倒れ込む。

……疲れた…本当に疲れた。

このまま泥の様に寝てしまいたいが、ぐっと堪えて落ちている魔石とドロップアイテムを拾う。

しかし、疲れからか足がもつれて倒れ込みそうになってしまう。

…あ、不味い。

目を閉じて襲い掛かる衝撃に備えるが途中で傾く体が停止する。

見ると教官が僕を支えていた。

「…ぁ、教官…ありがとうございます。」

すると教官は複雑そうな表情を浮かべて何かを言いたそうだった。

「…っ!…お疲れさまでした。確かに実力は申し分なさそうですね…私の方から香取さんに報告しておきます。」

良かった、魔物寄せの使用許可はちゃんと出してもらえそうだ…。

安心したせいで更に体から力が抜けてしまいそうだったが、何とか自分だけで立つ。

どのくらい倒したのだろう…?目に見えた数だけでも100は優に超えている。

取り合えず、持って帰るとしよう。



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「…微小魔石が47点、小魔石が129点、グレーウルフの毛皮が98点で合計9万2400円になります。」

これが今回の成果だ。

無茶をした自覚はあるがそれに見合った成果を手に入れることが出来たと思う。

ジトっとした視線を向けてくる香取さんと出来るだけ目を合わせないようにしてトレーの上のお金を受け取る。

香取さんは小さく溜息をついて僕に言った。

「星巳君……絶対に、絶対に無理はしちゃ駄目だよ…。」

僕は即答が出来なかった。

それでも出来るだけ香取さんの眼を見て

「勿論です。」

力強く、そう答えた。



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家に帰ると誰もおらず、そう言えば今日から夕夏は二条家でお泊り会だったことを思い出した。

うっかり二人分の食材を買って来てしまった為、半分は冷凍してまた明日食べることにした。

周りに誰もいない食事は久しぶりだったため、とても寂しかった。



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翌日、筋肉痛で身動きが取れない程になってしまうが、ポーションを飲んで筋肉を無理矢理治して冒険者協会へと向かう。

香取さんは最後まで渋っていたが、教官のおかげで無事使えるようになった魔物寄せを使って今日も今日とてダンジョンに潜っていく。

昨日よりも魔物の数は減少していて、そこまで苦戦することなく魔物達を捌いていく。

ある程度魔物を倒し終え、今日は明日の事を考えて早めに終わっておくことにした。

この日の成果は微小魔石が32個、小魔石が95個、グレーウルフの毛皮が78枚で7万700円だった。

そして、帰りにちょっと高めのポーションを2本だけ買って帰ることにした。

家に帰っても誰もおらず、一人寂しく昨日と同じものを食べて早めに寝た。



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夏休み最終日、今日は2層に着いた瞬間から強い違和感を感じていた。

魔物の数がいつもより圧倒的に少ないのだ。

魔物寄せを使っても2日目の半分も集まってこない。

得体のしれない違和感に恐怖心を覚え、あまり倒せていないが取り合えず冒険者協会に戻ろうと魔物寄せを停止させる。

その瞬間、背後から何かが迫って来るような感覚を感じた。

咄嗟に右に避けると薄く左腕を何かに斬られた。

夜半嵐を抜いて、何かが飛んできた方を見るとそこには居るはずのないゴブリンの姿が。

そのゴブリンは明らかに何かがおかしかった。

他のゴブリンよりも2周り程大きく、何時も持っている棍棒を持っていないのだ。

そして何より体色がいつもの緑色より薄くどこか若緑色に近い色をしていた。

本能が訴えていた、こいつは何かがおかしいと。

先程の謎の斬撃、あれの正体は何となく見当がついている。

そして、このゴブリンの正体も。

あの謎の斬撃、あれは魔法だ。

本来であればゴブリンは魔法など使うことが出来ない。

すると必然的にこのゴブリンは唯一個体ユニークモンスターという事になる。

ユニークモンスターとなった魔物の強さは元の強さから2~3ランクほど上だと言われている。つまり、このゴブリンの強さは銅級中位レベルだろう。

「……すぅー…はぁー…」

深呼吸をしてより深く集中する。

負ける訳にはいかない。

夏休みの最終日、初めての死闘が始まろうとしていた。




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補足コーナー&作者から皆様へ


・魔物寄せ…使うと魔物が寄って来る危険すぎる魔道具。本来は主人公の様に使うものじゃないので良い子の皆さんは絶対にマネしないでください。


・魔道具…魔力を用いて起動させるとんでもなく有能な道具、中には完全自立起動のアンドロイドみたいな魔道具もあるらしく、ほとんどの魔道具はとある冒険者が作っている。


・魔物群衆…ダンジョン災害の一つで魔物の軍勢が襲い掛かってくること。


・パワーレベリング…無茶して強いモンスターを倒し続けてレベルを上げる事、普通に死の危険性があるのでやめましょう。


・唯一個体…ダンジョン内でごくまれに生まれる強い力を持った魔物で、凄まじく強い。その代わりにドロップアイテムと魔石は貴重なものが多い。どうしてこのような魔物が生まれるかは原因不明らしい。


・星巳 昇太について…本作主人公、極めて自己犠牲的で家族さえよければ自分なんてどうでも良いと思える程。実はこの子もかなり天才でステータスの割にかなり動けている。このステータスなら1日目の半分くらいでぶっ倒れているはず。




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皆様へ、またも皆様に謝らなくてはなりません。

私、みたらしは先日とある流行病に罹ってしまいまた投稿頻度が減ってしまう可能性が出てしまったからです。

この拙作を楽しみしてくださっている皆様にご迷惑をおかけして申し訳ございません。

何とか頑張っていきますので何卒宜しくお願い致します。


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