超大器晩成型のダンジョン攻略
みたらし
第一章
第1話
八月、それは全国の人々にとって待望の夏休みがやって来る季節。
祭り、海、旅行、花火、などなど
人によって様々だろう。
そんな中僕は、冒険者資格を得るために冒険者協会の講習を受けている。
冒険者資格は中学生以上であれば誰でも取ることが出来るのだが、中学生だけは講習を受け、教官に合格をもらわなければ冒険者になることが出来ない。
今期の講習は僕一人しか受けておらず教官とマンツーマン授業だ。
講習は今日で3回目で、講習は3日ごとに開かれ、合計で7回行われる。
今日までは銅級ダンジョンで出てくる魔物の説明や、種類毎によって変化するダンジョンの内装や特徴について教えてもらい、明日以降は実際にダンジョンへと入り魔物と戦う。
そして、最終回の7回目ではダンジョン内での対応や動きなどで冒険者資格を渡すかどうかを監督官によって判断されるそうだ。
正直、実技はかなり自信がない。
何故なら大体の人が持っている”ステータス”と”スキル”。
ステータスは運よく生まれながら平均より高い身体能力を持っていたため、高い方だったんだが、問題はスキルにある。
殆どのスキルは戦闘や探索の手伝いになるのだが、中には大きな枷となるスキルも存在する。
参考までに冒険者協会が出している平均的なlv1のステータスと比較してみるとしよう。
力 10 敏捷 10 耐久 10 器用 10 魔力 10 知力 10
〈スキル〉
【剣術】…lv1
・剣の扱いが上手くなる。
普通はこんな感じだ。
次に僕のステータスを出してみよう。
力 20 敏捷 21 耐久 16 器用 17 魔力 13 知力 19
〈スキル〉
【大器晩成】
・レベルアップに必要なpt量を増加。
〈ユニークスキル〉
【無窮】
・レベルアップに必要なpt量を超増加。
【アイテムボックス・中】
・1000㎥程の空間にアイテムを保管することが可能。
一体僕が前世で何をやらかしたって言うんだ…。
確かに、【アイテムボックス・中】と言うスキルは非常に優秀だ。
そして【大器晩成】、まだ此処までは分かる。
しかし【無窮】、これだけは訳が分からない。
本来であれば100ptでレベルアップをする所をこの二つのスキルのせいで僕はその120倍の12000pt必要なのだ。
【大器晩成】、このスキルは意外と多くの人が持っている。
【大器晩成】だけであれば次のレベルに必要なptは600となっていて、そのスキルの名前通り、レベルが上がるのは遅いがその分ステータスが上がりやすくなる。
大体の人が1レベルを上げると各種ステータスが10ずつと稀にスキルが手に入る、もしくは既に持っているスキルのレベルが上がるのだが、【大器晩成】を所持していると、その上昇量はなんと50、さらにスキルを確定で入手できるらしい。
ここで一つ疑問に思うことがある。
【大器晩成】の効果はレベルアップのpt必要量が6倍。
そこに加え僕には
大体の固有スキルは他のスキルとは比べ物にならない程強力な物が多いが僕の場合足かせにしかなっていない。
このスキルがあるお陰でptは驚異の20倍、そこに【大器晩成】が掛け合わさって前代未聞の120倍となっている。
最早頭痛が痛い。そうとしか言えない程ヤバイ。
結論、僕は最初の戦闘までは何とかすることが出来るそれ以降の戦闘は…かなりキツイとしか言えないだろう。
さらに、他の冒険者はレベルを上げることが出来るが、僕は…これからの冒険者生活でレベルを上げることは途方もない時間がかかるだろう。
…本当にどうしようか。
「――…これらの特徴からスライムは最弱と勘違いされてしまいがちですが、実はかなり凶悪な魔物だったと言う訳です。以上で本日の講習は終了となります。次回からは実技の方を行いますのでちゃんとした装備で来て欲しいのですが…星巳君は装備を持っていますか?」
教官の”
この人は身長が高く、目つきが鋭かったり話し方に余り抑揚が無かったりと、周りには冷たい人だと言われているが、今も僕を心配そうに見てきたり、細かい所でいろんなアドバイスをしてくれる辺りとてもやさしい人だと思う。
「いえ、持ってないんですけど、次回までに買ってこようと思います。」
そう言うとゆっくりと頷いて
「分かりました。それではまた三日後。」
そう言って教官が部屋から出ていく。
教官にはああ言ったが装備を買う余裕なんて我が家にはないに等しい。しかし、装備だけであれば何とか買える分だけのお金は準備することが出来る。
もちろん僕の貯金からの出費となるが。
流石に、生活費と治療費の足しにしようとダンジョンに潜ろうというのに家の貯金を使ってしまっては本末転倒だ。
『先行投資と割り切れば良い。』そう言う人もいるかもしれない。
そんな人に言わせて欲しい。
家の通帳見るか?見た瞬間そんな甘い考えは吹っ飛ぶだろう。
育ち盛りの妹と僕、そして最先端技術を用いて治療している母と姉。
たった3か月で預金通帳の半分が消し飛んでいた。
現在残っているのは父の遺産(30%)と僕の貯金だけだ。
支出はあるが収入はない現状を何とか打開しなければならないのだ。
現状を見直してみるとより一層焦ってきた…
現在時刻は…4時半か。
今日は、妹の夕夏は7時までご近所さんの家で預かってもらっている。
つまりここから家に帰る時間を抜いた1時間弱は鍛錬が出来る。
そうと決まったら早速、修練場の方へと向かうとしよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
基本的に修練場を使う人は少ない。
何故なら、ここで鍛錬を行うよりダンジョンで魔物を狩った方が強くもなるしお金も稼げるからだ。
更にまだ日も沈んでいないこの時間帯は殆どの人がダンジョンに潜っていて、修練場はスカスカだった。
修練場は幾つかのブースがあってそこで仮想の魔物と戦うことが出来る。
ちなみにここにある全ての武器がおいてあり安全のため刃は潰されている。
武器は本当にたくさんある、剣、大剣、双剣、戦斧、弓、ボウガン、槍、大鎌、大槌、杖、太刀、大太刀、大盾、ガントレット、などなど。
僕はこれら全てを使ったことがある。
何しろただでさえスキルを手に入れにくい僕が選り好みをするわけにもいかないし、取り合えず全部使ってみただけだが…。
残念ながらこれと言ってしっくりくるものが無く、その為その中でましな直剣と大剣、槍、弓をたくさん練習している。
取り合えず昨日一昨日と大剣の練習ばかりしていたし、今日は弓の練習でもしておくか…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
仮想の魔物に矢を放ち始めてから1時間経ち、そろそろ帰る時間になった。
修練場を出てみると人が受付が人で溢れかえっていた。
この時間帯はやっぱり家に帰る人も多いのだろう。
受付近くの憩いの場では装備を脱ぎ、普段着姿で誰かを待っている冒険者や、逆にこれからダンジョンに向かうような人もいた。
何とかして冒険者協会を出た時にはすっかり陽は傾いていた。
ここはダンジョン通りと呼ばれており、世界的にも珍しい、一つの都市に複数のダンジョンがある。
銅等級から白銀等級まですべての等級のダンジョンが此処にはある。
その為、この町の大半の店はダンジョン関連の店しかない。
明後日、ここに防具を買いに行くのだが…どこか目星をつけておいた方が良いだろうか?
幸い、まだ時間は5時半になろうかと言う所なのでまだ余裕がある。
最悪、6時18分の電車に乗れさえすれば何とかなるから大丈夫だ。
さて…取り合えず”ダンジョンデパート”に向かう。
個人的にはでもこう言うデパートみたいな、いろんな店がある所の方が安心できる。
装備売り場は…5階か、7階以降にも装備売り場はあるけれど、そこからは銀級冒険者以上の等級冒険者しか入ることが出来ない。
更に、10階以降は金級冒険者以上、となっていて今の僕にとって雲の上の様な世界だ。
そんなことを考えていると5階の着いた。
僕はまずちょっと高そうな店へと向かう。
僕が買うのは自分の命を任せる装備なのだ、ここでケチって大けがを負っては目も当てられない。
早速、良さそうな装備を見つけることが出来たので先に値札を確認してみる。
そこの値札には上半身だけで5つの0と一番左に7の文字が書かれていて、僕はその装備を静かにその場に戻してその店を出た。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
調子に乗っていた。そう言わざるを得ない。
先日、8歳の時から続けていた500円貯金の貯金箱をたたき割った。
今まで使っていた豚の貯金箱はその役目を果たし、内側にため込み続けた500円玉を全て解放した。
その総額15万円。
毎週毎週両親の手伝いなどで欠かさずに続けてきた貯金が今花開いた。
今なら何でも買うことが出来るとさえ思った。
しかし、現実はそう甘くなかった。
現実を突きつけられた僕は次は先程よりも値段が良心的で全国展開している店に向かった。
だが、そうは言ってもどれもなかなかのお値段をしていて、上半身と下半身をそろえるだけで直ぐにお金が無くなってしまう、できれば今度武器も買おうと思っているので出費は少なく済ませたい。
そんな時、ふと一つの装備が目に留まった。
ホワイトウルフの毛皮を用いたコートとズボンで値段は上下込みで9万円弱、色合いも良く白と黒の二色の実にシンプルなデザインをしている。
値段の安さにかなり驚いたが、直ぐに納得した。
ホワイトウルフは銀級ダンジョンに多く生息しており、多くの冒険者がホワイトウルフの毛皮を持ち帰ってくるため、結果的に値段が安くなるのだろう。
他にも、ダンジョン産の物で編まれたインナーなどもありどれも安価で財布に優しい。
一度試着したいのだが…試着室は何処だろう?
「何かお探しですか?」
背後から突然声を掛けられ、飛び跳ねるように距離を取る。
「す、すみません驚かせちゃいましたね。」
そう言って目の前の女性は苦笑いをしている。
「いや、こちらこそすみません。…あの試着室ってどこにありますか。」
「そちらの商品の試着ですね。試着室はこちらです。」
店員さんに教えてもらい、試着室に入る。
早速着てみたのだが…
「…少し、デカいかな?」
インナーの方は丁度良かったが、コートとズボンのサイズが合わずそのままだと地面についてしまう程だ。
元の服に着替えて外で待っててくれている店員さんに一つ小さいサイズの物はないか尋ねる。
「少し待ってくださいね。…あー、今は在庫切れですね。明後日くらいには届くと思うんですけれど。」
とのことなので、その日に買いに行くため、取り置きしてもらうことにした。
最後に店員さんの名前を確認と俺の名前を伝えて店を出た。
もうそろそろ電車が来てしまので、小走りで駅に向かう。
今日の晩御飯は…昼の残り物で良いかな。
ぼんやりとそんな事を考えながら、賑わってきた夜の街を歩きだした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
補足コーナー
・冒険者協会…ダンジョンが出来てから直ぐにできた機関、全国各地にあってダンジョンに潜っている冒険者は基本的に協会に所属している。
・冒険者のランク分けについて…銅・銀・金・白銀の四段階に分かれていてその中でもさらに上位・中位・下位に分かれている。銅級下位でも毎日欠かさず1日10時間くらいダンジョンに潜っていれば月40万稼ぐことが出来る。
・スキル…ユニークスキルと普通のスキルに分かれていて、ユニークスキルの方は強力なスキルばかり、銀級上位以降は大体ユニークスキルを持っている。因みに、普通のスキルだけで金級になった人もいる。
・ステータス…その人の身体能力から決まり、その体のポテンシャルの100%が出せるようになる。
例を挙げるとすると、凄く才能があるけど運動していなかった人がステータスを得ると凄く体が軽く感じるようになる。
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