第3話 学校
帰国してから、およそ一週間。まだ日本で生活していた頃の感覚を完全に取り戻していない中、8月はあっという間に終わってしまった。
そして今日から心機一転して、9月と高校生活が始まるというわけだ。
およそ3ヶ月という短い間ではあったが、学校生活をともにした前のクラスメイト達にも会えると思うと楽しみだ。
まあその反面、急な報告でろくに別れも告げずに日本を発ってしまったので、そのことをどれだけ追求されるかは想像に難くない。
「帰国子女」という既に目立つ立場ではあるが、程々に平穏な学校生活を送るのが今の俺の目標だ。
「久しぶりだからって、遅れないように亜蘭も早く出なさいよ〜」
姉貴はそう言いながら、先に家を出ていった。そういえば、去年は特に関わることはなかったとはいえ姉貴も俺と同じ学校だったな。
ということは、今や姉貴とは学年が二つも離れてしまったということになる。そう考えると、感慨深いものがあるな……。
俺がそんなことを考えていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。どうやら迎えが来たらしい。
「よう、修司」
「おす。……で、これから学校へ行こうというのに、何だその格好は?」
「え、寝巻きだけど?」
「今何時だと思ってるんだ……。新学期早々遅刻する気かよ!さっさと準備しろ!」
時間を確認すると、今すぐ着替えて家を出なければ間に合うかどうかギリギリという時間だった。向こうではもう少し朝は余裕があったはずなんだが……。
「やれやれ。日本人は勤勉だなぁ」
「呑気なこと言ってる場合か!」
***
「はぁ……はぁ……」
あれから結局、時間がないにも関わらずくだらない茶番を繰り広げてしまったせいで遅刻ギリギリの時間になってしまった。
現在、全力疾走をしてきたことの代償により、二人揃って校門の前で息を切らしている。
「じゃあ俺、職員室に行かないといけないから。また後でそっちのクラスにも顔出すわ」
「わかった。でもこれだけは言わせてくれ。明日は絶対に一人で登校するからな……」
修司はそう言いながら、先に校舎に入っていった。
さて、俺も行くとするか。そう思って校舎に入ったはいいものの、俺はある重大な事実に気がつく。
(まずい、職員室の場所がわからない……)
俺が通う高校は近隣でも有名な私立高校で、その規模はかなり大きい。去年通っていた時ですら3か月ではどこに何があるか完璧に把握できていなかったというのに、一年ぶりともなればもはや学校ではなく迷宮である。
仕方がないので、とりあえずその辺にいる他の生徒に聞いてみるしかない。
そう思い、俺は最も近くにいた女子生徒に声をかけることにした。
「そこの君、突然話しかけて申し訳ないんだけど、職員室の場所がわからなくて困ってるんだ。よければ教えてくれると助かるんだけど……」
そこまで一言で喋ったところで俺はあることに気がづいた。なぜか、周囲の視線が俺と俺が話しかけた女子生徒に集まっているということに。
職員室の場所もわからない俺が不思議に思われたのかと一瞬考えたが、この騒がしい朝の学校で周囲に俺の声が聞こえるはずもない。となると、注目されているのは俺ではなく、この人の方か……?
そう考え、俺は改めて目の前の女子生徒を視界にとらえた。
その人は、長く艶やかな髪に、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる多くの男子生徒の目を引くであろうスタイルを持つ、正に理想的な美少女と言うべき姿をしていた。
……なるほど。どうやら俺は、声をかける相手を間違えたらしい。
しかし、そんな俺の考えをよそに、その女子生徒が返事をした。
「……っ!――いいですよ。案内するのでついてきてください」
「ありがとう。助かるよ」
一瞬、何かに驚いたような顔をした気がするが。案内を快く引き受けてくれるようなので、何も言わずに彼女について行くことにした。周りからの視線は相変わらずのようだけど。
「……はい、職員室はここです。ではもうすぐ朝礼の時間になるので私はこれで。また会いましょう」
「ああ、ありがとう。本当に助かった……。って、もう行ってしまったのか」
今は時間がなかったのかもしれないし、そのうち改めてお礼を言おう。まあ、クラスも名前もわからないけど……。
俺はもう少し、大事なことを聞き忘れてしまうのを反省すべきだな。
そんなことを考えながら、俺は職員室に入っていった。
ーーーーーーーー
今回少しだけ登場したのが……?
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