第十四話 【セレス救出部隊】

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・っ!」

「ぜぇ・・・・・・くそっ」

「はぁはぁ・・・・・・おいおい、もうあんなとこまで行ってやがる」

「あの嬢ちゃん、一体何者だ!?」


 彼らは、ギルドからの緊急クエストで集められたBランク以上の猛者達。

 ヘルシアとニーナが、街中からかき集めたありったけのアイテムと質の良い防具を携えて、未知のSランクダンジョンへと行軍中であった。

 ただ、その中で異彩を放つ者が一人。その者は、その猛者達を置き去りに、先頭を猛然と突き進んでいた。


「――――早く行かなきゃ!!」


 その真っ白な髪は、辛うじて耳にかかるほど短く、見た目は子供と見紛うほどの、小柄な体格の少女であった。

 しかし、小さな背中には身の丈を超えるほどの大剣を携えており、その姿は異様に見える。

 しかも、他の冒険者達は馬に乗って行軍しているのだが、彼女は一人走っていた。

 いや、その時の彼女は、まるでようだったという。

 そう、彼女こそ、この救出メンバー唯一のSランク冒険者。”神速の白銀ソニックシルバー”の二つ名を持つ世界有数の冒険者であった。


 彼女がこの救出部隊に合流したのは数時間前に遡る――――




「必ず助けに行くから……どうか無事でいて……」


 ヘルシアは、自らの過ちで、セレスの身に危険が迫っていると思うと気が気では無かった。

 自分にできる精一杯のことをする。

 後は、ただセレスの無事を祈るしか無い。


「とりあえず、すぐに動けそうな盾役タンクに連絡する手配を――――」


 そう考えていた時、ふと、ギルドの受付に目をやると、見慣れない、活発そうな少女が立っているのに気がつく。

 その少女はこちらの様子を窺っているようだった。

 クエストの受注か報告だろうか。大方、こちらが忙しそうにしているので、話しかけ辛いのだろう。

 そう思い、話を聞くためヘルシアは受付台へ向かう。すると、少女の方から口を開いた。


「あ、あのっ! すみません!」

「遅くなって申し訳ありませんでした。クエストの受注や報告ですか?」

「いや、そうじゃないんですけどっ・・・・・・!」

「それではどのようなご用件でしょうか?」


 クエスト関連の要件ではないとなると、冒険者の新規登録であろうか。しかし、目の前にいる少女は、背中に大きな剣を背負っており、とても新人には見えなかった。

 それに、銀色のような真っ白な髪に大きな剣の少女、どこかで耳にしたことがある佇まいである。

 どこで聞いたんだっけ・・・・・・。

 あれこれ、思考を巡らせていると、少女は少し言いづらそうに話し始めた。


「あ、あのっ! ワタシっ! 実は人を探してまして!」

「人探し・・・・・・ですか?」

「はいっ! 聞くところによると、こちらの街で冒険者をしているはずなんですけど・・・・・・」


 予期していなかった突然の申し出に、一瞬困惑したヘルシアだったが、気を取りなして話をする。


「申し訳ございませんが、ギルドから冒険者の個人情報はお教えできない規則になっておりますので・・・・・・」

「そっ、そうですよね・・・・・・」

「よろしければ、ギルドで人探しの依頼を出してみてはどうでしょうか?」

 

 冒険者への依頼という形であれば問題は無い。

 お金はかかるが、一番確実な方法だろう。


「うーんと・・・・・・じゃあ、依頼としてお願いできますか?」

「わかりました、ではこちらの書類をご記入ください――――」


 彼女は少し逡巡し、納得したのか、書類に向かう。

 ヘルシアが必要事項の説明をしていると、後方から慌ただしい声が聞こえてくる。


『おい! 誰か緊急用の防具を取ってきてくれ!』

『食料は、デイラミ商店で都合つきそうです!』


 受付の後ろでは、緊急クエストの準備真っ最中であり、その喧噪は時間とともに大きくなってくる。

 少女はその様子が気になったのか、書類を書く手を止めた。


「あ、あのっ! 何かあったんでしょうか?」

「騒がしくて申し訳ありません・・・・・・。実は今緊急クエストの準備をしておりまして」

「緊急クエストですか?」

「ええ、Bランク以上の冒険者さんに依頼を出しています」

「そ、そうなんですかっ! じゃあ・・・・・・!」

 

 少女はすぐに応える。


「ワタシで良かったら、手伝わせてくださいっ!」

「えっ?」


 ヘルシアは素っ頓狂な声を上げる。だって、目の前の少女はとてもBランク以上の冒険者には思えなかったのだ。

 少女は、懐から冒険者である証のギルドカードを出す。


「そ、それは!?」

「すみませんっ、ご挨拶遅れました! ワタシは王都で冒険者をしてる、エルっていいますっ!」


 差し出されたギルドカードには、金色の装飾が施されており、その意味を熟知しているヘルシアは驚きを隠せなかった。


「嘘、・・・・・・Sランク。初めて見ました」


 そういえば、以前聞いたことがことがある、王都に居る新進気鋭の冒険者の噂。

 まるで子供のような、小柄な見た目からは想像もつかないほど強く、その者はことが出来ると・・・・・・。

 それはまるで、神様からの救いの手。

 暗雲立ちこめる道に輝く、一筋の光のようであった。


「あなたが協力して頂けたら、セレス君は助けられるかも!」


 ヘルシアは少し興奮気味に言った。

 その言葉を聞いて、少女は驚いた表情を見せる。


「あ、すみません・・・・・・。恥ずかしい姿をお見せしてしまって・・・・・・」

「そ、そんなことよりっ! 今、セレス君って言いませんでしたかっ!?」


 少女は受付台に乗りださんばかりの勢いで、ヘルシアに詰め寄った。

 ヘルシアはその勢いに圧倒されつつ「ええ。今回の緊急クエストの救出対象者です」となんとか声を絞る。

 

「その子がワタシの探してる冒険者なんですっ!」

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