第2話 ユートピアへの回帰


 突然に目の前が真っ暗となる。


 なぜか、日めくりの電波時計が現れ、暦がパラパラと捲られてゆく。これは、ユートピアへの転生だろうか?


 2022 2020…2000…1980…1960……


 ところが、過去への回帰だ! 俺はビルの谷間に浮かぶ雲上人となっていた。眼下に見える街は大きく姿を変えつつある。高い建物が泡沫うたかたのごとく消え、突如として不思議な景色が現れてくる。


 釣り鐘池には湧き水が溢れ、蛍がはねを伸ばし光を放つ。鎮守の森には鐘楼が見える。最近、都会では除夜の鐘を聞かないが、時を告げる音色すら届いてくる。

 畑では野良姿の人々がわら縄で稲架はさがけして千歯こきの出番を待つ。深呼吸すると、土と緑の香りが入ってきそうだ。


 おい、あれ! 古い役場には看板があり、「武蔵野村」と書かれている。


 どうやら遥か彼方はるかかなたまで来たらしい。正確には分からない。そもそも俺はその時代に生きてないのだ。


 これはひよっとすると……

 人々に忘れ去られた

 武蔵野の “原風景” なのかも知れない。


 でも、ここには日本人が遠い過去から現代へと受け継ぐ景色があったはず。

 その中には失ってはいけない大切なものがあったのでは! そんな気がしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る