18 ショッピングモールはゾンビの巣窟
カナリアはケガこそ治ったものの、顔色は病人みたいに青白い。
本来であれば、安静にしておかなくてはいけない状態のはずだ。
しかし半泣きですがられ、俺はやむなく首を縦に振る。
「わかった。ならこのミッドナイトでいっしょに探そう。車の中にさえいれば、ゾンビに囲まれてもやられることはないからな。だから、なにがあっても絶対降りちゃダメだぞ」
カナリアの瞳に、わずかな希望の光が戻った。
「う……うんっ! ありがとう!」
俺はミッドナイトごと『るるぽーと』に突入する決意を固める。
中の通路は広いから、トレーラー付きのミッドナイトでも走行できるだろう。
それに生存者がいた場合、いちいち安全な場所まで誘導するよりも、トレーラーハウスにかくまうほうが効率的だ。
「よし、それじゃ……!」
とギアをドライブに入れようとしたところで、キッズの待ったがかかる。
『その前に、トレーラーハウスにいる部外者を救出したほうがよいのではないですか?』
液晶モニターにはトレーラーハウスの中の様子が映し出されている。
乗っていた冒険者たちは、カナリア救出のドリフトの際に掴まりそこねたのだろう、折り重なるようにして目を回していた。
「あ、しまった」
俺はキッズに周囲の安全を確認させたあと、ミッドナイトから降りる。
広場の地面はゾンビのミンチが敷き詰められていて、肉のじゅうたんの上を歩いているみたいに気持ち悪かった。
トレーラーの後部にある両開きの扉を開ける。
同行していたアダルトが、中でのびていた冒険者たちを気付けの魔法みたいなので正気に戻してくれた。
「ちっ、馬車より乗り心地がいいと思ったらこの有様だ」
「ったく、少しは加減しろよ。なにをやったが知らねぇが、ドラゴンのシッポの中にいるみたいな揺れだったぜ」
「まあいいじゃねぇか、広場にはすげぇ数のゾンビがいたから、ソイツらをブッ殺してウサ晴らしに……」
例のドワーフ3人組はブツクサ文句を垂れながら広場に降り立っていたが、眼前に広がる光景にアゴが外れんばかりになっていた。
「ぜ……全滅、だと……!?」
「ウソだろ!? 窓から見た時には、この広場にゃゆうに千匹のゾンビはいたはずだぞ!?」
「ま……まさか……!? お前がやったのか!?」
ドワーフトリオは驚愕の目で俺を見ていた。
「いや、俺じゃねぇよ。ミッドナイトの力だ。運転してたのは俺だけどな」
「「「お前が操ってたんだったら、お前がやったことになるんだよ!」」」
肩をいからせてハモるドワーフトリオ。
「そうなのか?」
「当たり前だろうが! 調教したペットがしたことは、ぜんぶ
「しかし、ヤバすぎるだろ……! マジでドラゴンのテールスイングみてぇな威力だ……!」
「ひと晩かかる道中もあっという間に着いちまったし、たったひとりでゾンビ千匹をやっちまうし……とんでもねぇ異世界人だぜ……!」
「そんなことより、ここから先はあんたたちの出番だ。『るるぽーと』内にはまだゾンビがいる。俺はミッドナイトで後からついてくから、生存者があったら知らせてくれ」
ドワーフトリオは応じるように、背負っていた斧を構える。
ひと振りで大木もなぎ倒せそうなごつい斧だった。
「ああ、任せとけ!」「異世界人にばっかいいカッコさせてたまるかよ!」「お前ら、いくぞーっ!」
すでにパーティは決まっているのだろう、他の冒険者たちはドワーフトリオを筆頭に3組に分かれる。
彼らはまるで
その頼もしい背中を「がんばるしーっ!」と手を振って見送るアダルト。
「よし、俺たちも行こう。アダルトはトレーラーハウスの中で、救出した生存者の面倒を見てくれるか?」
アダルトは「まかせるし!」と、軽やかなジャンプでトレーラーに乗り込んでくれた。
俺は駆け足でミッドナイトの運転席に戻り、ギアをドライブに入れる。
助手席にはぐったりしたままのカナリアが。
熱に浮かされるように「パパ……パパ……」とつぶやいている。
「よし……行くぞ!」
エンジンを踏み込むと、八輪のタイヤがうなった。
ぬかるみから抜け出すように血肉のしぶきがあがり、エントランスポーチの段差を腹に響くような振動とともに乗り越えていく。
自動ドアのガラスをブチ破り、俺たちはゾンビの巣窟へと躍り込んだ。
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