9ページ 両親の帰宅

 と言われた時は、怒ったのではなく嬉しくて動揺していただけだと。

 それを聞いて悠人は、自分の不甲斐なさを思い知る。

 妹に対して、自分勝手な行動を取っていたことに後悔した。

 悠人は未歩を強く抱きしめた。

 そして未歩の耳元で囁く。

 もう二度と避けたりなんかしない。

 俺達は、ずっと一緒だ。

 すると、玄関の扉が開く。

 父親と母親の二人が、買い物袋を手に、ただいまと言いながら入って来た瞬間だった。

「母さん」

 悠人は立ち上がりながら、呼びかける。

 その瞬間、両親は硬直した。

 二人とも目を見開き、口をあんぐりと開けていた。

 両親は、目の前に起きている出来事が信じられないといった感じだった。

「ゆ、悠人。あんた、何してるの……」

 母親は買い物袋を落とす。

 父親は、持っていた鍵を落とした。

 悠人は二人の視線を追って下を見ると、自分のズボンが床まで下がっていた。未歩の料理をたらふく食べたことでベルトを緩めていたためだ。

 下半身をトランクス一丁になった男子高校生が居た。

 傍らを見ると、小学生の未歩がひざまずいて、顔を覆うようにして泣いている。

「お父さん、お母さん、あたし怖かったよ」

 と言う。

 それは、訪問セールスの男が怖かったという意味であったのだが、悠人は状況的にヤバいと思った。

 母親を恐る恐る見ると、憤怒の炎を立ち上らせていた。

 父親の方は、ワナワナ震えて、怒りを露わにしている。

 怒りの仏・不動明王も裸足で逃げ出すような形相だった。

 悠人は表情を引きつらせて、両親をなだめる。

「待って。冷静に俺の話を……」

 母さんも父さんも、俺の事を誤解しないでくれ。

 と弁明しようとした。

 だが、遅かった。

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