麻痺

maise

     

「静かにしろ!!!」


教室中に先生の怒号が響いた。


身体中で壊れたラジオのように、0コンマ何秒か前に流れた音がガタガタとリピートする。


「あ…」


ふと、思い出した。


「え…? これが…私?」


思わず、さっきまで出なかった声が出る。



本当は、本当は、本当は…


「でさーw」

「がちで?」


ついさっきまで、そんな会話が聞こえてくるのをぼーっと感じていた。


先生が授業をしている。

テレビ画面にキャストされた動画が、まるでBGMのように流れている。


こんな状況、前までは許すことなどできなかった。


今は、立ち上がって話すクラスメートを見ても、わずかに不快になるだけ。


昔なら、私は


「席戻って!」

「しずかに!」


と、注意していた。


だがここ数日、していない。


どうしてしなくなったかは、わからない。



どこかで、さわいで授業がおくれるのは当たり前の世界に転移していたのかもしれない。



注意する自分がおかしいと、そう思い込んでいたのかもしれない…



「静かにしろ!!!」


先生の怒号が響いた。


身体中で壊れたラジオのように、0コンマ何秒か前に流れた音がガタガタとリピートする。


「あ…」


ふと、思い出した。


昔はもっと注意していたことを。


思い出した。


感覚が、麻痺していたことを。


「おまえらいい加減にしろ! 授業をなんだと思っている! そんなんで…」


静まり返る教室。


先生が奏でる音が体に響くたび、心臓がナイフでぐさぐさと傷つけられる。


私の存在意義を、自己肯定感を、辛うじて保っていた精神の基盤を…








ここがどこかもわからない。どこか、高いところ。


人の迷惑にならずに人生を終えるなんて不可能だ。自身の人生が終わった後も、そのあと処理は自分ではできない。


それなら…



それなら…







『●●月●●日、¥¥ビルの屋上で、&&中学校の生徒が飛…』


「こんなニュースが、半年前に流れたんだ。お前ら、最近はこんなことも起こってしまうほど…」


そんな先生の言葉を聞く人はほとんどいない。


立ち上がってしゃべっている生徒だらけ。



そんな状況を見て、かすかに不快になる。



だが、何か声を上げて注意する気にはなれない。


先生の表情もだんだん悪くなる。


それでも、普段通りに口が回らない。


回したくない。


もどかしい。


もどかしい。


そんな時




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麻痺 maise @maise-oreo

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