第161話 説得
死の病から逃れられないと知ったヴァージルはルビアに命令をし、バルトロスの体に魂を移せと命令をした。
最初は死にゆくヴァージルの体にバルトロスの魂を移せと言ったが、ルビアはそれを拒否し、新たな提案をする。
体と魂があればその体の持ち主を魔法と魔力が使えると。
それによりバルトロスの体に入ったヴァージルは尋常じゃない魔力を得ることが出来、圧倒的な力で独裁政治を行なった。
面倒くさい事はバルトロスに任せ、ヴァージルは自分の好き勝手に振舞うようになった。
「もう終わりにしなくてはいけません。こんな事続けるべきではない」
イシスの言葉にヴァージルは眉を顰める。
「そのような風に絆されるとは、リオン王子に何を吹き込まれた。それとも逆らえないようにと契約魔法でも掛けられたか?」
「リオン王子はそのような事はなさいません。エリック様もです。二人とも私とギルナスの境遇に同情し、一縷の望みを齎してくれたのです」
もしかしたら悲しい最期になるかもしれないが、それでも慰め、境遇について耳を傾け、生かそうとしてくれた。
今でも父に見捨てられ、死にたいと思う気持ちはあるが、せめてリオン達に恩を返してからだ。
「ふん、そうやってすぐに騙されおって。本当にしょうもない女だ」
端から相手にされるとは思っていない。それでも言葉を尽くす事しかイシスには出来なかった。
「それでもこうして彼らは話を聞いてくれる、あなた方のように力づくで従わせるようなやり方よりも余程いい」
「今までこうやって帝国は大きくなり、力をつけてきた。今更こんな小僧達に倣うつもりはない」
「今までがそうだから今回も勝てる、というわけではないでしょう。そうであれば、このような深部に敵を招き入れることなどなかったと思いますが?」
ここまで敵を引き入れたという話は聞いた事ない。
そもそも帝国領への侵入を許す事すらなかったはずだ、今回の戦がいつもと違うのは明らかである。
「生意気な口を……!」
ヴァージルはイシスを睨みつける。
「バルトロス、後継ではないからとお前に任せたが、教育に失敗したな。本格的に寝返るとは」
「そのようですね」
否定することなくその言葉を受け入れる。
「お父様、お止めください。こんな事をしても破滅するだけです。伯父様に地位も体も奪われ、それでいいのですか? あなたの生き方は、本当にそのようなものでいいのですか?!」
「こいつは俺の為に生まれ、そして死ぬんだ。本来なら体を貰った時に殺しても良かったところを、生かしてやったんだ。感謝されてもいいくらいだろう」
イシスの必死の説得をヴァージルが嘲笑う。
「リオン王子よ。投降し、契約魔法を課せさえすれば、こちらとて争うつもりはもうない。アドガルムにはヴァルファル帝国の傘下に入ってもらい、バルトロスがエリック王太子として統治すれば何も問題ない。これ以上血も流れずに済む、いい案ではないか」
「誰がそのような事を許すものか」
リオンは声を上げた。
「お前ら帝国はどれだけの国を、民を踏みにじってきた! 契約魔法で人を奴隷のように扱い、命を弄ぶ、そんなものを王として崇めるつもりはない。何より僕が従うと心に決めているのは紛い者なんかじゃない、本物のエリック兄様だけだ」
リオンの言葉に皆が武器を手にし、構える。
「我が主を返してもらいますよ」
もうライカにも迷いはない。
刺し違えても、ティタンを止めると決める。
このまま操り人形のままで居させたくはない。命を奪う結果になっても後悔などする気はなかった。
イシスとギルナスも目を合わせ、頷く。
「裏切者で結構。私は自分の意思で命の恩人であるリオン王子に付くわ」
「先に我らを見捨てたお前らを、もう敬うべき者とは思わない。俺が仕えるはイシスお嬢様だけだ」
イシスもギルナスも帝国と戦うと決意を固める。
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