第130話 魔力の攻防

 エリックはすぐさま氷魔法と防御壁で攻撃を防ぐ。


 近くにいたオスカーもまたエリックの魔法で守られた。


「無事か、オスカー」


「あ、ありがとうございます」

 すぐ近くに居た為にオスカーを守ることは出来た。


(金の瞳を持つだけある、凄い魔力だ)

 これだけの至近距離では、防御壁だけで防ぎきるのは恐らく難しかっただろう。


(レナン!)

 遠くにいる彼女に目を遣ると向こうも無事なようだ。


 このような広範囲にここまで強大な魔法を放てるとは、イシスの力は想定以上だ。


(何より二つの属性魔法を使用するとは)

 イシスは影を操る魔法を使用していた、その一つだけかと思っていたのに。


 まさか雷までも使用できるとは。


「ニコラ!」

 オスカーの言葉にエリックはそちらを見る。


 ニコラの魔力では防ぎきれなかったようだ。


 酷い火傷を負っている。


「生きてる、大丈夫だ」

 そうは言いつつもニコラの体は所々皮膚が焼け落ち、出血している。


 掛けていた眼鏡もどこかに吹き飛んでいた。


「まだまだよ」

 彼女が現れたのは二コラの後ろだ。


 二コラが剣を振るより早く、腕が糸で切り落とされた。


「!!」

 驚愕で目は見開くものの、すぐさま自身の腕を拾い、身を翻す。


 そのまま後退しながら止血の為に傷口を強く抑えた。


「痛みに喚くかと思ったけど、冷静ね」

 額には脂汗をかいているが、二コラは苦鳴も漏らさない


「こんな攻撃では俺は死なない」

 痛みに堪えながらもイシスを睨む。


「ニコラ、回復するからこちらに来なさい!」

 キュアの叫びがこだました。


 レナンの青ざめた顔をしているのが見え、エリックはオスカーに目配せをする。


「ギルナスがどこかにいる、油断するなよ」

 まだ姿を表していない相手を警戒しながらも周囲を警戒する。


 弱ったニコラに止めを刺そうとどこかで狙っているはずだ。


 エリックは冷気を操り、氷を生み出す準備をしている。


「王子は加勢に来てくれないのね、見捨てられたかしら?」

 その場を動こうともしないエリックを見て、イシスはそんな言葉を吐く。


「僕を信頼してくれてるんですよ、エリック様が僕を見捨てる訳がない」

 口調は穏やかなものに戻るが、その目はギラついていた。


「あなたは僕が殺します、覚悟してください」

 ニコラの姿がかき消え、風が発生する。


「出きっこないわ」

 再び雷が発生し轟音が響く、特にイシスの周囲は逃げ場もない程に光で埋め尽くされた。


(まだギルナスは出てこないか)

 先程と同じように氷の壁と防御壁でエリックは己とオスカーの身を守る。


「さすがに死んだわね」

 肉が焼ける嫌な匂いが漂ってくる。


「……」

 倒れたニコラを見てもエリックは表情も変えない。


 キュアがレナンを支えているであろう声がした。


 このような刺激は酷であろう。


「最後まで助けもしないなんて、薄情な主ね」

 侮蔑も嫌悪も混じった声だ。


「お前のとこよりはマシだ」

 倒れるニコラに悠然と歩み寄り、何かを呟く。


 ニコラはピクリとも動かない。


「お前達二人は捨て駒だろ。時間稼ぎの為にこのような事をしているのか?」


「……何の話だ」

 イシスは目つきを鋭くさせた。


「話もせずに奇襲をしていれば、すぐにでも皆殺しに出来ただろう。これだけの魔法だ、防げてもただでは済まない。それにお前の影の魔法で城内を歩いている時に俺なりレナンなりを人質に取れば、もっとすんなりと始末できたはずだ。こんな悠長に話をし、尚且つ力も温存している。本当に本気で俺を殺そうと思ってるのか?」

 仮説ではあるが、イシスもギルナスも何となく詰めが甘いように思えた。


 だからと言って、こちらが手を抜く理由にはならないが。


「従者は殺せても、俺は殺せないのだろ」

 エリックはそう言うとイシスに向かい、魔法を放つ。


 迫りくる刃を防ごうと防御壁を出すが、エリックの刃はすんなりとそれを貫通する。


「なっ?!」


「お前よりも俺の魔力が強いようだな」

 二コラをやられて頭に来ないわけではない。


 最初よりも強力な魔法を放ち、追撃を重ねようとするエリックを見て、イシスは直ぐ様転移魔法を使用しようとするが体が動かない。


「何これ」

 イシスの足元には蔓が絡まっている。


 じわじわと上がってくるそれは徐々に数を増やしていた。


「可愛らしいでしょ? 花も咲くのよ」

 オスカーが笑うとぽんっと蕾が開く。


「くっ!」

 糸で切り刻もうとするが、それらは数を増し、きりがない。


「あなたの事が気に入ったみたいね、お花は好きかしら?」

 毒性もあるのか、花が咲く度に呼吸が気に苦しくなる。


 この状態は危険だ。


「イシス様を離せ!」

 オスカーの背後から現れたギルナスがメイスを振り下ろす。


 防御壁にて攻撃を弾こうとするが、呆気なく壊れる。


 オスカーはぎりぎり体を横にずらして攻撃を交わす。


 しゃがみ込み、足払いを掛けるがビクともしない。


「あらら、思った以上に固いわね」

 ギルナスからの二撃目が来る前にとオスカーは距離を取ろうとするが、止まらない。


「しつこい男は嫌いじゃないけど」

 オスカーは剣をギルナスに向け、ちらりとイシスを見た。


 転移魔法を使おうにもあの植物が邪魔なはずだ。


 オスカーの魔力がイシスの魔力に干渉し、座標を上手く決められないはずだから。


 そしてまたエリックの氷の刃が放たれる。

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