第136話 ダミアンの素顔 

「なっ?!」

 血を吐くリオンを見て驚きの声を出したのはダミアンだ。


 リオンの周囲にあった黒い靄が晴れていくのだが、それらは霧散することなく、一つの場所に集まっている。


「凄く痛いね。でも、僕の力では素手で止めるなんて、出来ないから」

 血を吐きながらリオンはかろうじて言葉を出す。


 脂汗か冷や汗かをかきながら、ダミアンを睨みつけた。


「これで、動けないだろ?」

 リオンの周囲の靄は魔力で出来ている。


 思い通りに動かす事が出来るそれは、形を変え、ダミアンの腕を包み、動きを封じた。


「兄弟揃って捨て身の戦法しか取れないか。お前も馬鹿な事をしたものだ」

 リオンを殺せば解放される、慌てることはない。


 ダミアンはリオンの体を両断しようと、腕に力を込めた。


「えっ?」

 ふと右手が軽くなった。


「先程のお礼だ」

 影渡りで現れたカミュが、ダミアンの腕を切り落としたのだ。


「皆の仇です!」「許さないですよ!」

 同じく現れたウィグルとマオがダミアンの首を狙う。


 しかしどの攻撃もかわされてしまった。


 カミュが腕を切り離した為に逃げられ、耳と顔に浅い傷を作るしか出来なかったのだ。


「貴様らぁ!」

 怒りに任せた斬撃が四方八方入り乱れるが、ブレが凄い。


 痛みと出血で上手く魔法が保てないのだろう。


「もう少しで首を刎ねられたのに」

 マオが悔し気に呻いて、ダミアンを見るが……。


「お前は、誰ですか?」

 そこに立っていた人物を見て、マオは眉を顰めた。







「何を言ってる……?」

 マオの言葉にダミアンは気づいた。


 皇帝に貰ったスペードのイヤリングがない。


 先程のウィグルの斬撃で壊れてしまったようだ。


「まさか……」

 ダミアンがウィグルを睨むのとマオが噴き出すのは同時だった。


「何なんですか、その顔は? ぼくの事をブサイクだと蔑んだくせに、自分はもっとひどい顔ではないですか!」


「黙れ!」

 ダミアンの容貌はすっかり変わっていた。


 体格も大きく乖離し、元の姿とは全く違う。


 鷲鼻で、唇も厚い。


 何かの病気の後遺症だろうか、肌もぼこぼことしており、顔のパーツも崩れていた。


「俺を、俺を笑うな! このくそアマが!」


「無理、だって醜いんだもの」

 クスクスと笑うマオは少しずつ人の少ない場所にと移動している。


「それでサミュエルを化け物と罵るなんて、ちゃんちゃら可笑しいのです。自分の顔を鏡で見た事あるですか? あぁ、だから隠してたですね、さすが心の醜い皇帝の部下、とーってもお似合いなのです!」

 先程リオンが揶揄された言葉を用いて、マオは挑発を続けていく。


「マオ、さすがにやめた方がいい。危険だ」

 諫めたいが、小さな声しか出ず、マオには聞こえない。


 腹部に剣が刺さっているのもあり、声を張ることが出来ないのだ。


 ズルズルとマオを追うように動こうとするがカミュに止められた。


「リオン様、動いてはなりません」

 荒い息をし、血を吐くリオンを支える。


「マオ様はリオン様の為に囮を買って出たのです。今のうちに治療をしましょう」

 サミュエルが駆け寄って魔法を唱えると、出血と痛みが和らぐ。


「囮の為? 本当に?」

 罵倒して逃げ回る様は、何やら生き生きしているように見えるが。


「多分、本当です」

 サミュエルの目から見ても罵詈雑言を放つマオはとても楽しそうだ。


 ああいう所が他の王子妃とは違うなと実感させられる。






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