第123話 戦の始まり

 サミュエルの解除を受けたものは穏やかな顔に、リオンの解除を受けたものからは悲鳴が上がる。


「ご、ごめんね?」

 ここまで顕著に変わるかとリオンも驚いた。


「リオン様、少し回復魔法を乗せつつ魔力を流してみてください、そうすれば少しは楽になるかと」

 サミュエルの助言にリオンは少し流す魔力を変える。


 痛みは減ったのか、短い悲鳴をあげるくらいになった。


「何が違うのかな?」

 リオンの解除は早いのだが、その分精細さに欠けるようだ。


「……何でしょうかね」

 サミュエルも首を傾げつつどんどんと解除を行う。


 異変に気付いた兵たちがいつ来るかわからないからだ。


「転移装置は無事に作動しました。現在エリック様達もヴァルファル帝国内に侵入できています」

 カミュは転移装置にてアドガルム兵がヴァルファル帝国に入国したのを確認した。


 選んだのは使われていない教会だ。


 このような中、最早神に縋るものもほぼいないそうで、使われなくなって久しい様子であった。


「ありがとう、地図も渡せた?」


「えぇ。お二方とも別方向から攻め入ります」

 シドウの書いてくれた地図をエリックとティタンにも渡してもらった。


 二人はそれにより攻める場所を決めるようだ。


 ティタンは真っ向から、エリックはその陰に隠れるように裏からと二手に分かれて行動するらしい。


「後にキール様が援軍でこちらに来てくれるそうです。今はまだ皇帝を討つための人数が揃ってないようで」


「だろうね」

 元より一度に大人数の者を送るのには、時間がかかると言われていた。


 それまでここにいる皆の命を守り、耐えきらなくてはならない。



「リオン様! こちらに向かい兵が来ています!」

 周囲の様子を伺っていたウィグルから連絡が入る。


「とうとう来たね。解除出来ていないのはあと何人くらいいる?」


「あと数十名ほどでしょうか」

 サミュエルの言葉にリオンはマントを靡かせる。


「ではサミュエル、後は任せたよ。カミュとマオは皆を逃がすのを手伝ってね」

 笑顔を向け、リオンは一人外に出る。


「お待ちください、俺も行きます」

 カミュがついてくるのを押しとどめ、リオンは口角を上げる。


「大丈夫。寧ろ一人の方がいいからさ。来る時は巻き添えに気を付けてきてね」






「わぁ。思ったよりもいっぱいだ」

(僕だったら貴重な手駒を減らすような術者は早く殺したいからね。これくらいは当然か)

 送られてきた兵士たちは皆殺気に満ち溢れている。


「解除を警戒されたかな? まぁそうなると帝国兵ばかり送られるようになるか」

 こちらの方がリオンにとってもやりやすい。


 躊躇なく魔法を放てるから。


「容赦しなくていいのは楽だね」

 状況確認に来た兵士たちが剣を振るうよりも早く、リオンは両手から蝶を発生させる。


 放たれる蝶は蠱惑的な紫色をしており、それに触れた帝国兵は泡を吹き、顔色を変えて倒れていく。


「遅効性の毒だよ、そう簡単には死なない」

 万が一帝国兵以外に当たったらという配慮だ。


 苦しいけれど、すぐに死にはしない。


 一応シドウ達にも迂闊に立ち入らないようにと話をしている。


 敵味方関係なく広範囲に毒を撒き散らす魔法だから、万が一の巻き添えが心配であった。


 もう少しして落ち着いたら呼んで、帝国兵以外の者が混じってたら教えてもらうつもりだ。


「まともに食らったなら一日は動けないよ」

 リオンが次々と魔力をふるう中、見知ったものが来た。


「会いたくなかったなぁ」

 露骨にリオンは嫌な顔を見せる。


「不可解な事が起きたと思ったら、第三王子か。がっかりだね」


(もしかしたら、と思っていたんだけど、やっぱりこいつか。まぁ僕もそう考えるけれど)

 対策は考えていたが、出来れば来て欲しくなかった。


「出たな、変態」

 白金髪の美青年、ダミアンを見て、リオンは口元を歪めた。


「契約魔法を解除するとは相当な魔術師だろうと思ったが、お前なら納得だよ。でも僕が来たからにはここまでだ、すぐに終わらせて第二王子を殺しに行く」


「ティタン兄様はお前なんかには殺せないよ」


「そうかな? やってみないとわからないだろ。お前はすぐに死ね」

 ダミアンは即座に転移魔法にてリオンの前に躍り出て、予備動作もなく切りかかった。


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