第122話 契約魔法の解除

「よく眠れた、すっきりしたよ」


 リオンは伸びをし、サミュエルとカミュと交代をする。


 シドウに書いてもらった地図を見ながら計画を立てたり、お世話になったお礼に家事を手伝いながら、皆が起きるのを待った。


 アドガルム国とも通信で密にやり取りをし、計画を詰めていく。


 攻め入る時間帯や敵方の戦力の分散についてなど、そして皇帝のいるところまで行く最適な道と陽動を行う場所決めなど、リオンは綿密に考えていた。


(契約魔法を解除してから中心部へと向かうとして、あまり時間はかけたくないな)


 転移装置の場所から離れたところで行う予定であり、解除が出来次第援護に行きたいところだ。


 本来であれば民に構うくらいなら、一刻も早く皇帝の命を奪いに行った方が戦いの終わりが早くなるが。


(まぁ仕方ないよね)


 後々を考えると、罪のない民を助けておくのはいい方向に転がるはずだ。






 従者たちが仮眠から起きてきたところで、シドウに頼み、契約魔法で苦しめられているもの達を呼んでもらった。


 集まり過ぎては謀反を疑われてしまうので、代表者だけと話し、契約魔法の解除についての説明を始める。


「解除魔法が使えるのは僕とサミュエルだけになるんだけど、若干やり方が違うんだ。サミュエルのやり方なら痛くないけど、僕のやり方だと痛いらしいんだよね」


「同じ魔法でも繰り手によって違うものなのですか?」


「そうらしいよ。貼付薬をはがすみたいな感じって言えばいいかな? 少しだけ覚悟をしてね」


 治癒魔法の使えない平民の間でよく使う薬の染み込んだ布の事だ。


「サミュエルは優しく出来るんだけど、僕の場合力任せになっちゃうんだよね」


 回復魔法がそこまで得意ではないリオンは多少荒っぽくなってしまう、適性の問題なんだろうけど、それでも覚えることは出来た。


 エリックのように攻撃に特化した者だと更に痛いのではないかとロキは言っていた。


(兄様にやられるよりはきっと僕の方がマシだよ、うん)


 リオン的にはそれで罪悪感は消える。


 あの兄が無理なことが自分に出来るとは思えないと強く自分を励ました。


「一度に大量の者の契約を解けば、術師達は異変に気付くだろう。その間にアドガルム国の兵たちにはここから離れた場所に転移してきてもらう。様子見でこちらに来た兵は僕達が始末するからね。戦えない者はすぐさまどこかに避難していてね。もしも攻めてきたものの中で契約させられ者達がいたら、僕とサミュエルで解除する。帝国に忠誠を誓う兵であったら容赦なく殺すよ」


 あとはアドガルムから来た援軍に対峙してもらう。


「応援が来るまでは僕達で凌ぐしかないけど、何とかなるだろう」


 厳しいだろうが囮としての役目を追わねばいけないし、今アドガルムから来てもらっても大人数では目立ってしまう。


「戦う際は俺達も力を貸します」


 シドウ達がそう進言した。


「危険が伴うからすぐに逃げるか、もしくはアドガルム兵に投降してくれ。僕の名を出せば悪いようにはしないから」


「いえ、リオン様達は家族の命を救ってくれる恩人です。恩には恩を返さねばならないでしょう、その為に共に戦わせてください」


 この短期間でシドウはリオンを認めていた。


 リオンは蔑むこともしない、シドウ達にもその仲間たちにも対等な人間として扱ってくれた。


「ありがとう、そういってもらえるだけで十分だ」


 そしてごく自然に感謝の言葉を口に出来る人物だ、それだけでリオンは傲慢なだけの帝国の貴族とは違うというのが良くわかる。


「絶対に帝国の奴らに後悔させてやるから、よろしくね。アドガルムに喧嘩を売るとどうなるかわからせてやるよ」


 笑顔がとても恐ろしかった。






 一斉の解除を前に、リオンはある程度人を分ける。


 女性や子供はサミュエルの方に、自分の方には男性に来てもらった。


「女性達を痛い目に合わせるのはさすがに憚られるからね」


 とは言いつつも、もう一つ意図はあった。


(マオ以外の女性に優しくするのは嫌なんだよね)


 マオは気にしていないかもしれないが、リオンは嫌だ。


 何だかマオを裏切る様な、申し訳ないような、そんな気持ちになる。


「マオ、ちょっとだけ来て」


 皆の解除をする前にと、二人になって抱きしめる。


「必ず生きて帰ろう。ね?」


 温かな体温に癒されながら、自分にも言い聞かせるようにそう呟いた。


「勿論です! 平和なアドガルムに一緒に帰るですよ」


 何の気なしに言った言葉だろうが、アドガルムがマオの帰る場所だと言ってもらえてとても嬉しい。


(夫婦として、家族として、これからもずっと側にいてくれるといいな)


「一緒にだよ、必ずだよ」


 嫌な予感がしてならない。


 止まらない悪寒を振り切りつつ、リオンは計画を実行する。


「もう終わらせないとね。戦なんて、してはいけないものだ」






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