第121話 潜入

「ありがとう、入れてくれて」


 無事に門を抜けてシドウの家に来ることは出来た。


 他の者達にも固く口留めを約束し、契約魔法を解除する時には必ず家族を連れてくるようにと話をする。


 シドウの家は狭くまた壁も薄い為、防音の魔法を家全体に張って話し始めた。


「可愛らしいね」


 五、六歳くらいだろうか、可愛らしい女の子が物珍しそうにリオン達を見る。


 シドウの子だ。


 リオンを見つめ、恥ずかしそうにもじもじとしていた。


「これを上げる、甘くて美味しいよ」


 持っていたお菓子をシドウの許可を得て、女の子に上げる。


 口に入れるとほわぁっと女の子の表情が明るくなった。


「凄く甘くて美味しい」


「良かった、口にあったようで。まだあるから、お母さんと仲良く食べてね」


 そういってリオンは数種類のお菓子を渡したが、シドウが申し訳なさそうにしている。


「すみません、リオン様。娘にこのようにして頂けるなんて」


「いいんだよ。こうして手を貸してもらえたんだから、お礼さ。ありがとね」


 その言葉にシドウは信じられないものを見たと言わんばかりに、表情を崩している。


「そんなお礼なんて……」


「助けてもらったならば、お礼を言うのは当たり前だ。それは血筋など関係ない」


 何となくシドウもわかった。


 カミュやマオ、そして他の部下が付き従い、従順な理由が。


(このように無自覚に、貴賓関係なく振舞うなんて)


 ヴァルファルは疎か、ヒノモトでもここまでする王族は少ないだろう。


 それだけ血筋による身分の差異は大きい。


 今まで蔑まされていた分、シドウは呆気なくも感動してしまった。


「さて打ち合わせだ。シドウ、この街の地図とかない? 広くて人があまり来ない場所が知りたいのだけど」


「あいにくと地図はないのですが、そのような場所はあります。どう説明したらいいか……」


「絵は描ける? これに書いてもらえればありがたいんだけど」


 リオンは紙と万年筆をシドウに渡す。


「どこからこんなに出してくるんですか?」


 先程から急にお菓子を出したり、筆記具を出したりとどこにそんなに入れてるのか。


「ふふっ、秘密だよ」


 収納魔法にて必要そうなものは予め持ってきておいた。


 お菓子はもともとマオの為にと数種類持ってきている。


 お世話になるのだからとシドウの子にもお菓子を渡した。


 子どもや女性は甘いものが好きだろうと思ったのだが、それで信頼してもらえたようだ。


 マオにももちろん後で渡すつもりである。


「シドウに地図を書いてもらってるうちに交代で少し休もう。マオとウイグル、そしてサミュエルも、少し休んだ方がいい」


 体力的に心配な三人を慮った。


「俺達は床でいいですが、さすがにマオ様にはちょっと」


「床でいいです、慣れてるです」


 コロンと部屋の隅で丸まったマオはすぐに目を瞑る。


「うちの猫は思い切りが良すぎるね」


 王子妃として、なんて振る舞いはこれっぽっちもないのだろう。


 リオンはマントを脱いで、マオに渡す。


「少しは違うよ、これを敷いて」


 さすがに寝具の提供をして欲しいとは言えないし、室内なだけまだましだ。


 突然押しかけて来たもの達を受け入れてくれたシドウの家族にも、感謝している。


「リオン様、俺は平気ですからマオ様とウィグルとどうかお休みください」


 サミュエルはそう促すと、マオの隣にリオンを座らせる。


「疲労回復の薬です、セシルより貰いました」


 薬師として優秀な義弟が作ったものだ、効果は相当高い。


 ただ、数がない為リオンを優先させてもらった。


「短時間の睡眠でも疲れが取れやすくなります。ぜひマオ様と休まれて下さい」


 サミュエルの気遣いに、リオンの口元が綻ぶ。


「ありがとね」


 サミュエルの気遣いを有り難く受けて、リオンは薬を口にした。


 すっきりとした飲み心地で、味も悪くない。


 きっと戦地にいち早く行く義兄のためにとセシルが頑張ったのだろう、だいぶ改良されているようだ。


「じゃあお言葉に甘えて休ませてもらうけど、何かあったらすぐに言うんだよ」


 さすがにリオンは横にはならず、壁に凭れ掛かって座るくらいにとどめる。


 マオの頭を持ち上げ、膝を貸し、満足そうに目を瞑った。


 ウィグルはそのやり取りをややいたたまれない気持ちで見た後、剣を抱えて目を瞑る。


 カミュとサミュエルはそれを見て、そっとシドウのもとへと向かった。





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