第119話 信用 

「君がカミュと同郷の者か。気を楽にしていいよ」


 にこにことするリオンは至極胡散臭く、無遠慮にシドウを頭の先から爪の先まで観察していく。


「契約の証というものを見せてもらえるかな?」


 興味津々にいうものだからますます警戒された。


「お前みたいな誰かも知らぬ者にそんな事は出来ん」

 逆らうようにシドウが目を逸らすと、カミュから殺気が漏れだした。


「悪いが主君への無礼は許さない、こいつらの命が欲しくば大人しく従え」

 シドウ以外の者はカミュの影の中に取り込まれている。


「落ち着いてカミュ。名乗りもせずに頼んだ僕が悪かったんだよ」

 リオンは少しすまなそうな顔をして、改めて名乗る。


「僕はアドガルム国第三王子のリオンだ。そちらのカミュは僕の従者なんだけど、小さい頃から一緒だからかとても過保護でね。僕に対して失礼な真似をするものは苦手らしいんだ」


「第三王子……」

 まさか王族が来てるとは思わなかったのだろう、その顔は驚きに満ちていた。


「帝国の情報を知りたくて来たんだけど、良かったら教えてくれない? 色々教えてくれたら仲間の解放と、そして今ついている契約を解除してあげるよ」


「本当か?!」

 シドウが思わず身を乗り出すと、カミュが近づかせないようにと掴み止める。


「本当さ。王族として誓うよ、嘘はつかない」

 シドウは半信半疑だ。


 王族や貴族に対して自国にいる時は尊敬の念を抱いていた。


 彼らは自分達のような平民にも優しく接してくれた、だからそれが当たり前の貴族たちの姿なのだと思っていた。


 しかしヴァルファル帝国に連れてこられてから、そのようなものは脆くも崩れ去る。


 帝国の貴族や王族は私利私欲のために、シドウのような異国のものや侵略先の民を酷く蔑み、脅かした。


 アドガルムの王族もどのような考えを持っているのか分からず、信じきれない


 いくら同郷のカミュが忠誠を誓っているとはいえ、シドウ個人がリオンを信頼できるかは別である。


 最悪もっと酷い目に合わせられるかもしれない。


「僕の言葉だけでは信用ならないか。では妻の言葉ではどうだろう」

 リオンは少し離れた場所に待機させていたマオを呼ぶ。


「リオン様、私にご用ですか?」

 マオは改めた口調で、リオンの側に歩み寄る。


「こちらの者に帝国の話を聞きたいのだけれど、僕の事が信用できないみたいで。マオからも僕が信じるに足るものだって言ってくれない?」

 シドウはリオンの隣に寄り添うマオを見て、目を見開いていた。


「そんな、ヒノモトの者が他国の王族の妻になっているなんて……」

 カミュを見た時と同様の、いやそれ以上の驚きを見せる。


「まさか攫われて? いやまさか、あんな遠くの国からアドガルムまでなんては、あり得ないだろう」

 普通ならば考えられないが、シドウ達みたいに無理矢理従わされたのかもしれない。


 好意的なのも命を掌握されているからかもと、まだ懐疑的だ。


「私はリオン様に助けられたのです。私はシェスタ国の王女だったのですが、他の王女様達に蔑まされていました。母が側室ではなく愛妾だったから。リオン様が救い出してくれたから、今は幸せになる事ができました」

 マオはその点は本当に感謝している。


 リオンに連れ出されなければ、食事もままならない有様であっただろう。


 そしてアドガルムへの賠償金の支払いのために、どこかに売り飛ばされていたかもしれない。


「リオン様はとても優しく慈悲深い方です。私が失礼な態度を取った時も、怒りもせずに寄り添ってくれました。私やカミュ、そしてここに居る他の者もリオン様に命を捧げています」

 これも本当だ。


 皆リオンに感謝し、忠誠を誓っている。


「あなたには信じがたいかもしれませんが、アドガルムの王族は皆貴族の常識からいい意味で離れております。ですのでどうか、リオン様の言葉を信じては貰えませんか?」

 黒い瞳がシドウを映す。


 リオンは内心の嫉妬を押し殺し、様子を伺った。


 シドウの故郷の者と思われる黒髪黒目の人物が二人もいるのだ、信じてもらえる確率は高いだろうが祈るしかない。


 この後の計画もあるし、力で従わせたくはなかった。


「わかった、この王子様を信用する」

 シドウは迷いながらも信じる方を選んでくれたようだ。


 説得に応じてもらえてリオンもホッとする


 手荒な真似をしなくてすんだ事と、マオをあまり独占されると嫉妬で気が狂いそうになるからだ。



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