第118話 偵察
「さて大事な仕事だね」
闇に紛れ、リオン達はヴァルファル帝国近くの山中にいる。
昔帝国の近くに来たことがあるというロキに送ってもらった。
カミュやサミュエル、もちろんマオやウィグルも一緒だ。
帝国の街にも行ったことはあるらしいが、万が一誰かの目に触れたらまずいという事で、少し離れた場所への転移となった。
「皆でぞろぞろ動くと目立つから、まずは僕が様子見するよ」
リオンはマオを呼ぶと隣に座ってもらう。
その横に自身も座り、魔法を唱え始めた。
「僕の体をよろしくね」
そう言って、目を瞑り、マオの肩に頭を乗せて体を委ねた。
リオンの魔力が帝国の方に伸びていき、様子を探っていく。
そちらに集中すると、リオンは自分の事が疎かになってしまう。
だからマオに託した、男に凭れかかるなんてしたくなかったし。
力のなくなった体は重いが、それを命の重みとして受け止め、マオも周囲に気を配る。
とても静かだ。
皆気を張り詰めている。
リオンの命を守るという重責の為に、誰も話さない。
「……三時の方向から人が来る。カミュ、探ってきて」
リオンのの言葉に皆が武器を持ち、サミュエルは防御壁を展開させる。
「サミュエル、後は任せたぞ」
カミュは静かに闇夜の中に溶けていった。
夜闇に紛れる集団を見つけ、カミュは息を殺し近づく。
こちらに気づいてる素振りはない。
カミュは一番後ろの男の背後に周り、口を塞ぐ。
突然の奇襲に驚き、声も出ないようだ。
その隙に縛り上げ、一人、また一人と影の中に引きずり込んでいく。
「聞きたいことがある。大声は上げるなよ」
最後の一人の首元に剣を当て、質問をする。
突然の襲撃に驚いたものの、声は上げていない。
大した胆力だ。
「帝国の者と見て間違いないな?」
着物姿で刀を携えている、この辺りでこのようなスタイルのものは珍しい。
男は小さく頷いた。
「そういうお前はアドガルムの者か」
小さく問われたが、カミュは何も言わない。
カミュは素早く影を操り男の体を縛り上げる。
「殺されたくなければ質問に答えろ、俺への問いかけは許さない」
身動きの取れなくなった男と対峙しそう言うと、男は目を見開き声を上げる。
「その黒髪、黒目……まさか同郷か?!」
その発言には覚えがあった。
以前異国の地で同じことを言われたことがあった。
海を渡った遠いところにある国。
カミュのような黒髪黒目の人種が多いところ。
カミュはその国の言語を思い出し声を掛ける。
『その言葉、お前はヒノモトの者か?』
そう聞くと男は喜ばしそうだった。
『ここでこの言葉を使う者と会えるとは思わなかった、なんてことだ』
男は涙を流し始める。
それほどまでに、ヒノモトの国の者は仲間意識が強い。
遠い目異国の地で同郷のものに会えて喜ばしいようだ。
(俺にはわからないが)
孤児であったカミュは本当のところ自身の出生を知らない。
ヒノモトが母国かもしれないし、違うかもしれない。
だが今はあえて否定することもないだろう。
『泣くな。まずは質問に答えろ』
リオンのためにも良い情報が欲しい。
『ここには何をしに来た』
『警邏の為だ。アドガルムの者がどこから入り込むかわからないからって、交代で監視に来ている』
自分達に気づいてきたわけではなさそうだ。
『他にもいるのか?』
『いや、今日は俺達だけだ。夜通しウロウロするんだが、こんなサプライズがあるとは思わなかった』
『お前たちは生粋の帝国のものではないだろ。何故従う?』
この者達は自分の意思で帝国に仕えているのか、それとも従わされているのか。
返答次第で影の中に取り込んだ者ごと始末することも考えなくてはならない。
『誰がこんな国の為に好き好んで命を賭けるものか……』
滲む声には怨嗟の思いが詰まっている。
嘘のようには見えない。
『家族か、或いは自身の命か。どちらを握られている?』
事前に知り得た情報のお陰で、円滑に話が進む。
『……両方を』
男は自身の服を少しだけはだけさせる。
契約の印が明瞭に見えた。
『屑な国だな』
少なくとも目の前の男が二コラのような狂信者には見えない。
無理矢理結ばれのていると判断し、カミュはこの者たちが敵ではないと結論づける。
『お前の名は?』
『シドウだ』
シドウと答えた男を信じようとカミュは通信石を取り出す。
『我が主に伺いを立てる』
男が怪しい動きをしないかを注視しながら、カミュはリオンに事の次第を話した。
リオンはひと通り話を聞き、シドウを連れてくるよう命ずる。
「好都合だ、人体実験に丁度いいんじゃない?」
リオンの声は言葉の内容とは違い、とても明るかった。
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