第104話 派手騎士の恋人②
「オスカー殿!」
「ダラス殿でしたか。敵襲かと思いましたよ」
入ってきたのはメィリィの父親だ、すぐに剣を仕舞う。
「怖がらせてごめんなさいね、大丈夫かしら?」
突然の事にカチコチと固まっているメィリィに声を掛けた。
「はいぃ、大丈夫ですぅ」
思わぬオスカーの男らしさにメィリィは耳まで赤くしてしまった。
「先触れもなく来てると言うからメィリィが心配だったのです。何もされてないか?!」
「恋人としてのハグくらいよ。それ以上はしてないわ」
オスカーは唇を突き出し、拗ねる。
二人きりの空間に水を差された事に不満げだ。
「でもまぁ丁度いいわ。ダラス殿、諸事情により今度する予定だった、婚約についての誓約は延長させてもらいます。でも、アタシに許可なくメィリィに別な婚約者を紹介しないでね。そうなったら奪いに来るわよ」
決心はつかないけど、他の男に渡すのは嫌だ。
牽制はしていく。
「延長……わかりました」
その理由はわかってはいるだろう。
メィリィの父、ダラスは王城の文官だ。
戦についてはまだ言ってはいけないとされているから、娘とは言え伝えることはしないはず。
「オスカー様は、本当に娘を娶るつもりがあるのですか?」
「……勿論よ」
「騎士という危険な仕事で、そして王太子様の側を離れられないあなたが、本当に娘に不自由させないか心配なのです」
「何とかするわ」
仕事の事はどうしようもない。
今更この仕事を辞める気はないのだから。
「では娘とエリック様。どちらも命が危険となったら、どちらを取ると言うのです」
「エリック様ね」
即答する。
「主の命を守るのがアタシの仕事。だから悪いけどそういう場面になったらメィリィよりもエリック様を守るわ」
はっきりと言うオスカーの声に迷いはない。
それは仕事としての忠誠心だけではない。
命の恩人に対する昔からの誓いで、揺るぎないものだ。
「メィリィ、今からでも遅くはない。こんな男よりも別なものにした方がいい。もっと穏やかな仕事についていて、愛してくれる者はいるはずだ」
オスカーは王太子の護衛騎士という重臣だ、その配偶者になればメィリィも命の危険にさらされる可能性がある。
オスカーと別れれば心穏やかに過ごせるだろう。
「でもね、アタシはメィリィの事を愛している。もしもメィリィが殺されたら、アタシもそいつを殺すわ。どこまでも追いかけて必ず仕留めてやる」
低くなる声はいつもの甲高いものではない。
オスカーの素の声だ、明らかなる男性のもの。
「そして後を追う。メィリィのいなくなった世界で生きていけるほど、俺は強くない」
そっとメィリィの髪を撫で、オスカーは優しく微笑んだ。
「すまない。俺の仕事はとても危険で、命の保証もないものだ、でも俺はエリック様に大恩がある。辞めたくはない。そんな俺だから受け入れられないという気持ちもわかる。無理だと言ってくれれば別れに応じるよ。君をいつまでも縛ることは出来ないからね」
メィリィの幸せを思えばそもそも自分から身を引けば良かったかもしれないが、出来なかった。
部屋の花が急速に消えていく。
「メィリィ、あなたの意向に従うわ」
一輪の薔薇を差し出した。
メィリィが受け取るか、受け取らないか。
判断を委ねる。
「オスカー様……私は、私を大事にしてくれる人がいいです」
暫し迷った後、メィリィは薔薇を受け取る事なくオスカーを見つめていた。
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