第96話 ルド②
「いえ、ルド様の事です。いらっしゃるとお思いでした」
すっかり心を乱されてしまうチェルシーと真剣なルド。
「俺に恋人はいません」
「そうなのですか?」
てっきり婚約者くらいいるのだと思っていた。
自分より年上で、護衛騎士としての仕事について長いと聞く。
顔立ちも整っていて、性格も、そしておそらく給料もいい。
「その、そういう話は頂くのですが、どうもご縁がなくて」
少し気まずそうに言うルドだが、チェルシーにはチャンスにしか見えない。
こんなイケメンがフリーとはどういう事か。
「何が駄目なんでしょうね。こんな素敵な人なのに」
意識しているのだと仄めかしていく。
「ありがとうございます、そう言っていただけると嬉しいですね」
ルドの照れてる様子も見れて、何だか嬉しい。
「いつも条件を言うと断られるので、制限が多すぎるのかもしれませんね」
「ちなみにどんなものですか?」
「陞爵について口を出さない事、ライカと縁続きになる事を嫌がらない事、そして俺は長子で母の面倒を見なくてはならない事、そして護衛騎士の仕事を辞めて欲しいと言わないこと、でしょうか」
どれも大したものには思えない。
「陞爵って出世のことですよね? 口出しって、ルド様の功績ですよね」
まぁ全体の収入が上がるが税も上がる。
今のルドは子爵位で、領地もない。
「えぇ。環境が変われば色々忙しくなるでしょうから、お断りさせてもらってるのです。俺はそう言うのに時間を使うならば、鍛錬やティタン様の補佐のために使いたいので」
チェルシーもその辺りは詳しくないが大変そうだと感じる。
「まぁ、お忙しいですもんね。護衛も大事な事ですし。ライカ様と縁続きって嫌がられるんですか?」
ルドの赤い髪の双子の弟、口調は乱暴だが、意外と優しい男だ。
「昔は『狂犬』と呼ばれてたからその名残でしょうかね。いまだに苦手とするものは多いようです」
ルドにとっては大事な家族で弟だ。
それを嫌がるなど、許しがたい。
(確かにあの口調とかだと貴族の女性からは敬遠されそうね)
チェルシーは特に気にしないが、公の場に出るものは特に言葉使いやマナーを気にする。
「後は母の事や仕事の話。俺は辞めるつもりはないけれど、危険な仕事だからやめさせたいと思う女性は多いようです」
それはそうだ。
死地に赴いたり、主を助けるために命をかける誓いを立てている。
ライカもそうしてミューズを守るために重症を負ったわけで、特にティタンへの同行は危険なところが多い。
普通の騎士になって欲しいと言われるようだ、それでも危険ではあるけれど。
「確かに心配ではありますが、逆にティタン様がいるから安心なのでは?」
「俺の仕事を否定しないでください」
苦笑してしまう。
名目上ティタンの護衛ではあるが、正直ティタンは護衛が必要ない程強い。
「聞いた限り、どれも大した条件ではなさそうですけど」
チェルシーの中ではそんな印象だった。
他国から来たからかもしれないが、別にライカは悪い人ではないし、自分の母親を見捨てる様な人よりはいい。
爵位も興味はない。
生きて行けるだけのお金があればいいのだから。
「護衛騎士も試験があるって聞きました。そんな厳しい試験を乗り越えてなったのだから、軽々しく否定していいものじゃないし」
呆気なく受け入れるチェルシーに安堵する。
「チェルシーは何か相手に求めることはあるのですか?」
「あたしに仕事を辞めろって言わなければいいです」
「珍しいですね。仕事を辞めて家に入りたいと言う女性は多いのに」
「だってミューズ様と離れたくないですもの」
そうでなければアドガルムまで来ない。
ずっと一緒に居る為に来たのだから。
「そうですよね。あなたはミューズ様がお好きですから」
献身的に支える姿はとてもイキイキしていた。
朗らかで気遣いの出来る、素敵な女性だ。
そして仕事に誇りを持っている。
「はい、大好きです。ずっと側にいたいです」
チェルシーは力強く断言した、妬けるくらい揺るぎなく、はっきりと。
眩しい笑顔に思わず目を細める。
「羨ましいです。そのような真っ直ぐな好意が向けられているミューズ様が」
思わずチェルシーの頭を撫でてしまう。
突然のスキンシップにチェルシーは固まった。
それに気づきつつもルドは良い機会だからと今伝えようと思った。
「あなたが好きです」
「えっ?」
ロマンチックの欠片もない場所でたるが、ルドは想いを伝えた。
「冗談ですよね?」
「本気です。ずっと言おうと思ってました良ければ返事は戦から帰ってきた時にお願いしたいです。改めてプロポーズしたいので」
今振られたら戦えない。
でも長くチェルシーの側を離れる。
その間に他の人に言い寄られる可能性はあるから、言っておきたかった。
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