第36話 解放されない心

「ようやく終わったです」

 侍女をつけることを断ったマオは部屋で一人はしゃいだ。


 動きやすい少年のようなパンツスタイルとなる。


 マオの希望でリオンが用意してくれたのだが、公務の時はしっかりと正装になるというなるという約束をさせられた。


 お披露目の途中でなんだか記憶が曖昧になったが、乗り切れたのでよしとする。


 見知った人がいた気もするが、確認はあとでもいい。


 今はこの自由を満喫したかった。


「夜までは自由と言ってたし、何をするですかね」

 レナンやミューズと話すのもいいかもしれない。


 二人ともとても優しいし、受け入れてくれたから。


 ついでに今後の生活について相談もしてこようとドアを開けると、誰かが立っている。


「マオ様、どこかに行きます?」

 軽薄そうな軽い口調と、眠たそうな目をしたウィグルが立っていた。


 彼は新たについた護衛騎士だ。


「少しレナン様やミューズ様と話をしたいのです。案内をしてもらえるですか?」

 その言葉に困ったような顔をする。


「多分お二人は夜の準備で忙しくなるので、行ってもあまりお話できませんよ」


「夜? また何かあるですか?」

 二人ともというとまだ公務があるのだろうか。


 自分は何も聞いていないが、そのような事があるなら心の準備のために知りたい。


「あるでしょう、大事な事が。ぼくの口から言わせようとして、からかうのは止めてください」

 ウィグルのいう事がいまいちわからない。


「だから何があるですか、意地悪言わずに教えて欲しいのです」

 語気を強めるマオの訴えに、ウィグルはさすがに目を逸らした。


「何って今夜は、王女様方の初夜じゃないですか。こんな事言わせないでください」

 ウィグルは恥ずかしそうに、罰が悪そうにしている。


 マオはそれを聞いて、ただ鳥肌が立った。


「今夜? 何で?」


「何って、世継ぎは必要でしょう。もう勘弁してください、これ以上説明を求めないで」

 さすがにウィグルはもう無理と首を振って拒否をした。


 部屋に戻り、思考を巡らす。


「婚姻も済みお披露目したからですか? 確かに式は挙げないけど」

 夫婦になったら当たり前の事か。


 いや平民であれば夫婦にならずとも、そちらが先の婚姻もある。


 愛などなくとも行為自体は出来るし。


 マオは自分の体を見下ろすが細いし胸もない、言わなければ男の子と思われてもおかしくない。


「リオン様がそういう事をする?」

 自分とあの男性がそういう行為をするとは、想像がつかない。


 確かに可愛がってくれているが、リオンから向けられるのはそういう愛情ではない。


 犬猫に向けるような独善的な可愛がり方だし、この体に欲情するとは思えない。


 マオは生粋の王女ではないから、そういう知識がないわけではなく、どちらかと言うと歪んだ知識まである。


 シェスタの王城に行くまでは娼館に居たのだから。


「まぁそれで嫌ってもらえればいいですかね」

 あの歪んだ愛情が冷めて、手放してくれるかもしれないと、寧ろ期待してしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る