第37話 狂気と執着
リオンはただ嬉しそうにしている。
お気に入りのおもちゃを手にしたような、そんな表情だ。
従者のカミュは不思議でならない。
どうしてそこまでマオに執着するのか。
第三王子ではあるが王族だし、見目も性格もいいリオンは諸外国から結婚の打診が来ていた。
外交でも外遊でも他国を回っているので、顔も広いし言い寄られることも何度もあった。
正直気楽な立場だし、選ぶ対象も声を掛けられることも他の二人の王子に比べて多かった。
それなのに平民上がりの王女、いや、平民の女性を選んだのだ。
文句は言わないが不思議でならない。
「楽しみだ、どうしよう」
言葉は恋する乙女のようなのに、その目は狂気じみている。
普段はとても柔和なのだが、こんな時には確かにエリック様の弟だなと改めてカミュは実感する。
「お言葉ですが、リオン様。あまり押しが強いとマオ様に嫌われますよ」
ただでさえ嫌悪されているのに、これ以上無体をしては嫌われてしまうのではないかと危惧した。
このような主だが、やはり悲しむ姿は見たくない。
「そうだね、そうなんだけど、押さえられない。好き過ぎる」
一過性の愛情なのだろうけど、リオンはずっとそわそわしている。
内容が内容でなければ微笑ましいのにと、カミュは何とも言えない。
「で、マオの過去はどこまで洗えた?」
急激に変わる声にカミュは姿勢を正す。
「あまり詳しくは……元居たとされる娼館はとうになくなり、関係者も残っていませんでした。そもそもマオの母を知っているものもいない状態です」
恐らくマオが王城に引き取られてから証拠隠滅を図られた。
王族に連なるものとされるマオ、周囲の者から余計な過去が漏れないようにと残らず消されたようだ。
「なぜ彼女は残されたんだろうね」
もしもシェスタ国の関係者が消していたとしたら、コスパが悪すぎる。
マオ一人の為にそんな事をするとは思えないし、そんな虐殺めいたことが明るみに出た方が危ないのだから。
知られたら王家に批判が集まることはわかるはずだ。
そんな事を行なう程、マオはあの国で大事にされてなどいない。
マオの事を引き取ったのはシェスタの国王だが、その国王も特別目を掛ける素振りをしていなかった。
あの王城で本当にマオを気にかけていたのは、王太子と侍女長だけだ。
「誰か他に彼女を大事に思うものがいるはずなんだけど」
だからカミュに調べさせたのだが、手掛かりが全て潰されている。
余程手慣れたものがいるはずだ、綺麗に証拠をもみ消され、そして昔のことだから、カミュでもなかなか情報を追えなかった。
娼館も建物自体がないため、過去の映像を見る秘術も使えない。
「その内兄様に相談するか」
エリックであればいい知恵がもらえれかもしれないと、リオンは気持ちを切り替える。
今はとにかくあの可愛らしい猫を、今夜どうやって愛でようか考える事にした。
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