第33話 独占したい愛

 お披露目が終わり、エリックは興奮冷めやらぬ様子で自室の椅子に腰かける。


 憮然とした二コラの事は無視をした。


「やっと終わった、長かった」

 レナンに会い、ここに至るまで数か月も経っていないのだが、それでもエリックにとっては待ちわびるものだった。


 最初に父から政略結婚と言われた時は、とりあえず動けなくなるようして気が済むまで殴ってやろうと思っていたが、こんな素晴らしい女性と出会えるとは。


 武力にてこちらの言う事を聞かせ、本当の人質として王女を連れ帰ろうかなども思っていたのに、レナンに会ってそんな考えは吹き飛んだ。


 こんなにも強く独占したい人に会うとは思っていなかった。


 独占なんてものではない、囲って閉じ込めて、誰にも見せたくない。


 見た目も考え方も自分好みで時折見せる弱さがたまらなく、色々と迂闊過ぎて守った上げたくなる。


 愚かにも話し合いの場で忖度のない発言をするものだから、他の者から厭われていたが、彼女の考えを受け止める度量のない者、見る目のない者達から孤立する彼女をあの場から連れ出せて良かった。


 レナンに会う前であれば、きっとエリックはヘルガを選んでいただろう。


 小賢しく、自分を有能だと信じるあの女なら、幽閉しようが酷い扱いをしようが、エリックの心は痛まないと断言出来るからだ。


 仮初めの王太子妃の地位などくれてやっても別に良い、裏切りそうなものに大事な仕事を任せるわけがないから、張りぼての王太子妃で良かった。


 世継ぎの為とは言えヘルガと婚姻してたら手を出す気など起きるわけもなく、優秀な弟が二人もいるのだから、跡継ぎについてはそちらに任せればいいという考えもしていた。


 自分はそういうものに淡泊だし、興味もなかったのだが、レナンに会ってからは違う。


 彼女が欲しい、誰にも渡せない、レナンを思えば狂おしい程体が熱くなる。


 暴走しそうになるのを二コラが止めてくれなければ危なかった、いつでもこの従者はエリックの為に動いてくれるので、本当に助かる。


 しかし今は上の空だ。


「気になるならば、声を掛ければいい」

 二コラが気に病んでいる事情も理由も知っている。


 このまま苦悩しているのならば、はっきりと言えばいいのに。


「リオンでもマオでもいい。言えばすっきりするだろう」

 二コラは嘆息した。


「最初から言えていれば苦労しません」

 マオは二コラの大事な人だ。


 まだ正式に顔合わせをしていないし、昔とだいぶ風貌が変わった二コラにマオはまだ気づいていない。


「いずれバレる、早いうちがいいと思うが」


「リオン様に殺されてしまうかもしれませんが」

 マオを溺愛しているのは明らかだった。


 催眠魔法などをかけてでも、マオの負担を少なくしたいという狂気に満ちたリオンに、ある秘密を暴露したら何をされてしまうか。


「そんな事はしないだろう。二コラは俺の従者でマオの大事な者だ、せいぜい半殺しじゃないか?」


「……」

 リオンの実兄であるエリックの発言に、二コラはただ静かに天を仰いだ。


「助言を下さいませんか? 穏便に済ます方法とか」


「小賢しく話してもリオンなら見抜いてしまう。変に隠し立てするよりはしっかり伝えた方がいい。意外とわかってくれるよ」

 酷くマオを傷つけた自覚がある二コラにはそうは思えない。


 全ては自分のエゴと罪で行なった事だ。


 過去の過ちとはいえ、払拭されるのもではない。


「いつまでも辛気臭い顔をするな。本当に拗れそうな時は俺がリオンを納得させるから」

 心強い言葉を貰え、二コラはようやく安堵した。


「ありがとうございます、エリック様」

 あとは伝えるタイミングだけだ。





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