じいちゃん 


ねえ、じいちゃん まだ生きてる?

ねえ、じいちゃん まだ私のこと分かる?

ねえ、じいちゃん

私の声聞こえてる?

いっぱい、いっぱい訊きたいけど

もう電話じゃ話ができない

もう手紙も返ってこない

伝える手段はたくさんあるはずなのに

私とじいちゃんの間には「会う」ことしか残ってない


ねえ、じいちゃん 久しぶり

ねえ、じいちゃん あのね

ねえ、じいちゃん

こっち見てよ

大きくゆっくり話してもじいちゃんには届かない

聞き返すじいちゃんの顔が苦しそうで

聞き返されると心臓が痛くなる


だから

黙って肩をもむ

言いたいことが全部指先から伝われ、と唇をかみながら

だから

煩すぎるテレビに一緒に笑う

少しでも同じだと分かって欲しいから

だけど

それでもやっぱり違うんだと

子供に返るじいちゃんの目がいうから

悔しくて、苦しくて、でも笑う


だから黙ってそっととなりに座る

伝わるぬくもりに

肩にかけられたはんてんに

側にいる。それだけしか残ってないことに気づいてしまったから

肩を預けて眠ったふり

ずっとずっと眠ったふり

「誰やったかな」

ふいに聞こえたその声で分かってしまう

互いの間にある泣きたいくらいの溝のこと

だからやっぱり、ずっとずっと眠ったふり

ずっとずうっと眠ったふり

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