或る女の話 六日目
はぁ、もうダメね。ウジだらけの彼を見ながらため息を吐く。
なんだか疲れてきてしまったわ、ずっと彼に話しかけても彼から返事は返ってこない。暖簾に腕押しもいいとこよ。死体をずっと見て色々と物想いに耽ったけれど、彼を魅力的に見てしまうのは結局、私の中のこと。彼の死体から彼の気持ちが分かる事も無いし、結局鏡に映った自分を見てるのと変わらないわ。
私は彼の事が好きだった。それを自覚するのにこんな長い時間、彼の死体を眺めている必要はそもそも無かったのかも知れない。だって私には分かってたし、それを信じるだけで良かったんだもの。同じ様に彼の気持ちを、わざわざ口喧嘩なんかせずに信じていれば良かったわ。今更そんなことに気付いても遅いけどね。彼は言葉で語らずに、死体で語ったと言えるかしら。ふふふ、そう考えたらとても彼らしい、皮肉の効いた挑戦ね。
もう十分に、世間一般で醜いとされる死体の変化は眺めたわ。これ以上は野に晒して動物に食わせるか、数ヶ月かけて微生物の分解で土に返るかしかない。白骨を見ても私はきっと貴方の骨を大切に持つだろうし。
うん。きっとこれ以上は無駄ね。そろそろ警察に連絡しよう。そう考えたけど、身体が動かない。そういえばいつから食事をしていないのかしら、私、よく平気でいられたわね。これも彼を想う気持ちのせいかしら……
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