第13話 佐藤みさきと神山将浩と佐藤正樹

 俺達のクラスで一番仲の良い二人となると正樹君とみさきさんになるだろう。他のみんなも仲が良いし、昌晃君と愛華さんも仲は良いことは良いのだが、この二人に比べると友達感が抜けきれないのだ。というよりも、この二人はこのクラスで唯一付き合っているという事を公言しているのだ。

 仲が良いのは何よりで、先日の連休も二人で仲良く旅行に行ったらしく、そのお土産を頂いているところなのだ。名前も知らないようなフルーツを使ったお菓子なのだが、甘さの奥にほんのりと感じる酸味がちょうどよく、もう一つ食べたいなと思わせるような一品であった。

「将浩君ってさ、こっちに来る前は彼女いたんでしょ。どんなことして遊んでたの?」

「そうだな。付き合ってたってのは相当前の話なんであんまりどこかに行ったってのは無いかな。近所の公園で一緒に話をしたりたまに映画を見に行ったりしたくらいだと思うよ」

「へえ、そう言うデートも楽しそうだよね。僕もみさきもあんまり人混みが好きじゃないからそう言うのもいいかもしれないな。今度参考にさせてもらうよ」

 俺が萌香とちゃんと付き合っていた期間は短いと思うけど、その間にも色々な場所へ行ったり多くの事を話したりもした。ただ、当時はまだ子供だったこともあって手も繋いだことすらなかったのだ。むしろ、友達に戻ってからの方が手を繋いだり腕を組んだりしているような気もしていた。

「この前こっちに来てたって噂を聞いたんだけど、僕たちにも将浩君の元カノを紹介してもらいたかったな。次はいつ来るのかな?」

「どうだろう。そんなに頻繁に来ることも無いと思うけどさ、来たとしても夏休みくらいじゃないかな」

「夏休みか。来る日がわかったら教えてね。僕もみさきもその日だけは遊びに行くのを中止にしてでも会いに行っちゃうから。たぶん、昌晃君も飛鳥君も僕と同じように予定をずらしてでも会いに行くと思うよ」

「皆がいれば楽しいと思うけどさ、予定を変えてまでって程でもないと思うよ。それにさ、正樹君はみさきさんがいるからそっちの方を優先した方がいいんじゃないかな」

「それはそうなんだけどさ、どっちかって言うと僕よりもみさきの方が会いたいって言ってるんだよ。神谷さんの話ではとってもいい子だってことだし」

 萌香は決して悪い子ではないがいい子かと言われると素直に認めずらい。これと言って悪いことをしているという事でもないのだけれど、誰にもバレないようにこっそりとイタズラを仕掛けたりもしていたのだ。さすがに高校生にもなってそんな事をしているとは思わないのだが、この前会った時に綾乃がいなければ何か仕掛けられていたような感じが合ったのも気のせいではないだろう。

「まあ、それなりに良い子だと思うよ。小学校の時からずっと美化委員をやって校内清掃とか進んでやってたからね」

「へえ、思ってたよりもいい子かも。僕もそういうところは見習っていきたいな」

「それにしてもさ、正樹君たちってよく旅行に行ってるみたいだけどさ、旅行が好きなの?」

「うん、旅行は好きだよ。旅行が好きというよりも、今の家に居づらいっていうのはあるかもしれないな。ちょっと重い話になるけど、聞いてもらっても良いかな?」

「正樹君が言いたいなら聞くよ」

「ありがとう。ちょっと長くなるかもだけど聞いてね」


 正樹君とみさきさんは中学生の時に出会ったそうだ。正樹君はみさきさんの事をほとんど認識していなかったそうなのだが、みさきさんは入学式の時から正樹君の事を知っていて意識していたそうだ。中学最初のテストが終わって時間を持て余していた正樹君がたまたま立ち寄った公園にみさきさんが一人でブランコに乗っていたのを見かけた正樹君はなんとなく軽い気持ちでみさきさんに話しかけてみた。すると、自己紹介もそこそこにいきなり告白するみさきさんに驚いた正樹君はとりあえず友達になることにしたそうだ。

 月日は流れ、付き合ってはいないものの頻繁に二人で遊ぶ関係になっていた正樹君とみさきさんは近所の夏祭りに一緒に行ったそうなのだが、その帰り道に再びみさきさんが告白しようとしたのだが、それを遮るように正樹君の方から先に告白して付き合うことになったとのことである。夏祭りの熱気に当てられたのか正樹君はいつもよりも積極的になっていたとのことで、その熱は今も変わらず二人の中で熱くなっているように見える。

 二人が付き合いだしてしばらく経ったある日、お互いの両親も公認のカップルとなったのだが、正樹君がみさきさんとデートをしていた時に正樹君の家族三人が事故に巻き込まれて亡くなってしまったのである。正樹君の両親は駆け落ちカップルだったようで親戚がどこにいるのかもわからない状況であったのだが、三人の葬式にやってきたのは両親の勤めていた会社の人達と妹のクラスメイトだけで親戚は誰もやってくることはなかった。正樹君は身寄りのない未成年という事になるので施設に預けられることになる予定だったのだが、正樹君の事を気に入っていたみさきさんの両親が養子として受け入れることになって佐藤姓に変わったそうだ。

 そこで一つ問題が生じてしまったのだが、みさきさんには二つ上の姉がいるそうなのだが、その姉も正樹君の事を気に入ってくれていた。その気に入り方は家族的なモノではなく、明らかに一人の男性として意識している感じであったそうだ。みさきさんの両親もお姉さんをいさめたりしていたそうなのだが、そんな話を聞くわけもないみさきさんのお姉さんは色々なアプローチをして正樹さんを誘惑しようとしていたのだ。

 だが、年上の女性の色香に惑わされなかった正樹君はみさきさんとの関係を邪魔されないようになるべくお姉さんに会わないように避けるような生活をするようになったのだ。その一つが、正樹君がみさきさんを連れて休みの度にどこかへ行ってしまうという事なのである。あまりにも目に余るお姉さんの行為にみさきさんの両親も二人を応援する形で旅行先まで送迎してくれたりするようになったのだそうだ。

 正樹君には両親の残してくれた遺産と保険金と事故の相手から支払われた慰謝料があったのでお金に困ることは無かったのだが、早朝に新聞配達のアルバイトをしてそのお金をみさきさんの両親に全額渡していたという。みさきさんの両親は中々そのお金を受け取ってはくれなかったそうなのだが、正樹君も頑として譲ることは無かった。

 そんな生活が続くとみさきさんのお姉さんも本当に脈が無いんだなという事に気付く時がやってきて、定期的に彼氏を作って紹介してくれるのだが、本質的に重い女であるという事もあってすぐに捨てられて正樹君のもとへとやってくるようになっているという事が最近の悩みなのだと打ち明けられた。

 俺が思っていたよりも重くて辛い話を聞かされたのだが、そんな大変なことがあったとは思えないくらい普段から正樹君とみさきさんは楽しそうに過ごしているのだ。

「そんなわけでさ、僕はどんなに言い寄られてもみさき以外の事は見てないんだ。友達としてなら見ることはあるんだけど、恋愛対象としてはみさき以外は目に入らないよ」

「私も正樹の事しか見てないよ。友達としてなら将浩君は優しくて思いやりもあるから好きだけど、恋人としてはみられないかな。やっぱり、正樹が好きだからね」

 なんでだろう。俺は何もしていないのに女の子に振られたような気がする。告白したわけでも好きでもない女子に振られるというのは思っていたよりも心にくるものがあったのだが、二人の過去を聞いてしまった今はいつまでも二人で仲良くいて欲しいと願うばかりであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る