第7話 量が足らん

 アタイは髭のおっちゃんことグローケンと共にとある店に入っていった。


「今日はよろしく。あと、彼女の分も頼む。」

「承知いたしましたグローケン様。お連れ様もどうぞ。」


 店の人に奥の個室へと案内される。


「この店はこの街では有名な店でな、フィアさんの口――――――というか、胃袋にはもの足らないであろうが、味は保証しよう。」

「そうなのか?」


 個室のテーブルで店の人が引いてくれた椅子に座りながらグローケンが言う。


「ええ、串焼きをあれだけの量食べていたら噂になります。恐らく50本ではきかないと思いますが……。」

「ああ、1日100本食べていた。」

「やはり、そうでしたか。」


 ニコニコとした笑顔で受け答えをするグローケン。ただ、店の人はひきつった笑顔をしていた。


「それで、フィアさんはどちらのご出身で?」

「ん?ああ、アタイはずっと西の方で生まれた。旅をしてここへってところだな。」

「そうでしたか。では、この街ではどこにお住まいで?ここ一月ほど見かけてませんでしたから気になりまして。」

「……ああ、この街以外にも拠点があって、そっちの方にな。」


 山の方に住んでるとは言えないからな。しかし――――。


「なぜ、それを聞く?」


 アタイは警戒感を出した低い声で問いただした。


「ええ、あなたみたいなお嬢さんがこの街のどこの宿にもいませんでしたので、心配になっていたんですよ。他の町にお住まいなら安心ですね。この街へはどういったご予定で?」


 なんだ、心配していただけか。アタイは警戒を解きながら、


「ああ、何か旨いものを探してだ。」


 と、不用意に答えてしまった。


「――――そうでしたか。ここ以外も色々店がありますから、フィアさんが気に入る店があればいいのですが……。」

「ま、色々巡ってみるよ。」

「そうですね、それがよろしいでしょう。っと、準備ができたみたいですね。」


 そう言うと、店の人が料理を持ってきた。だが……。


「これは?」


 アタイの前に出されたのは、薄切りにされた固そうなものの上にこれも薄切りされた肉の固まりが乗っているものがたった3つ皿に乗っていた。それと、おそらく果実酒だと思われるものだ。


「前菜と食前酒です。まあ、食べてみてください。」


 アタイはパクっと食べてみる。うーん……。


「なんと言うか、これは塩気が強いと思う。それにこんだけじゃ腹の足しにもならないね。」

「まあ、前菜ですからな。さあ、次の皿が来ますよ。」

「……そうか。」


 続いて、皿に乗った汁が出てくる。


「これも腹の足しにはならんな。」

「そうですな、スープせすし。まあ飲んでみてください。」

「ふむ、わかった。」


 アタイは皿をつかむとごくごくと飲んだ。


「ふむ、濃厚な鳥の味がするね。十分これだけでも旨いが、流石に汁だけじゃあ腹の足しにならん。」

「そうですな……。ここに誘ったのは間違いであったかもしれん。」


 続いて茶色い塊と、皿に乗った肉らしきものがテーブルに置かれる。肉にはなにかタレみたいなものがかかっている。


「これはなんだ?」

「パンと、魚を使った料理ですね。こうして食べます。」


 グローケンが食べる様子を見て、見よう見まねで食べてみる。ほう……。


「うむ、アタイはサカナって食べたことなかったんだが、なかなか旨いな。少し塩気を感じるが、このタレがさっぱりとしていて、肉そのものの味を引き立ててるように感じる。」

「それはよかった。」

「まあ、量が少ないのは変わらんがな。」


 アタイがそう言うと、グローケンが苦笑する。


「やはり、フィアさんにこの店をすすめたのは間違いでしたね。」


 テーブルにあるパンってヤツを全てペロリと平らげたアタイをみてグローケンが言った。


「まだ、料理は残ってますんで最後までお付き合いください。―――――君、パンはこの2……いや3倍を用意してくれ。」

「はい、わかりました。」


 店員は部屋を出ていく。そのすぐ後に、また料理が来た。今度は獣肉みたいだ、量は少ないが……。そしてパンってヤツが3倍届いた。


「これもさっきと同じように食ったらいいのか?」

「そうですね。」

「じゃあ食うとしよう。」


 そう言ってアタイは肉料理を食う。ほう、これは……。


「うん、クシヤキとはまた違った旨さだな。クシヤキは中まで熱が加わっていたみたいだが、これは中心部が生に近い。それに、このタレが果物のしっかりとした味わいが肉の味に絡まって深い味になってるな。肉本来の味と言うわけではないが、これはこれで旨いな。」

「そう言ってもらえるとこの店を紹介した価値があります。」

「量は少ないがな。」

「――――やっぱり、別の店がよかったですね。次はそうしましょう。」

「うむ、頼む。」


 最後に果物が出された。森に生っているものよりも濃厚な味になっていたな。


「旨かったが、やはり量が足りんな。」


 食後にコウチャとヤキガシが出てきた。これはこれで旨いんだが、やはり量がな。


「そうですよね。ですが、きょうの料理の値段は金貨1枚――――あの屋台の串焼きですと200本分ほどになりますよ。」

「そんなにもするのか!」

「ええ、そうです。――――フィアさんに次にお会いしたときには別の店を紹介しましょう。この店ではどれだけ資金があっても枯渇しそうですしね。」

「うむそうしてくれると助かる。」


 アタイはグローケンと店を出たところで別れ、他に食べるものがないか探すことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る