貴方のことがだいっきらい……。本当にだいっきらい……。だって…………
山村久幸
貴方のことがだいっきらい……。本当にだいっきらい……。だって…………
ねえ? 貴方のこと、だいっきらいなの。
ねえ? 本当に貴方のこと、だいっきらいなの……。本当に本当にだいっきらいなの……。
だって……。
あれは10歳の日だったかしら? ねえ? 貴方?
「おい! トリー! いくぞ!」
「どこへいくっていうのよ! イルハ!」
「そりゃあ!
「いやよ! だって! パパやママが
ねえ? カイルハルト? 森は危険だというのは本当のことだったのよ? でも、貴方は嫌がる私を強引に連れて行ったわね。
本当に森の中は
「って、
「
でも、幼いながらも私を守るようにして歩き、時折、心配そうに私を見るカイルハルト。本当に強引だったけど……、「頼りになるな」って思ってたのは本当のことだったのよ?
そんな私たちを
アオーーーーーーン! と遠くから聞こえた声。
「って! まずい! トリー!
「うん!」
「ほら!
本当に強引だけど、繋いだカイルハルトの手、幼い頃からゴツゴツとしていたわね! いつも剣を降っていたし、あの日も腰には剣を持っていたものね。
一体、どれだけ走ったのかしら……。でも、私は森の出口も近いと言う時に……。
ドテッと
「
「トリー!!!
私、転んでしまって膝から血が出たの。その時、カイルハルトは私を背負って、ゆっくりゆっくり進んで……。
アオーーーーーーン! と鳴くのは先ほどと同じ声。でも、さっきよりも……。
「って、なんだよ!
でも、そんな時……
ギャウウン! と悲鳴がしたわね。
「あ? なんか
「おーい! カイルー! ベアトリチェちゃーん!」
「おーい! ベアー! カイルハルトー!」
でも、私やカイルのパパが私たちを探してくれていたのよね!
「パパーー! こっちー!」
「あ! ベアの声だ! そっちだ!」
「おう!」
私がパパを呼べば、私やカイルのパパがこっちに来てくれた。
パパは私を、カイルのパパはカイルを抱きしめてくれた。
でも、まあ、あの後は猛烈なお説教よね。だって
それでも、あの日からカイルハルトの
あれから5年して、私たちが15歳の頃に婚約したわね。5年もの間、喧嘩もいっぱいしたし、楽しいことも
周りからすれば、5年もの間婚約してなかったから不思議に思っていたみたいだけど、お互いが心地よい距離感をなかなか
ずっと一緒にいた幼馴染だから気恥ずかしさもあったのよ。それに多感な時だったものの。それぞれが同性、お互いとは違う異性、そんなことを問わずに交友関係を広げていった時期だったものの。でもね、私は私でカイルハルトとは違う異性と会話してても、なんかしっくり来なかったのよね。カイルハルトはカイルハルトで私とは違う異性と会話してても「物足りなかった」と言うのよね。だって、そうよね。お互いが知り尽くしているんだもの。お互いの癖、好きなもの、嫌いなもの、全部ひっくるめて。
カイルハルトと婚約してからも喧嘩はいっぱいしたけれども、次の日はケロッと忘れていた。周りも「また喧嘩してる……。まあ、いつものことだけど、あれで仲が良いから不思議だよな」って。でも、お互いがお互いの気持ちをぶつけることで絆は深まっていった。だから私たちの喧嘩はいい喧嘩だったのよ。
私たちは16歳になって、カイルハルトは騎士に、私は魔導師になった。なんで私が魔導師になったかって? だって悔しかったから。何もできなかったあの日。とっても悔しかったから、魔法の勉強をした。必死に努力して魔導師になったの。
「なあ? トリー? あと少しで18歳になるな?」
「ええ、そうね? それがどうかしたの?」
「うん。そろそろ……」
思い出すわ。17歳も終わりを迎えそうな、冬の終わりののどかな日差しの下。カイルハルトが私の顔を見て、真剣だけど顔を
「そろそろ?」
「そろそろ結婚しないか!」
「ええ、そうね。しましょうか」
いつ、それを言ってくれるか期待していたのよ。でも、やっと言ってくれたのよね。
「え! いいの?!」
「ええ。良いわよ! 結婚しましょ?」
「や! やった! あっ! トリーに婚前の証を用意するの忘れてた!」
「って、もう! 締まりのないわね! 婚前の証を用意して、もっと雰囲気の良い所で求婚をやり直しよ!」
「悪い悪い! 1週間後にやり直す!」
「期待してるわね!」
そう。私たちの国ではお互いが大人になる18歳までに、男の婚約者は女性に『婚前の証』を用意して求婚しなければならないの。腕輪のことなんだけれどね。
でも、カイルハルト、ちょっと抜けてるところがあるから、それを忘れてしまってたのよね。
その日が私たちの最高に幸せな日だった…………――――――――――。
幸せだった日々にどうして、どうして……あんな悲劇が来るの? そんなこと私に予想なんて出来なかったわ。
「え?! お父様? もう一度おっしゃってくれる? 今、何とおっしゃいました? 私の訊き間違いです? イルハが致命傷を負った? 嘘でしょ?」
「ああ、間違いない。ベア。カイルハルトくんのいる団が闇組織のアジトを強襲した時にやられた。ほぼ殲滅したという状態で伏兵に気づかなかった。伏兵に団長がやられるというところでカイルハルトくんがそれを
「嘘よ! 嘘よ! そんなの認められないわ! 誰よりも強くって強引だけど優しいイルハがそんなこと!」
カイルハルトを襲った悲劇に私は血の気が失せるということはこういう事かと味わわされたわ。取り乱すしか無かったわ。
「嘘でないんだ!! ……嘘でないんだ。だから、気をしっかり持って、カイルハルトくんのところに行こう。まだ間に合う」
「言われなくっても行くわよ! どこにいるのよ!!!! 早くイルハのところに連れて行ってよ!」
私の視界はぼやけていた。だって、だって……。
私は必死で騎士団の詰め所へ走っていった。本当に息が苦しくなるくらいに必死に。
ようやっとの思いで騎士団の詰め所に着いてからは息を整えて、貴方の元へ向かったわね。
「ねえ? イルハ?! 起きてよ! 私よ! トリーよ! イルハのために今、魔法を掛けるわ! 〈
カイルハルトの手は温かい。頬も温かい。でも目は
「カイルハルト様は毒と呪いにも掛かってました……」
「それを早く言ってよ!! 〈
魔導医の話を聞いて、私は必死で魔法をカイルハルトに掛けたわ。時折、心臓の鼓動を確認しながら……。でも、効かないの。どんだけ強い呪いと毒だったのよ!
……と、その時、カイルハルトが目を開けた。私の顔を見て……、笑った。
「ト……リー……。
「はい! 結婚しましょう! だから……、元気になってよ!」
「よ……か…………っ……………………た…………………………………………。ト………………………………………………………………リー………………………………………………………………………………………………………………………………」
カイルハルトは弱々しくも左腕を持ち上げ、右胸の内ポケットに入れた。そして、内ポケットから『婚約の証』の腕輪を取り出して、私に求婚をして…………、私の返事を聞いて…………………………。
パタンとカイルハルトの手は落ちた……。
「イルハ? イルハ? なんでそこで力尽きるのよ! 目を覚ましてよ! 式はどうするのよ! イルハ! イルハーーーーーーーーーーーー! いやああああああああああああああああああああああああ!」
カイルハルトは逝ってしまった……。私を置いて……。私を未亡人にして…………。
ねえ? 貴方のこと、
ねえ? 本当に貴方のこと、
だって……、貴方は私の最初で最後の恋人だったから。
ねえ? カイルハルト……。いや、イルハ? 貴方なしで私生きていけないの…………。
だから、だから、今、貴方のところに逝きます…………。だから、待っていてね?
Fin
貴方のことがだいっきらい……。本当にだいっきらい……。だって………… 山村久幸 @sunmoonlav
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