第6幕 古代より伝わる呪いの魔法

「マジカル・ドリーミング・フィールド!」


 マジカル・プリンセスが右手を高く上げて祈りを込めると、世界が茶色く染まり、時間が止まった。こうすることで近くにいた人々が、逃げ遅れたり戦いに巻き込まれたりするのを防いだのである。この状態にしてしまえば、戦闘終了後に元に戻るのでどれだけ建物が壊れても問題ないのだ。


「みんな、行くっ!」


 マジカル・バタフライの合図で五人が一斉に仲麻呂――いや、もはや松千代成蔵と呼ぶべきだろう――に攻撃を仕掛ける。


「リヴァイア・エンハンス!」

 まずはマジカル・オーシャンが他の仲間に攻撃補助魔法をかける。そして「マジカル・ファンタスティック・エターナル!」とマジカル・エターナルが魔法のステッキ(持っていないけど)を松千代に向けて、エネルギー波を発射する。


「グオオオ! おのれ、わけのわからん魔法少女とやらめ!」

 松千代は我を忘れて暴走しているわけではなかった。夢野李紗リーサから、その強靭な筋肉を「気持ち悪い」と言われたことに激昂し、暴れているのだ。そりゃ、自分の自慢の体を気持ち悪いなんて言われたら怒るのは当然だ。もしかしたらこの戦いの原因はリーサにあるのかもしれない。


「マジカル・ウインド・パーンチ!」

 今度はマジカル・バタフライが強化された右腕でパンチを放つ。しかしそれを松千代は大きな右手の掌で受け止めると、そのままバチン! とはたき落とした。


「くっ!」

 マジカル・バタフライが地面に叩きつけられる前に、マジカル・イノセントが魔法のクッションを展開してダメージを防いだ。

「大丈夫ですか、マジカル・バタフライ!」

ええああ、ありがとうイノセントマーヤ。あの筋肉は飾りじゃない、本物!」


 松千代は筋肉を大きくパンプアップさせて、両手の拳で自身の大胸筋を叩く。ゴリラが敵を威嚇するときなどに行うドラミング(※1)といえばわかりやすいだろうか。


「物理攻撃は通用しないと思っていいでしょうね、魔法で攻めましょう!」


 マジカル・バタフライの様子を見ていたマジカル・プリンセスが全員にそう呼びかける。そのときだった。

 ドラミングを繰り返していた松千代の体から、大量の黒いオーラが発生したのだ。

「まずいわ!」

 いち早く反応したのはマジカル・エターナルだった。みんなを一カ所に集め、マジカル・オーシャンと一緒になってバリアを貼る準備をする。


「私の筋肉は気持ち悪くなんかなァい! 筋肉こそが、筋肉こそが全てなのだァ! くらえぇ、これが松千代神社の筋肉マッチョ増量の呪いダァ!」


 ――筋肉マッチョ増量の呪い。


 その言葉にマジカル☆ドリーマーズの全員が反応した。三人はすっごく嫌な予感がして顔をしかめた。残りの二人は、なぜかわからないが少し期待するような、嬉しそうな表情をしていた。


「絶対に、そんな呪い……跳ね返してやるんだから!」


 マジカル・エターナルが両手を広げて、最大限の力でバリアを貼る。マジカル・イノセントとプリンセスも同じように両手を広げてバリアに魔力を注ぎ込む。

「まさか二人は呪いを喰らってみたいとか思ってるんじゃないでしょうね!」

 プリンセスが、バタフライとオーシャンに向かって尋ねると、二人は一瞬びくっと体を震わせた。

「ま、まさか。ねぇオーシャンなあ、秀雄!」

「そ、そうです。ボクたちがいくら筋肉マッチョが好きだからって呪いにまでかかろうなんて!」


 筋肉マッチョ担当の魔法少女二人も同じようにバリアに魔力を注ぎ込む。しかし、松千代の力の方が上だった。


「そんな!」

 五人の魔力で作り出したバリアにヒビが入り、パリン! と音を立てて割れた。一気に黒い筋肉マッチョ増量の呪いが魔法少女五人を包み込む。


「うわあぁぁぁ!(少し嬉しそう)」

「いやああぁぁぁぁ!(断固拒否の悲鳴)」


 もはや誰が言ったと書かなくてもわかってしまうのが恐ろしい。魔法少女マジカル☆ドリーマーズは全員が筋肉マッチョ増量の呪いを受けてしまったのだ。



(※1:最近の研究によると、ゴリラは決して威嚇のためだけにドラミングを行うわけではなく、ストレス解消や自己主張するときの手段の一つとして行うと考えられているようです)

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