第1幕 ちょっとヤバい男、綾小路仲麻呂
僕の名前は
市立夢見丘高等学校に通う二年生だ。自分で言うのもなんだけど、容姿端麗、成績優秀、品行方正で非の打ちどころがない人間だと思うんだよね。家柄も平安時代の貴族の流れを汲む由緒正しいもの。名字を見てくれればわかるだろう。綾小路。古風で貴族的で、かっこいいじゃないか。
隣のクラスにいる、人を何人か殺していそうな番長とか、おかっぱメガネの自称学校一の秀才とか、様呼びされて調子に乗ってる委員長女子とかもいるけど、本来目立つべきはあいつらじゃない。この学校の中心となり、引っ張っていくべき存在なのは、そう、この綾小路仲麻呂なんだ!
現在、僕は生徒会に所属しており会長補佐の仕事をしている。来年は生徒会長になり、名実ともにこの学校を支配……おっと失礼、引っ張っていこうとも思っている。そんな僕に言い寄ってくる女子も多い。だけどね、この僕に釣り合う女子なんてそうそういるもんじゃない。相手を不機嫌にさせないよう、僕への好感度が下がらないように丁寧に断り続けている。
ある日、そんな僕にぴったりの女性が現れたんだ。
彼女こそ、この完璧な僕の彼女にふさわしい人間だ、そう思ったのだ。聞くところによると母親が外国人で、そのせいか海外暮らしが長かったらしい。ということは、日本での学校生活も慣れていないに違いない。この僕が手取り足取り教えてあげなければ! そう思っていたのに。
なんなんだ、あいつらは。番長にメガネに委員長……ずっと夢野李紗と一緒に行動していて彼女に話しかけるタイミングがつかめない。しかも隣のクラスだからずけずけと教室に入っていくわけにもいかない。
しかし神様は僕を見ていてくれていた。あるとき、廊下でばったり一人で歩いている彼女と出くわしたのだ。
「あ、夢野李紗!」
「ん、なに? えっと……隣のクラスの人だよね」
なんと、僕のことを覚えていてくれているなんて! 面識がないとはいえ、やはり容姿端麗成績優秀品行方正な僕のことはいやがおうにも目に入ってしまうんだね! こんな機会は二度とないだろう。ここは言うしかない!
「僕の名前は綾小路仲麻呂。単刀直入に言おう、夢野李紗。今日から僕の彼女にしてあげよう! 君なら僕にぴったりだと思う」
さあ、返事をするがよい! 僕は両手を広げて、
「えっと、彼女っていうのは恋人ってことだよね? 恋人っていうのはお互いが好きじゃないといけないんじゃないの?」
夢野李紗は青い瞳でまっすぐに僕を見つめていた。そうだ、その美しい顔で美しい僕の顔を見つめてくれ! 僕は相変わらず
「うーん、初対面だし、私はあなたのことをよく知らないから、またの機会ってことでいいかな?」
夢野李紗は、そう言うとそのまま僕の横を通り過ぎ、向こうへ行ってしまった。
「姫、さっきの男性と何を?」
「なんか彼女にしてあげるっていってた」
「ええぇ? なんて答えたの、李紗」
「またの機会にねって」
そんな会話がかすかに僕の耳に聞こえたが、そんなのどうでもよかった。疑問だったのは、どうして容姿端麗成績優秀品行方正な僕の申し出を彼女は受けなかったのかということだった。
そうか! 彼女は海外出身だから、海外仕様の誘い方でないといけなかったのか!
僕のプライドをかけたリベンジは続く。
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