第22話 「日常その2(だから、私にはなかったんだってば!)」

その日の放課後、私たち四人は家政科クラスまで三田たちを迎えに行くことになった。

放課後の廊下は、もう人・人・人。

ただでさえ狭いのに、生徒の密度が限界突破している。


「うわ……なんか視線感じない?」


思わず小声でつぶやくと、前を歩くナナミが振り返った。


「ん?あー、三年生だからじゃない?それか、見慣れない顔が混ざってるから?」


いや、その“見慣れない顔”が原因な気がするんだけど。

私はチラッと後ろを見る。

――うん、原因はだいたい一人に集約されてる。


廊下の奥、窓際にもたれかかって待っていたのは三田と栗田だった。

小柄な三田と、モデル体型の栗田。

どう見ても凸凹コンビで、正直ちょっと微笑ましい。


「ごめんね、待った?ちょっと集まるのに時間かかっちゃって――って、どうしたの?」


二人とも、目を丸くして固まっている。

視線の先は……やっぱり後ろの三人。

特にタカシ一点集中。


「せ、せんぱぁい……この人たち、なんなんですかぁ……?」


「ああ、この三人ね。言ってなかったっけ?同じ三年のタカシとナナミとユウスケ。タカシとナナミは総務委員会メンバーだよ」


三田と栗田は、首をぶんぶん横に振る。

全力で「初耳です」アピール。


「知りませんよぉ……でも、なんでこんなDQNっぽい人がメンバーなんですかぁ?」


――あ、地雷踏んだ。


「三田ちゃん!それ言っちゃダメ!今それ、死語だから!」


栗田、火消しに入ったつもりだろうけど、

フォローになってない。むしろ追い討ち。


案の定、後ろでタカシが臨界点を突破する。


「あぁ?なんだとコラ!俺らはお前らの力になろうとして――」


バシンッ!


ナナミの平手打ちが、迷いなくタカシの後頭部にクリーンヒット。


「イッテ!何すんだよ!」


「アンタのそういう態度がDQNって言われる原因だって、まだ分かんないの?後輩ビビらせてどうすんの。しかもアンタ、おまけ枠でしょ?」


容赦ゼロである。


「だってさ、ナナミ!あんな言われ方したら普通ムカつくだろ!」


「事実でしょ?その髪型。校則違反ギリギリじゃん」


「う、うるせぇ……ギリギリセーフなんだよ……たぶん」


一気にトーンダウンするタカシ。

完全にナナミに逆らえない構図だ。


「ごめんね、怖くないから。こいつ見た目だけだから」


見た目だけ、はフォローなのかどうか。


「私は三年の鈴木ナナミ。一応、総務委員会ね」


「あ、はい……すみません、ちょっとびっくりしちゃって……」


まあ、家政科や農業科には、タカシ系はあまりいない。

普通科に偏在しているタイプだ。


「じゃ、案内お願いできる?被服室だよね?」


「はい、もう鍵借りてますので」


栗田の案内で被服室へ。

扉を開けた瞬間、思わず声が漏れた。


「うわ……すご……」


教室の後方には、色とりどりのドレスがずらり。

トルソーに着せられた姿は、ちょっとした展示会レベル。


「これ、全部生徒作品?」


「はい。歴代の先輩たちの卒業制作です。三年生は一人一着、ドレスを作るんですよ」


「へえ……これ、実際に着るの?」


ナナミ、食いつきが早い。


「はい。ただ、今までは家政科内だけで……それが、ちょっともったいないなって」


「だからファッションショー?」


「はい」


話は自然と具体化していく。


「でもさ、文化祭まで間に合う?」


「ギリギリ、ですけど……」


「問題は、誰が着るかだよね」


ナナミが腕を組む。

――そこ。そこなんだ。


「え?作った本人が着るんじゃないんですか?」


「普通はね。でも“ショー”なら、見せ方も大事でしょ?」


私は内心でうなずいた。

広告業界、伊達にやってない。


そこへ、ユウスケが手を挙げる。


「部外者だけどさ、言っていい?」


「どうぞ?」


「モデル、公募したら?校内だけじゃなくて、地域から」


「それ、いいかも!」


一気に空気が動く。


「宣伝は?SNSとか?」


「文化祭の特設ページとか、毎年やってるじゃん」


三人が盛り上がる。

……やっぱり、この四人は息が合う。


本当なら、野々花もここにいるはずだった。

そう思うと、少しだけ胸がざわつく。


結局、教師と家政科三年に確認を取ってから本格始動、ということで話はまとまった。

モデル公募+ファッションショー。

方向性は、かなり見えてきた。


帰り道、今度は農業科の話になる。


「なあ、地元農家とコラボって、どうすんだ?」


タカシが珍しく真面目。


「家政科ってさ、料理もやるよな?」


三田が固まる前に、栗田が即フォロー。


「はい、料理実習もあります」


「じゃあ、農業科と家政科でコラボすればよくね?」


――それだ。


食材は農業科と地域。

調理は家政科。

シンプルだけど、強い。


「タカシ、意外といいとこ突くじゃん。見直した」


ちょっと癪だけど、素直に言う。

タカシ、顔に喜びダダ漏れ。


「だろ?野々花に褒められるとか初めてじゃね?記憶喪失、すげえな!」


「ちょっと!それ失礼だから!」


「お、おう……悪気はねえんだけどな」


相変わらずだ。


少しずつ形になっていく、今年の文化祭。

季節は初夏へ。

そして、高校生活最後の連休が、すぐそこまで迫っていた。

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