神秘の塔と呼ばれた古代建造物は災厄の塔へと変貌する
影 魔弓
第1話
「雨酷いねー」
「ねー」
朝から降り続けている雨。全国どころか世界中で雨が降っているらしい。珍しいことではあるが、予想されていたことではある。
およそ100年毎に天変地異が起こっており、ここ数年で起こるのではないかと言われていたからだ。
世界各地で水害が起こっているものの、長年の研究による対策によるお陰で被害は最小限に抑えられている。ニュースでもやっていたが、歴代の災害の中ではマシな方らしい。
『えー、教員並びに生徒の皆さんへご連絡です。たった今政府から要請があり、一時的な閉鎖をすることになりました。長時間雨に当たっていた者が体調不良になるという事例が増えているようです。緊急性を除き、雨の当たる場所へは赴かないで下さい。皆さんに迷惑が掛かりますが、ご協力をお願いします』
校長からの校内放送。周りからはマジかよ……とかうわー……とか声が溢れている。
「聞いたな? 先生は会議に行ってくるから、しばらく自習してなさい」
体調不良……何だろう? 雨はそこまで酷く無かったけど、雨自体に何か悪い成分が入ってたとか……?
考えれば考えるほど悪い方向に進む。けど、この世の中で選択肢はいくらあっても良いと思う。だって、歴史がそれを証明している。
3000年前。今よりも科学が発展していた時代に起こった悲劇。文献によれば考えうる以上の、とても言葉では言い表せないほどの大災害が起こったという。
一番安全とされていた場所に設置されていたコールドスリープでさえ破壊され、人類が絶滅の危機に瀕したらしい。
今またそこまでの危機が訪れるとは思わないけど、覚悟を決めておくのは悪くはないはず。
そこから1時間経っても先生が帰ってくることは無かった。
『えー、生徒の皆さん。とても残念なお知らせです。雨が止むまで外出禁止令が出ました。会議はまだ続きますが、皆さんは自由にしてて下さい。場合によっては備蓄品を使うことになると思いますので、場所の確保等、お願いします。追って連絡します』
やっぱり事態は深刻なようで。
復習も終わって暇になってきたから、バイト先に連絡したら寝ようかな。バイト始めてから、寝る時間減ってたんだよね……。
「あ、
「ん……おはよう……」
時刻は22時。どうやら8時間近く眠っていたらしい。
「はいこれ。今日のご飯。寝てる子もいるから移動しよっか」
渡されたのは缶詰。コーンとツナだ。
「お、
先生……。
「鍵があるから大丈夫だと思うが、俺は仮眠を取る。また寝る時に渡してくれればいい。じゃ、後は頼んだぞ
そう言って先生は教壇の床で眠った。
「じゃあ食べながらで良いから聞いといてね。まず、雨が止むまでは出ちゃダメってのは覚えてるよね? 止む気配がないから、しばらく学校で過ごすことになると思った方が良いよ。で、問題は食糧。今渡された分でも少ないと思うけど、これで1週間分しかないんだって。流石にそんなには続かないと思うけど」
久し振りに食べたツナを味わいながら聞く。後は至って普通の災害時の注意点とかだったから、要点だけ覚えとけばいいかな。
あと、食べ終わったら経路を確認しに行くらしい。寝たのかな……? 寝てないのだったら早く終わらせなければ……。
「いつも思うけど、やっぱり可愛いねー。なんでこんな可愛くて性格も良くて成績も良い子が生まれたんだろう……? 世の中って理不尽だよね」
「そんなことないよ。
「またまたー。私、生まれてこの方彼氏出来たことないよ?」
それは告白しづらい雰囲気だからじゃないかな……。それに理想がちょっと高いから、仮に告白されても……って気はする。
「じゃあ行く?」
「……ごめん、先にトイレ行っていい?」
「OK。私待ってるよ」
用を済ませ、合流する。
最初に着いたのは体育館だ。
「ここの地下にね、食糧があるんだって。時間になったら先生がここにいるはずだから、その時にまた来ようね」
次は更衣室。
「ここも地下があってね。って言っても数人しか入れないんだけど……。元々は盗撮スペースだったんだって。事件後に封鎖されてたけど、これを機に解放したみたい。何かあったら逃げ込む場所の一つだね」
そして最後に食堂。
「ここは2階を保健室代わりにするみたい。軽症者はここで診て、重症者は保健室でって感じ。1階は調理道具とかあって危険だから一部封鎖だってさ。とりあえずこんなところかな」
他にも図書館とか更衣室とか施設はあるけど、天井がないから移動出来ないのが難点だ。そこを抜けるのが一番の近道なんだけどね。
「うう寒っ。細かいところは明日回ろっか。寒いし暗いし、さっさと帰っちゃおう」
「分かった。大体頭に叩き込んだから大丈夫」
そうして私たちはそそくさと教室まで戻ってきた。
「私、夜奈ちゃんの隣ね」
ほんとこの子は……。懐いてくれるのは嬉しいんだけど、頑張りすぎてる気がする。
時刻は11時半。私はさっき起きたばかりだから寝れない。
仕方ない、羊でも数えようかな。
「ん……夜奈ちゃんまだ起きてる?」
紅羽ちゃんの声でパチリと目が覚める。
「あ、ごめん。寝てたみたいね。その……トイレに行きたくて……一緒に来てくれない?」
「分かった。行こう」
携帯電話を取り出し、ライト代わりにする。時刻は午前2時。流石に電気は全て消えていた。
「その……一緒に入ってくれない? 暗くて不安で……」
普段は私は1人でトイレに行くタイプだけど、流石に私も1人は不安だし、コクリと頷いた。
「ぐおぉぉぉぉ」
「なに!?」
近くで不気味な声が聞こえた。
「きっと誰かがいびきでもかいてるんだよ……。ちょっと男子トイレの様子見てくるから、ここで待ってて」
「ちょっと待って……」
静止の声が聞こえるも、その声は弱々しい。
「静かにしてて……」
足音のような何かが近付いてくる音に気付いた私は、紅羽ちゃんにしばらく出ないように指示した。
ゆっくりと足音が過ぎ去って、完全に音がなくなったのを確認した後、私たちはモップを持ってトイレから出た。
セキュリティはほとんど万全の状態とはいえ、不審者がいるかもしれないことから、護身用に何か持っておきたかった。
周りを充分に確認し、誰もいないことを確認した私は男子トイレを見に行く。
「何この臭い……」
トイレからは男子独特の臭いがした。幸い、紅羽ちゃんは知らないようだ。知らなくて良いよ、うん。
扉以外にびっしりと付着した謎の白い液体。触りたくもない。
至る所に飛散しており、中には文字のようなものも見られた。
「嫌なものを見たね、帰ろっか」
教室に戻るまでの道のりは何事もなく、そのまま出来事を忘れたい一心で眠りについた。
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