I miss you

明日葉

第1話

「えっと、授業がちょっと私には難しくて…あ、でも…」

声が上ずる。笑いを堪えるのに必死な母の隣で、私は頭をフル回転して学校の授業の悪口になってしまわないように学校の授業の様子を伝えていた。

「そうなんだね。数学が苦手なんだ。うちには優しい数学の先生がたくさんいるから安心して。お母さん、体験授業の日時はいつにされますか?」

「6月4日は可能でしょうか?」

「はい、19:00からでしたら可能です。」

「ではその時間で。よろしくお願い致します。」

母が急に礼をするものだから、焦りつつ小さめの礼をする。いつの間にか入塾前の面談は終わり、我が家の愛車の軽に乗っていた。

「あんた、あの声はやばすぎ」

母がブレーキを踏みながら大声で笑う。

「やって…人見知りだから緊張したんだもん…」

「やからって、あんな声になる?えっと、その…」

母の似ていないモノマネに呆れつつも頬が緩んだ。


高校でできた友人の紹介がきっかけだった。背伸びして入った高校での最初のテストでとった順位は300人中238位。数学にいたっては273位だ。中学校で頻繁に学年1位をとっていた私にとって、その順位は衝撃以外の何ものでもなかった。入学後の健康診断などが終わり、入学後初めての授業が始まる頃、私は相当不安な顔をしていたのだと思う。まだぎこちない会話を続けているような、友達というには少し及ばない、その程度のクラスメイトに、自分の通っている塾に来たらどうかと誘われた。まだ、大丈夫。最初のテストは中学校までの履修範囲だったから高校からは巻き返せる。不安な自分に嘘をつき、クラスメイトの申し出を断った。クラスメイトが友達になった5月の半ば頃、中間テストが実施された。30人のクラスで26位だった。

「なあ!聞いて!うちクラス5位!部活週6の割には頑張ったくない!?桃香は?」

「この前、つーちゃんが言ってた塾ってなんていう所だったっけ?」

「え!?来てくれるん!?うれしー!」

「うん、きっと、たぶん、確実に」

「それは結局くるん!?はっきりしてよ〜」

泣き真似をしながら私に抱きついてくるクラス5位のつーちゃんを軽くあしらい、成績表をクリアファイルにしまった。そして、家族会議で入塾が確定し、今に至る。もちろん、母にはこっぴどく叱られた。


体験授業はとてもわかりやすく、2週間後には正式な入塾が決定し、通常授業を開始する日も決定した。しかし、ここで私にとっての一大事件が起こる。なんと面談を担当してくれた先生と私の授業を担当してくれる先生は違う先生らしいのだ。胃が痛くなる。たいして変わらないといえば変わらないが、会ったことのある先生の方が若干ましだ。そう思っているうちに、初めての通常授業の日になっていた。授業の開始時刻が近づいてきていた。縮こまった状態で席に座り、担当してくれる先生の到着を待つ。チャイムが鳴った。左を見る。まだ来てない。下を見る。そこからは周りをちらちらと伺うこともできず、ずっと下を見ていた。

「桃香ちゃん?はじめまして!」

頭上から聞こえてくる声に弾んだ声に思わず驚いてしまった。

「ごめん、驚かせちゃった?桃香ちゃんの数学の授業を担当することになった笹野です。今日からよろしくね。」

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