竜と姫と悪の教団

ダイヤのT

序章:予兆

 静寂が広がる星空の下、グランディア大陸の北端に位置する小さな王国の城には、一人の王女がひっそりと存在していた。彼女の名はアレサといい、彼女の美しい瞳は、遠くに迫る暗雲を警戒し、時折きらりと光を放つ。孤独な夜の王城で、彼女は窓越しに外の世界を見つめていた。

 独り言として「グランディア教が動き出したそうね…」とつぶやく彼女の声には、固い決意とそこに混じる微かな不安が感じられた。彼女の国は、長年の間、平和を享受してきた。しかし、その平和な時間はもうすぐ終わりを迎えるであろう。

 南方の国々を次々と侵略してきたグランディア教の影が、今や彼女の国の境界線まで忍び寄っていたからだ。アレサは、窓辺を離れ、王族しか立ち入ることのできない書庫へと足を運んだ。そこには、彼女の祖先たちが遺した知識と戦略が詰め込まれていた。

 彼女は本を手に取りながら、頭の中でそれらを思い描いた。グランディア教の力は強大であり、小さな王国の力だけでは立ち向かうことはできないだろう。しかし、彼女には自信があった。自分の先祖たちは、あらゆる困難を乗り越えてきたという確信があったのだ。

アレサは長い時間を費やして本のページをめくった。彼女の祖先たちは、グランディア教の侵略に対抗する手段を一つずつ模索してきた。彼らの知恵と勇気に敬意を表しながらも、彼女は心の奥では希望を捨てきれないでいた。

 アリシアは考えを巡らせながら、書庫を後にした。その小さな体には不安や恐怖が渦巻いていたが、彼女の頭の中には確固たる決意があった。

「王女様、お休みになられる時間です」と、侍女が静かにアリシアの部屋に入り、彼女の深い思考を現実に引き戻す。

「ありがとう、リリア。でも、もう少し…この問題に頭を悩ませておかないと」と、アレサは答えた。彼女は、この危機をどうにかして乗り越えなければならないという重圧を感じながらも、国民を守るためにはどんな犠牲も払う覚悟を固めていた。

「それは分かりますが、お体に障ります。私はアリシア様が心配なのです」とリリアは優しく諭した。彼女はアリシアの幼い頃からの世話人であり、彼女のことをよく知っていた。

 アリシアは少し考え込んだ後、ベッドに横になった。そして、目を閉じるとすぐに眠りに落ちていった。

数日後、アレサは再び書庫に足を踏み入れていた。彼女は真剣なまなざしで本を手に取り、それを読み進めるたびに頭の中で戦略を練っていた。彼女の目にはもはや迷いはなく、ただ未来への希望だけが輝いていた。

 そこでアレサはある決意を固める。それは、グランディア教の野望に立ち向かうため、他の国々の王たちと手を組むことだった。彼らもまた、自国を守るために必死であり、共通の敵に立ち向かう理由を共有していた。アレサは、彼らとの会談や同盟交渉を進めるために、準備を始めることにした。

 アリシアが目を覚ますと、外は暗くなりかけていた。彼女は急いで着替えを済ませると、城の外へ出た。そこには、彼女の護衛を務める騎士の姿があった。

「王女様、どこへ向かわれるのですか?」と騎士が尋ねる。

アリシアは微笑みながら答えた。「私はこれから他の国々の王たちと会い、協力し合うための話し合いをします。グランディア教の野望に立ち向かい、平和を取り戻すためには、私たち自身が行動を起こす必要があります」と彼女は力強く語った。

 騎士は彼女の決意に感銘を受け、「王女様、我々は貴女とともに戦います。この命にかけても、貴女を守り抜きます」と誓った。

 しかし、アレサが知らないことが一つあった。それは、グランディア教がすでに彼女の城内にもその影響を及ぼしているという事実だった。高位司祭ヴィクター・ノクターンの黒魔術は、城壁を超えるささやきとなって、疑念と裏切りの種をまき散らしていたのだ。

 そして、そのささやきは、アリシアのもっとも信頼する者の耳にも届いていた…ある日、アレサは従者のリリアと共に城の中庭を散策していた。彼女たちは日々の執務で疲れた心を休めるために、穏やかな時間を過ごすことにしたのだった。

「リリア、最近何か変わったことはないかしら?」とアレサが尋ねた。「私は少し不安なんだ。この国が危険な状況に置かれているような気がして……」と彼女は続ける。

 リリアは優しく微笑んで答えた。

「心配ありませんわ、王女様。私には何も感じられませんし、私たちはより強く団結する必要があります」と。

「でも、他の国々の王たちとも連絡を取り合う必要がある。彼らに助けを求めれば、きっと私たちの力になってくれるはずよ」とアレサは言い切った。彼女はその意志と勇気に満ち溢れていた。

リリアは少し考え込んだ後、「そうですね……でも王女様、まずはご自身の安全を最優先にして行動してください。グランディア教の魔手から逃れるためにも……」と静かに言った。

 アレサはその言葉に深く頷きながら答えた。

「もちろん分かっているわ、リリア」

 アレサとリリアがしばらく歩いていると、突然、背後に不穏な気配を感じた。黒い霧のような闇が彼女たちの前に現れ、その中から現れた人物に二人は驚愕した。それは、黒魔術師ヴィクター・ノクターンその人だった。

 彼は不気味な笑みを浮かべつつ言った。

 アレサとリリアは恐怖で言葉を失った。ヴィクターは彼女たちに一歩近づくと、低い声で囁いた。

 アレサは勇気を振り絞り、彼に立ち向かおうとしたが……その時だった!彼女の背後からも別の人物が現れ、リリアを拘束する。アレサの信頼する騎士であった。

「あなたは誰?なぜこんなことを……」とアレサは戸惑いながらも尋ねた。

ヴィクターは答えた。「王女様、あなたにももう分かっているはずでは?」彼は懐から短剣を取り出し、それを二人に向けた。

「私はあなたを殺すためにここにいるのです」と彼は言った。そして次の瞬間、彼の短剣がアレサの胸に突き刺さる……。

 その瞬間、リリアは叫んだ!「王女様!」彼女は最後の力を振り絞り、アレサをかばって覆いかぶさった。

「リリア!」とアレサは叫び声を上げた。リリアの体から流れ出る血液が、彼女のドレスに染み込んでいった。

 ヴィクターは微笑みながら言った。「これで邪魔者はいなくなった」彼はその場から立ち去ろうとしたが……その時、突然異変が起こった!彼の足元から黒い影が広がり、彼を包み込んでいく。そして、その闇が消えるとそこにはもう誰もいなかった。

 アレサは力を振り絞り、リリアの身体を抱き寄せた。

「リリア!しっかりして!」と彼女は叫んだ。

 しかし、リリアの返答はなかった……彼女は息絶えていた。アレサは涙を流しながら、リリアを抱き寄せた。その目は悲しみに溢れ、絶望の色を帯びていた。

 しばらく後、城の外では大きな混乱が巻き起こっていた。人々が逃げ惑う中、魔術師ヴィクター・ノクターンが姿を現し、彼らに告げた。

「王女様は私が殺した!そしてお前たちもすぐに同じ運命を辿ることになる!」

「王女様が殺された!?」と城の人々はパニックに陥った。

 アレサは悲嘆に暮れながらも立ち上がった。彼女は決意を胸に、ヴィクター・ノクターンに立ち向かう覚悟を決めた。

「私はお前を許さぬ!私の国を、そして国民たちを危険にさらした罪は重い!」と彼女は叫んだ。

 ヴィクターは嘲笑しながら言った。「王女様よ、あなたに何ができるというのですか?」彼は杖を振りかざしながら続けた。

「さあ、私と共に来るのです!」アレサは迷うことなく、ヴィクターに向かっていった。彼女は強力な魔術の使い手ではなかったが、その勇気と決意が彼女に力を与えた。彼女は杖を振り回し、呪文を唱えながらヴィクターに向かって突進した。

 戦いの中でアレサは自らの力を徐々に発揮していった。彼女の呪文と彼女の杖から放たれる光が、ヴィクターの黒魔術を跳ね返していく。そしてついに、アレサの一撃が彼の体を貫いた。

「王女様よ……あなたは本当に強い方だ」

とヴィクターは言い残し、姿を消した。

 アレサはただ安堵した。しかし、彼女はまだ戦いが終わらないことを理解していた。

王国には再び平穏が戻ったが、アレサの心には新たなる戦いの始まりを告げる鐘の音が響いていた……。

 しかしある日の月のない晩に、教団は大軍を率いてルミナリア王国に不意打ちをかけた。城壁を越え、街を焼き払い、無防備な市民たちに襲いかかる。アレサは勇敢に抵抗するが、敵の数は圧倒的であり、王国の軍は次第に追い込まれていく。

 アレサは城の地下通路を通じて命からがら脱出に成功した。しかし、その通路も敵に塞がれており、逃げる場所がない。

「このままでは危ないわ……どうすれば……」とアレサはつぶやいた。

 すると突然、暗闇の中からドラゴンが姿を現した。

 アレサは頷き、ドラゴンの背に乗り、城からひとり脱出した。しかし、敵の追跡は厳しく、王国全土が炎に包まれている。アレサたちは命からがら逃げ延びたが……その旅路は困難を極めた。

 やがて、アレサたちは見知らぬ海岸に辿り着いた。そこには小さな村があり、村人たちは暖かく彼女を受け入れた。

 しかし、彼女の国は滅亡しており、新たなる拠り所が必要だった。アレサは決断を下さなければならない時が来たことを悟った。

「私は王女としてこの国を守らなければならない……しかし私の力ではどうすることもできない」と彼女はつぶやいた。

 そして彼女は決意を固め、立ち上がった。「私はこの国を再建し、平和と繁栄をもたらすために戦う!」

アレサの冒険はまだ始まったばかりだ……彼女の行く手にはどんな試練が待ち受けているのか? そして、彼女が新たなる王国を築くことができるのか……?

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