第3話

 分裂が危ぶまれる政局不安定な2035年の残暑の厳しい秋の夜、国道125号線で不審なトラックを追跡していた茨城県警のパトカーが銃撃される事件が発生した。現場に残された弾痕から、犯行に用いられたのは自衛隊が保有していないAK-12であることが判明し、内閣総理大臣の須藤と内閣調査室長の坊屋ぼうやを驚かせる。坊屋は宇梶剛士に似ている。

 AK-12はカラシニコフ・コンツェルン社(旧:イズマッシュ社)が設計・製造したアサルトライフルで、AKライフルの第5世代にあたる。


 ロシア連邦軍への納入が提案され、テストが行われた結果、2015年4月、ロシア国防省はラトニク歩兵近代化計画の標準火器として、カラシニコフ・コンツェルン社が製造するアサルトライフルを選定したことを公表した。選定されたのは、AK-12と同様の5.45x39mm弾を使用するA545である。

 

 数日後、群馬で法事に出席していた豊後は、急遽東京への帰還を命じられる。途中つくばに寄り、愛人のパリスを訪ねた豊後だったが、パリスの上司であるピラルクーは数日前から外出しているという。

 警務部により特定隊員に指定され監視されているピラルクーの行方に一抹の不安を覚える豊後。愛人の訪問に不穏なものを覚えたパリスは、つくばセンター駅へ向かい、かつての恋人である目黒桃太郎と再会する。そして桃太郎の姿を追ったパリスは、パリスを制止する若い男達を振り切り、強引に『つくばエクスプレス』に乗り込んだ。


 パリスの只ならぬ雰囲気に後を追って『つくばエクスプレス』に乗り込んだ桃太郎だったが、守谷駅停車中に列車の周りで不審な動きをする男たちを目撃する。桃太郎はパリスに真相を言うよう言い寄るが、そこへAK-12を構えた男達が車両を制圧し始める。彼らはピラルクーを中心に、中国に媚を売り、腐敗しきっている誠心党の現政権へのクーデター『ペガサス作戦』を宣言。自衛官と共に『つくばエクスプレス』をトレインジャックし、黒幕のプルートを担ぎ、一部の自衛隊の最高幹部とともに武装蜂起したのだ。彼らの目的は暴走した須藤を倒すこと。そのために軍事力を用いて政府を制圧し、内閣総理大臣を拘束、憲法改正を断行するという。


 豊後はかつて、自衛隊内でイジメを受けていた別所を尋問するが、別所は舌を噛み切って自殺。しかし別所が乗っていた車から『ペガサス作戦』の作戦計画書が発見される。自衛隊による武装蜂起計画という未曽有の事態に、須藤首相は副首相の浅井壱太と辺銀ぺんぎん統幕議長、そして陸海空自衛隊にクーデターの秘密裏の鎮圧を命令。未蜂起の部隊を次々と武装解除する一方で、蜂起した部隊も包囲した上で全滅させていく。一方、須藤はプルートに、クーデター鎮圧後の議席数の配分を相談してプルートに咎められる。さらに、CIAが戦略・情報・人脈を使って介入してくる。


 桃太郎は、車掌を射殺し蜂起部隊が次々と鎮圧されてもなおクーデターを敢行しようとするパリスたちを責める。そしてプルートが軽井沢にある須藤の別荘で毒殺された。


 一方の蛍はグアムにメチャクチャ行きたかった。茨城県民は自由に行動が出来ないので、栃木に住んでるポールって友人に柳生裕二の居場所を探らせた。


 10月20日、大学で講義を受けているとポールからLINEがあった。

『堂ヶ島に奴はいる』

 地図が添付されていた。

 蛍は優等生でほとんど単位を取ってしまっていた。丁度、明日は大学に行く予定はなかった。

『平家物語』のクソつまらない講義を終え、階段教室から出ると赤尾杉貫太郎あかおすぎかんたろうに出食わした。赤尾杉は古代ゼミの顧問で、蛍は赤尾杉ゼミに所属していた。

「浅井君、卒論の準備は順調か?」

「バッチリです」

 蛍は蛇神話について研究していた。3月に発表会がある。

「期待してるぞ」


 17時頃、下大島にあるファミレスで睦月と落ち合った。

 1970年に創業したというこの店の看板メニューはハンバーグとエビフライだ。

「就活は順調なのか?」

「パパが生きてる頃は都内にもいけたけど、須藤に歯向かったから茨城から出られなくなった」

 睦月の父親、雷也は古くから須藤家と付き合いがあったので睦月も特別待遇されていた。

「木を倒したり爆薬で落石を起こして道を塞ぐって手はどうかな?」

 蛍が言うと、睦月がキョロキョロした。店内には2人以外には誰もいない。

「ブレーキに細工をして効かないようにするって方法もあるわ」

「話は変わるが、桃太郎と連絡取れない」

「未だにau使ってるんだ。auはトラブル多いから変えた方がいいってアドバイスしたんだけどな?」

 店内では吉幾三の『俺ら東京さ行ぐだ』が流れている。茨城県民は東京嫌いが多いのに、ならず者に目をつけられたら大変だ。

 蛍はハンバーグ、睦月はエビフライを頼んだ。

 食べながら楽しくおしゃべりした。  

 お笑い魔法を発動させるためにミスタービーンやサンドイッチマンの話をした。

「サンドイッチマンの寿司屋に入って、きたねー寿司屋だなって言うネタは面白い」

「サンドイッチマンって面白い?」

 蛍は冷や冷やした。ここぞってときにバンテリンみたく効かないと意味がない。

 アンガールズの真似をした。

 江頭2:50の真似をしようと服を脱ごうとしたら睦月に咎められた。

 標的を始末する前に公然わいせつ罪で逮捕されたら始末が悪い。

 須藤首相は仮面ライダーやウルトラマンが好きで、未だにフィギュアを買ったりしてるらしい。

『首相は幼稚ですね?』と小馬鹿にした議員の首を絞めて須藤は殺した。

 国民は特撮を見るのが義務化されている。それを月末にレポートして首相にメールで送らないといけない。

 蛍は『ウルトラマン80』について調べた。

 激しかった怪獣との戦いが過去のものとなり、地球には平和が続いていた。


 そんなある日、桜ヶ岡中学校に新人教師・矢的 やまとたけしが赴任。「一所懸命」をモットーとする彼は1年E組を受け持つ一方、5年ぶりとなる怪獣復活を確信して密かに調査を続けていた。矢的こそ、ウルトラマン80(エイティ)の仮の姿だった。M78星雲から秘密裏に地球に派遣された彼は、人間の負の感情・マイナスエネルギーが怪獣を生み出すことに気付き、それを根本から断つために教鞭を取っていた。


 5年ぶりに出現した怪獣クレッセントを倒した後、矢的は地球防衛軍の極東エリア・UGM(ユージーエム)のオオヤマ一樹キャップからのスカウトを受け、UGMに入隊。UGM隊員や教師、そしてウルトラマンを掛け持ちしつつ、地球平和のために奮闘する。

 

『「新しいウルトラマン」としての新機軸として、主人公が中学校の教師となり学校が日常の舞台とされた。企画書では児童の殺人や自殺といった暗い世相に言及し、「“生命の尊さ”、“愛の美しさ”、“勇気の誇らしさ”を啓蒙し、“ウルトラ文化”と呼ばれる子供文化を作り上げていきたい」とし、その手段として「ウルトラマン=先生というドラマ設定とした」と記されている。こうして、当時の子供たちを取り巻く不穏な世相を象徴する形で、「地球人の憎しみ、悲しみなどの邪悪な心(マイナスエネルギー)が怪獣を生み出す」という設定を導入し、ウルトラマン80は怪獣と直接戦うだけではなく、「怪獣を生み出す人間の邪悪な心を正すため、教師として子供たちの教育に取り組む」というドラマ作りが行われた』

 食後、ノートパソコンを使ってサクサク作ってメールを送信した。


 翌日の朝早く、睦月の運転するサイドカーで堂ヶ島に向かった。堂ヶ島は静岡県西伊豆町にやって来た。

 標高1,000m程度の山稜から流れる宇久須川と仁科川、この2河川の河口付近に主な市街地を形成し、その間の入江にも小規模な集落を形成する。この宇久須川と仁科川のどちらも河口に砂浜を形成し、毎年多くの海水浴客を呼ぶ。海岸地形は複雑で小島が多く、黄金崎などの景勝地で知られ、一帯の海岸が『伊豆西南海岸』として国指定の名勝に指定されており、富士箱根伊豆国立公園の一部にも指定されている。気候は温暖な海洋性気候で平均気温は16℃程。これは黒潮の影響を強く受けているためである。

「堂ヶ島って伊豆の何て呼ばれてるか知ってる?」

 操縦しながら睦月が言った。

「加山雄三」

 堂ヶ島には加山雄三ミュージアムがある。

「『お嫁においで』が有名だよね。ハズレ〜」

「ヒントは『おまた〜』」

「又吉直樹」

「松嶋菜々子が出てた車のCM知らない?You Tubeで見た」

「松島か」

 背後から見覚えのある黒い車が現れた。

 飯能で蛍たちを襲った刺客だ。

 睦月が蛍の顔を見た。睦月はゲラゲラ笑ってる。

「何だよ失礼だな〜」

「鼻水が垂れてる」

「タラリ〜鼻から鼻水〜」

 暗雲が立ち込め、稲妻が落ちてきて黒い車を大破させた。

 運転席から転げ落ちたのが赤尾杉だったからおったまげ〜。

 

 2人は三四郎島にやって来た。象島(伝兵衛島)、中ノ島、沖ノ瀬島、高島の4つからなる島の総称。もしくは象島、中ノ島、高島の3つからなる島の総称。駿河湾上、伊豆半島の沖合い200m程のところにある。干潮時には一番伊豆半島に近い象島(伝兵衛島)まで幅30mほどの瀬が現れ、大潮のときの干潮時には砂州ができるため歩いて渡ることができる(タイダル・アイランド)。この砂州を地元住民は瀬浜と呼ぶ。

 三四郎島の名は源頼朝の家臣、「伊豆の三四郎」にちなむ。また彼と町の娘「小雪」との悲恋伝説が残っている。

 伝兵衛島までやってきたとき、マシンガンを手にした裕二がやって来た。

 防弾チョッキを蛍は身につけていたが暑くて大変。

 裕二はマシンガンを放ったが、蛍は見えぬ早業で銃弾を躱した。

 蛍はバックルガンで裕二を始末した。

「ジーちゃん、ありがとう」

 不思議な黒い玉のお陰だ。

 

 ベルトのバックル部分がピストルになってる。ナチスドイツの高官も使ったことのある暗器だ。バックルの蓋を開き、左側のバレルを起こしトリガーを押すとバババババッ!と銃弾が炸裂する。

 これまで蛍はこれといった手柄を立てていなかったが、柳生裕二を倒したことで須藤からの評判も上がった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る