第9話 王室舞踏会と伊達男

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モリーは日が高く登り、街を漂っていた朝霧が完全に晴れたところで、モントゴメリー家の馬車で外出した。この日は珍しく母も妹も買い物に行かなかったのだ。




御者に、人通りの多い大通り沿いに進むように伝えて揺られること二十分、イーストエンドの下町に入った。このあたりは建物が密集し、昼間でも薄暗い。




御者は彼女を一人で行かせることに渋ったが、モリーは「大丈夫だから!」と啖呵を切って、雑踏に踏み込んだ。




港が近いせいか、筋骨隆々とした荷役たちが多い。それに、ちょこまか動く浮浪児たち。屋台からは魚や鳥を焼く匂いが漂い、日用雑貨や舶来品を売り捌く物売りたちの威勢の良い声が響く。




道ゆく人々が、興味深そうにモリーに視線を向けた。彼女のような〝上流階級のご婦人〟は明らかに浮いている。




よからぬ輩たちからすれば、格好の獲物だ。スリ、人攫い、強盗、強姦魔がいまこの瞬間も舌なめずりしていてもおかしくない。




じっさい、二人の浮浪児が人混みを縫って近づいてきた。ひゃろりとしたのっぽと、メガネのちびすけだ。彼らはモリーの背後に付くと、のっぽが長い手を彼女の首筋にそっと伸ばした。真珠のネックレスをかっぱらおうというのだ。




だが、彼女は素早くのっぽの手首を掴んだ。もちろん予知だ。路地に降り立った瞬間から一秒先の未来を見続けていたのだ。イーストエンドで主義主張を貫こうとするほと命知らずではない。




彼女はのっぽの手首を捻った。


彼が悲鳴をあげ、ちびすけが「て、てめえ!」と声を震わせながら凄む。




モリーは意図的に低い声でいった。


「わたしに手を出そうなんていい度胸ね。これでも、あなたたちの女王様の友人なのよ?」




ちびすけが「げ? 姉貴の?」と驚く。




「わかったら、すぐに知らせなさい。恩寵仲間のメアリーだといえばすぐに分かるから」




ちびすけは人混みをかきわけてすっ飛んでいった。




のっぽは手首をさすりながら案内役を務めた。モリーの先に立ってちびすけの後を追う。




目貫通りを離れ、路地に入る。建物と建物の間の隙間道を抜け、石段を上り下りすると、築百年は経っていそうなボロボロの倉庫にたどり着いた。




あたりには大勢の浮浪児がたむろしている。あるものは壁にもたれてタバコを吸いながら、あるものは石垣の上でチーズのかけらをかじりながら、またあるものはナイフでリンゴの皮を剥きながら、突然ナワバリに踏み込んできたモリーに目を向けた。




ナイフの少年が、「よお、トールズ、なんだよそのスケ。年増の売春婦でも買ったのか?」とからかう。




のっぽが「黙れよ!この人は姉御の客だぞ!」と答えると、少年は驚いて手を滑らせた。ナイフが滑ったのか、いてっと叫ぶ。




ちびすけが倉庫から飛び出してきた。




「あ、もうこんなところまで。よかった。姉御ですが、お姉さんにお会いするそうです」




「ありがとう」モリーが頭を撫でると、ちびすけは前歯の抜けた口で笑みを浮かべた。




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倉庫のサイズは、大きめのダンスホールほどだった。




中には木製のベッドと勉学用の机が整然と並び、天窓から差し込む光に照らされている。壁の一面は百科事典の類がぎっちりと詰まった本棚になっている。




西側の角では、歳上の少年たちが黒板を使って幼い子供たちに文字を教えていた。




南側の角では少女たちが、共同で炊事している。漂う香りからしてフィッシュアンドチップスを作っているようだ。揚がった魚は、男の子たちが袋に包んで外に運び出す。通りで売り歩くのだろう。




モリーはのっぽに付き従って、北の角にあった急な階段を登った。踏み板が不安な音を立てる。




上はちょっとしたテラスになっていた。この建物はもともとなんらかの工場だったのだろう。当時は、このテラスから監督官が労働者たちを見下ろしていたに違いない。




いま、テラスにはグウェンドリン・ハワードが新聞片手に立っていた。白金色の髪を三つ編みにし、ドレスではなくズボンとシャツを着ている。ポケットからは瀟洒な金時計の鎖がのぞき、革靴は磨き上げられ、曇りひとつない。




グウェンドリンの隣には、紳士服姿の太った男がいた。




男が不安げにいう。


「本当によろしいのですか? 投機筋から報告では、石油はまだまだ値上がりするのですよ」




「かまいません。今日中に全部売ってください」


グウェンドリンは全身から強烈な自信をみなぎらせていた。


どこかペンドラゴン卿の雰囲気に似ている。




「わたしには理解しかねる判断ですが。何か情報を手にされたのですか? 石油が暴落する?」と、男。




グウェンドリンが意味ありげな笑みを浮かべる。


「どうでしょう。ただ、わたしがあなたなら手持ちの石油株はすべて処分しますわ」




肥満男性は小さく頭を下げると、グウェンドリンのもとを離れ、モリーの横を通って階段を駆け降りた。




グウェンドリンがテラスに置かれたテーブルを顎で示した。


「おはよう、お姉様。ちょうど紅茶が入ったところですの。一緒に楽しみましょう」




角に控えていたエプロン姿の少年が、盆を手にすっと近づいてくる。ダージリンの芳しい香りがする。




少年はソーサーに乗せたカップを丁寧にモリーに差し出し、ぎろりと彼女を一瞥した。グウェンドリンに格別にもてなされていることが気に食わないらしい。




そのグウェンドリンがいう。


「それで、こんな朝早くにどうなされたの? しかも、いつもの公園ではなく、我が家までいらっしゃるだなんて」




モリーはグウェンドリンが握ってる新聞を指した。


「それよ」


一面には、〝バネ足ロンドンにあらわる!〟とあった。




グウェンドリンは右目を閉じて新聞を眺めた。


「〝バネ足〟?」


それから、右目を開き、左目だけで新聞を眺める。


「お姉さまの名前は出ていませんわ」




グウェンドリンはモリーが直接知る、自分以外のただ一人の予知能力者だ。彼女の能力は〝未来新聞〟。新聞を左目で見れば、その新聞の〝次号〟を目にすることができる。




経済紙を見れば、一日先の株式市場の値動きがわかるし、競馬新聞ならレース結果、ゴシップ紙なら有名人のスキャンダルを掴むこともできる。




モリーがバネ足に襲われたさいの顛末を話すと、グウェンドリンが顔を顰めた。


「気にいりません」




「わたしたち予知の恩寵者を狙う殺人鬼だものね。あなたも身辺に気をつけるべきだわ」




「その点は心配いりませんわ。わたしが気にいらないのは、マーク・ペンドラゴンがお姉さまを狙った不届き物を仕留め損ったことです。あれほどの恩寵を持っているのに!」




「わたしが足を引っ張ったのかも」




グウェンドリンが目を細めた。


「庇うだなんて。お姉様、まさかペンドラゴン卿に好意を抱いたわけではありませんよね?」




「あんな高慢ちき男と? 冗談じゃないわ! とにかく、身の回りには気をつけて。わたしもしばらくは家に閉じこもることにするから」




「正直なところ、わたしはバネ足に襲ってきてほしいですわ。そうすれば、お姉さまを傷つけようとした男をこの世から消し去れますから」




そのとき、階下で浮浪児たちがざわついた。


見れば、人の背丈ほどもある巨大な木箱が、十数人がかりで倉庫内に運び込まれるところだった。




「あれは?」




モリーの問いにグウェンドリンが口の端を持ち上げた。


「お姉さまが知る必要のないことですわ」




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夕刻、マーク・ペンドラゴンは捜査局本部でもあるウェストハウス屋敷の大広間で書類の山と格闘していた。朝方、モントゴメリー家のタウンハウスから戻り、三時間ほど仮眠して以降、事務作業に追われている。窓からは西日が差し込んでいる。未決書類がまだまだ残っているが、そろそろメアリー嬢の警護に向かう時間だ。




現在、モントゴメリー家の周囲には能力者を含めた十人の局員を配置している。自分がいけば一人で済むので、その十人は家に帰してやれる。スコットランドヤードとの共同捜査にも力を割いているので、極端な人手不足なのだ。




誰かが扉をノックする。


どうぞ、と返すと正装したシシリアンが入ってきた。




銀縁の眼鏡のふちを持ち上げていう。


「マーク様、本当にわたくしが代理として出席してよろしいのですか? ヴィクトリア様に必ず出るよういわれたのでしょう?」




「市民がバネ足に怯える今、市中を警護するのが〝蒼い男〟の義務だ。彼女もわかってくれるさ」




「素晴らしい使命感ですね。しかし、今晩、メアリー嬢は屋敷にはいらっしゃいませんよ?」




「何?」




「局員の報告では、服飾業者の出入りがあったそうです。回してもらった招待客リストにもモントゴメリーの名がありますので、おそらく、晩餐会に出席するのではないかと。まあ、ご安心ください。わたくしが彼女に付いておきますので」




シシリアンがニッと笑った。




ーーーー




ロイグリア王室主催の晩餐会は、バッキンガムではなく、かつての居城であるホワイトホール宮殿で開かれるのが常だ。




その大広間には飾り柱が立ち並び、頭上ではルーベンスの描いた天使たちが神々しい笑みを浮かべる。楽隊は完璧な旋律を奏で、豪奢なシャンデリアの光が、手を取り合って踊る若手貴族たちの美麗な姿をやわらかに照らし出していた。




この国のすべての乙女が、出席を熱望する一大パーティだが、モリーはいつも以上にフロアの隅に引っ込んでいた。




身に纏っている青色のドレスは、複雑なドレープを生かした作りで、仕立て屋の腕の良さを感じさせる見事な出来だ。モントゴメリー夫人がこの晩餐会に備えて、半年も前から発注していたものだ。




今朝方、夫人は運び込まれたドレスを手に、「この服の力なら、あなたのような不器量な娘でもお相手の一人や二人は見つかるわ!」と大張り切りきり。モリーとしてはバネ足に狙われているのだから、ぜひとも欠席したかったのだが、とてもそんなことをいいだせる雰囲気ではなかった。




バネ足の襲撃に備え、日の高いうちに馬車でホワイトホールに移動したところ、宮殿の守衛たちからは冷たい目で見られた。彼らは「こんなに早くにやってくるとは、なんと常識のないご婦人か」といいたげだった。




そのあとは、宮殿の図書室で最新の科学雑誌を読んで時間を潰した。そのまま晩餐会の終わりまで引きこもっていたかったが、空腹には勝てない。彼女はそろそろと会場に入り、隅で飲食に勤しんでいた。




レタスとローストポークのサンドイッチを中程まで平らげたとき、まわりの貴族たちの視線が、自分に向いていることに気づいた。どうやら、先日、ペンドラゴン卿に飲み物をぶちまけた件が広まっていたらしい。




おしゃべり女たちのひそひそ話がいやおうなしに耳に入る。


「見て、あそこにいるのはモントゴメリー家のメアリーさんじゃない?」「ああ、あの大きな身体、間違いないわね」「あんなオールドミスには絶対になりたくないわね」「聞いた? ペンドラゴン公爵にあの方がなさったこと」「ええ、ぞっとするわ。未婚のまま歳を重ねると、きっと頭がおかしくなってしまうのね」


おおむね、このような具合だ。




モリーが鴨のテリーヌを咀嚼しながら、早く図書室に戻ろう、と考えていると、ふいに真横から「じつに美しいドレスですね。しかし、それを身につけてる御本人はもっとお美しい」と声がかかった。




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「あら、マーク? 今日は市中巡回をするのではなかったのですか?」




マーク・ペンドラゴンにこういったのは、ロイグリア女王代理のヴィクトリアだ。




彼女はきらきら輝く黄金色のドレスを纏っていた。いつも以上に派手で、豪奢で、〝太陽の沈まぬ帝国〟ともいわれるその治世を象徴するかのようだ。




この舞踏会はその治世をさらに盤石せんとするもの。すなわち、彼女の婿探しのためのものだ。国内の有力貴族の子弟はもちろんのこと、諸外国の王子たちも参加している。




彼らが親から受けるプレッシャーは相当のものだろう。もし、女王代理の婿の座を射止めれば、一族の栄華、国の発展は未来永劫約束される。




逆に、男女のバランスを取るために集められた独身女性は、見るからにパッとしない。今期、社交界一の美女として騒がれているクリフォード嬢の姿もないし、リール子爵の双子の美姫もいない。ヴィクトリア自身が飛び抜けた美女なのだから、そんな小細工は必要ないだろうに、会場内の女性は、ふだんなら壁の花になるようなタイプばかりだった。




マークはレモネードに口をつけながら答えた。


「この晩餐会も市中の一部ですから」




ヴィクトリアが苦笑する。


「ここはホワイトホール宮殿ですよ? 衛兵の三分の一は貴族の血を引く恩寵者。世界で一番安全な場所だと思うのだけれど」




「相手が相手ですから」




「バネ足が襲撃してくるかもと? つまり、ここに集った貴族の子弟のなかに予知の恩寵を持つものがいるの? まあ、それは、なかなかのスキャンダルね。クリフォード子爵の娘さん以外に、もう一人いただなんて」




「クリフォード嬢の予知は出鱈目、本物は一人だけですよ」




「でも、その方はなぜ自分の屋敷に閉じこもっていないの? 殺人鬼に狙われているのでしょう?」




「ぼくも、彼女が、なぜそうしないのか理解できませんが、予知の力で危機を回避できると踏んだのかもしれませんね」




「彼女?」ヴィクトリアの声が楽しげになった。「その方、女性なの? あなたがそんなに一生懸命だなんて、ひょっとして、あなたーー」




マークは手を横に振った。


「やめてください。ほんのわずかでもそんな風に思われたくありませんね。彼女は本当にとんでもない女性なんです。このぼくに水をかけ、ほおをはたき、挙句、ぼくからの庇護の申し出をはねつけたんですよ? 信じられますか? 無礼にもほどがある! あんな女、仕事でなければ顔も見たくない」




ヴィクトリアは「そう」と微笑みながら目を細めた。




「本当に何もないですからね」と、マーク。




「それで、その無礼なお嬢さんは、どなた?」




彼がメアリー嬢を探して目線を彷徨わせていると、シシリアンがあわてた様子で会場内を横切るさまが目に入った。シシリアンの進行方向に視線を向けると、部屋の隅にお目当てのメアリー嬢がいた。




背の高い男が、彼女に話しかけている。黒い髪に黒い瞳。クラバットまで灰色だ。




ヴィクトリアが楽しそうに口角をあげた。


「あらあら、アバコーン公爵は、その無礼なお嬢さんが好みなのかしら?」




マークは憮然として腕を組んだ。




あの卑劣漢がメアリー嬢に接近しているだと?




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モリーのドレスを誉めてきた男は、たいへんな伊達男だった。夜を映し取ったかのような黒い髪に、洒脱な着こなし。身長はモリーに見合うほど高く、顔もいい。柔らかな笑みは、女性ならば誰もが虜になってしまうだろう。




伊達男が小さく頭を下げた。


「これは失礼。紹介なしに女性に話しかけることは、たいへんな不作法と承知しております。しかし、あなたの美しさの前に、ついそのことを忘れてしまったのです。この愚かな男をお許しください」




彼女は笑みを返した。


「大丈夫ですわ。どうせわたくしには失うべき名誉などありませんから。わたくしは極めて不作法な女として知られているのです」




「おや、そうなのですか? わたしの目にはあなたは立派な淑女にしか見えませんが。そして、わたし以外の男はその素晴らしい女性を放っておく愚か者です」




近くにいた女性三人組が「嘘でしょう? カルロマン様、なんだってモントゴメリー家のメアリーさんに言い寄ってるの?」「きっと、メアリーさんがどういう人だかご存知ないのよ!教えて差し上げないと」と、ひそひそ話す声が聞こえた。




モリーはぎょっとして目の前の伊達男を見つめた。


「カルロマン? ひょっとしてアバコーン公ですか?」




アバコーン公カルロマン・フィッツジェラルド、社交界の情報に疎いモリーでも名前くらいは知っている。女王代理ヴィクトリア陛下の右腕。恩寵さえあれば王になれた男。恩寵こそないものの、地位と財産と外見は第一級で、ここ数年、ペンドラゴン兄弟とともに結婚市場での人気を独占している。




カルロマンが胸に手を当てた。


「紹介は必要ないようですね。わたくしは恩寵に恵まれない哀れな男、そして、あなたもまた同じ、ですよね? モントゴメリー家のメアリーさん」




「ええ、もう少し詳しくいうなら、つい先日、ペンドラゴン卿に飲み物をぶちまけた頭のおかしな女ですわ」




「ああ!あの噂の!」カルロマンが笑った。「しかし、わたしは問題のある行為とは思いませんよ。この国の女性は感情を隠すように育てられていますが、人間は感じたままに生きることができるべきです。水をかけた? マークにはそれくらいでちょうどいいでしょう。ただ、今後には気をつけるべきですがね」




「卿をご存知ですの?」




「ええ、旧知の間柄です。しかし、友人ではありません」




「まあ。それはどういうことですの?」




「つまり、わたしはたとえ相手がどれほど礼儀を失した人間であれ、他人の過去は軽々に話すべきではないと思うのです」




ペンドラゴン卿の高慢と無礼の被害にあった人がここにもいたのだわ。と、モリーは思った。そして、二人の間に何があったのか知りたくなった。




「カルロマン様、あの増上慢のペンドラゴン卿をかばうお心はじつに紳士的ですが、警告をくださるなら、その根拠もお話しいただかないと。それに、わたくしが他の人間に話す心配はありませんわ。ご存知のように、他の貴族の皆様から距離をとられていますので」




彼は眉間に皺を寄せ、それから息を吐いた。


「たしかに、あなたはマークがどのような人間なのか、知っておくべきかもしれませんね」




モリーは頷いた。




カルロマンが遠くを見るように目を細める。


「イートン校時代の話です。わたしと彼は一人の女性を巡って争いました。そして、決闘することになった。詳細は聞かないでください。その女性の名誉に関わる話なのです」




「決闘!?〝蒼い男〟の恩寵者と?」




「彼はわたしに武器を使わずに素手で対決することを提案してきました。一見、正々堂々とした振る舞いです。わたしは承諾しました。そして、校舎から三マイルほど離れた荒れ野で対決したのです。立会人は付けませんでした。これはマークの希望です。銃を使うわけではないのだから、どちらも死にはしない。なら、立会人など不要だろう、と。そして、わたしたちは向かい合った。当時のわたしはいまよりずっと背が低かったが、彼の懐に潜り込めば勝機はある。わたしは何度拳を受けても立ち上がり、とうとう彼の腹に一発入れた。彼は青ざめ、そして恩寵を使った」




「まあ!なんて卑劣な!」




「マークを信じたわたしが愚かだったのです」




「いいえ、愚かなのは決闘を汚したペンドラゴン卿の方ですわ。ああ、もう! もう一度引っ叩いてやりたい!」


モリーは手をぶんぶん振り回した。




「やめてください!」カルロマンが焦った調子でいう。「いまさら何をしたところで、すべて終わったことです」




「なら、せめて、ペンドラゴン卿が決闘で何をしたのかを、みなに知らせるべきですわ」




「無駄です。彼は彼の物語を話すでしょう。それに、そのようなことをすればあなたの身に何が起こるか。あなたのように、美しい人が酷い目に遭うのは見たくありません」




「まあ、美人だなんて。ご冗談を」


もちろん、お世辞だとはわかっているが、カルロマンほどの貴人に褒められて悪い気はしなかった。




彼がまっすぐにモリーを見つめた。


「わたしは冗談はいいませんよ。あなたは本当にお綺麗だ。メアリー・モントゴメリーさん、よろしければ、ぜひ一緒にダンスなどいかがでしょうか」




モリーが差し出された手を取ろうとしたとき、誰かが二人の間に割って入った。




「待て!彼女と踊るなぞ許さんぞ!」




現れたペンドラゴン卿は全身から怒りを発散していた。



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