幕間

幕間

 商店街の道端に落ちていた本から始まった一連の騒動を経て、俺は門倉朱雀かどくらすざくに出会い、その天才的頭脳に助けられた。


 門倉は万年タートルネックにコート着用という奇妙な男で、大学にも社会にも馴染めていないれっきとした社会不適合者である。その上ぞっとするような美形と長髪とが、ことさら奴の浮世離れに拍車をかけているらしかった。


 よもやこの偏物に感化されたなんてことはないだろうが、門倉と知り合ってから、なぜだか俺はこんなことを考える。


 何かとの邂逅かいこうが人を変える、といったことは現実に有り得るんだろうか。出会いの化学反応は本当に存在する?


 門倉朱雀と出会ったことで、俺の人生も変わるだろうか? あるいは、俺と出会った門倉は? 「お前と会えてよかった」なんてドラマチック過ぎる台詞だが、いつか心の底からそう思える日は来るのだろうか?


 そんなの幕が下りてみないと分からない、というのは門倉朱雀の言いぐさだ。


「幕? 死んだら分かるってことか?」

「ランドセルの色がブラックじゃなくブルーで良かったかどうか、なんて卒業してみないと分からないだろう。少なくとも、小学一年生には答えられない問いだよ」

「あー」

 分かるような、分からないような。


「そういうわけで神尾かみおくん。いつか地獄で再会できたら、出会いが人生を変えたかどうか、答え合わせをしよう」


 こういうところで天国を目指さない偏屈さが、いかにもという気がして俺は笑った。変人とはかくあるべし。俺を地獄へ道連れする気でいるのもまた然り。


 だから、俺の返事はこうである。

「地獄で再会したそのときは、俺も『お前と会えてよかった』って言ってやるよ」

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