Ⅱ 寄り添う魂

 僕は暫くその二人の霊を見守る事にした。というのも人間同士でもトラブルがあるように霊の間でもトラブルがあることを日常的に霊が見える僕は知っていた。年上の女の子の霊が生前の恨みを小さい女の子の霊にぶつける、つまりいじめるのではないかと気になり、無視を決め込むことはできなかった。僕は冷蔵庫から冷えたコーラを取り出すと公園の見える窓辺に椅子を動かして座り、栓を開けて口をつけた。


 小さい女の子の霊はまだ自分が霊になったことを分かっていないようだった。お母さんに連れられて公園に来た同じぐらいの歳の生きた男の子が砂場で遊び始めると、その女の子の霊も一緒に遊ぼうとした。しかし男の子が遊んでいる砂場遊び用のスコップを借りようと手を伸ばしても掴めない。しまいには顔をクシャクシャにして泣き出してしまった。すると少し離れたところで見守っていた年上の女の子の霊が近づいて泣きじゃくる小さな女の子の霊を抱き上げた。そしてひとしきり頬ずりをすると、小さい女の子の霊を抱き上げたまま近くのベンチに向かって歩き出した。重いのか足取りが危うい。それでも一生懸命踏ん張りながらベンチにたどり着くとベンチに小さい女の子の霊を座らせた。そして年上の女の子の霊も隣に座ると小さい女の子の霊に膝枕をしてやり、頭を優しく撫で始めた。二人の霊の様子は本来であれば微笑ほほえましい光景かもしれない。だがそこには常に年上の女の子が酷い虐待を受けた姿があり、僕は時折その痛々しさにさいなまれながら二人を見守り続けた。


 結局その日一日かけて二人の霊を見守ったが、年上の女の子の霊は終始小さい女の子の霊を可愛かわいがり、またいつくしんだ。私は自然と年上の女の子の霊が危害を加えるような事はなさそうだという考えに至り、穏やかな気持ちで二つの魂を見守っていた。

 夕方になると二人の霊はどちらともなく姿を消していた。多分、依代よりしろに帰ったのだろう。温かい気持ちに満たされた僕はカーテンを閉めると夕食の準備に取り掛かった。

 その日の夕食の準備をしている最中、テレビから聞き覚えのある単語が耳に入り僕は手を止めた。ニュース番組で川に入ってダイビングスーツを着た人が何か探している映像が映されていた。聞き覚えがあったのは近所を流れる川の名だった。誰かがその川で行方不明になったらしく捜索が行われているらしい。次の瞬間、僕は息を呑んだ。テレビの画面に先程まで裏の公園で遊んでいた小さい女の子の霊に印象がよく似た女の子が大写しになっていた。

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